プロローグ
私が男のことを気にすることなんて、きっと今まで無かっただろう。むしろ女の子の方が可愛いと感じるから、自分はホモなんじゃないだろうかと心配していたくらい私は男に無頓着なのだ。
しかし今、私には気になる人がいる。その男の名は、山田。
同じ高校なのに顔も知らないこの男のことが、私は今ものすごく気になるのだ。
始めてその人のことに気づいたのは先々週の音楽の時間のことだった。
私は何気ない生活の習慣で音楽室に移動した。火曜の三、四時間目は音楽の授業で音楽室に教室を移動することになっている。教室の席は出席番号順で、山元雅美という私の名の順では、窓際の後ろから三番目にあたる。
この席で私はその山田のことを知ったのだ。
この授業の半分は大体、教科書の楽譜をノートに写すことばかりさせる。その面倒な作業を、茶色い机の上で黙々と行っているとき、風でカーテンが翻り机に日の光が差した。
自分の手元で木の机の木目が光ったような気がした。ノートをずらしてみると、そこには何か文字が書かれている。どうやら女の子の字だ。
『山田先輩。二年の山下里奈です。
先輩がこの席だと聞いてこっそりお手紙しました。
先輩は好きな人とかいるんですか?
もし良かったら、私と付き合ってください。
PS.読んだ後はすぐ消してくださいね。』
(ああ・・・里奈ちゃん・・・)
同じ美術部の山下里奈は、とても可愛い子で少しうっかり者。それにしてもうっかりしすぎだ・・・。確かにわかり辛いが、まったく持ってこっそりになっていない。
私は見て見ぬふりをし、里奈ちゃんの恋の成就を祈ってまた音符を一つ書いた。
そしてその週の木曜日、掃除当番で音楽室の机を運んでいるとき、私は偶然自分の席をみてしまった。
以前あった里奈ちゃんの文字は消され、新たの文字が書かれている。私はそれを読んだ。
『女に興味はねー』
(なんてやつだ・・・・。)
なんとカッコ悪いのだろう。カッコを付けているようにも読み取れるが、これじゃあ私と同じ、ホモじゃないか。
(里奈ちゃん、こいつのどこが良かったんだろう・・?)
私はもう一度机の文字を読んだ。『女に興味はねー』ため息が出る。
掃除も終わり音楽室を出るとき、私はまたあの席を見つけた。あれではあまりにも里奈ちゃんが可愛そうだ。私はカバンを下ろし、筆箱を取り出した。
(用件が同じなら書き換えたって大丈夫だよね)
消しゴムを取り出し、汚い文字を消し、シャーペンで一言『ごめん』と書き換えた。
これは里奈ちゃんの手紙を見た私からのメッセージでもあった。これから美術部で里奈ちゃんと顔を合わせるのも気が向かないので、その日はそのまま帰路についた。
これで終わりだと思っていたのに、次の週になんとまた里奈ちゃんの字が書かれていた。
『お返事ありがとうございます。
丁寧に誤ってもらって私もすっぱり諦める事が出来ました。
山田先輩の言葉に習っていろんな恋をしたいと思います。』
(いったい何のこと?!)
私は一言『ごめん』と書いただけだ。丁寧とか、言葉に習ってなどと返事が来るはずが無い。里奈ちゃんは納得しているから良いが、これでは私が納得がいかない。
誰か、私の文字を書き換えた人がいる!
こうやって文を打つのは久々で、どうもうまくいきません。
脱字をお許しください。