第二球 桜の木の下で
”カコーン カコーン”
体育館にピン球の跳ねる音が鳴り響いていた。入学式後、始業式があり始業式から一週間くらいが経っていた。俺は卓球をやるつもりは一切ない、だが俺は体育館に連れてこられていた…… ったく、面倒くせぇなあのアホ共が。仮入部だか何だか知らないけど二人で行けっつーの。あー、もう帰って良いかな。勝手に帰って良いかな。笹村は千秋にそそのかされ卓球部に入るとか言いだすし、また一人で登下校かよ、寂しいぜコンチクショウ。まあ、時間を気にせず桜を見れるって点では良いけどな! あれ、なんでだろう目から汗が……出てきたぞ? な、涙じゃねぇし汗だし心の汗だし。
「あ、一茶君。入る気になってくれた?」
「いや、あいつ等の付き添いで来ただけですよ」
入るわけねぇだろうがボケ。先輩だから言えないけど同級生だったらぶん殴ってるぞ、しつこ過ぎる。ってか人がしんみりしてる時に話かけてきてんじゃねぇよ、ボケ。普通、先輩に向ってボケを二回も言うことなんて滅多にないぞボケ。
「ん? 二回じゃなくて三回じゃないのかな?」
「ああ、そうすね」
って、心の声を読むんじゃねぇよ! まったく、安心して考えごとすら出来ねぇぜ。ってか、この先輩意外と怖ぇ……目が笑ってねぇよ、腹黒いオーラ出てるよ、出ちゃってるよ。俺の周りにはオーラ出てる奴が沢山、いんぜ。俺は一つのオーラも出てないけど。
ありゃ、腹黒オーラ消えてる。どったのかな? ……ああ、集合か。先輩達がすげぇ集まってるや。それにしても少ないねぇ、新入部員。まだ仮入部の段階だけど千秋と笹村しかいないじゃん。千秋が微妙って言ってたけど本当そうなんだな。先輩の人数は…二年が二人、三年が四人、か。おいおい、いくらなんでも少なすぎるだろう。団体どうやってたんだよ……補欠いねぇじゃねぇか、これが微妙な理由の一つか。練習見てみたけど、あれはさすが『名門』って感じだな。基本フリーだけど個人、個人が自分にあった練習をしているし、協力しあってる。この感じだとシングルスは強いんだろうけどダブルスはダメダメだな、こりゃ。推測だけどダブルスは二年の二人だ。あの二人、基本がなっていない。只、デタラメに卓球をしているだけだ。ダブルスは個々の力が強ければ強い程に強くなれる。まあ、パートナーとかの絆でもっと上手くなれるらしいけども。
あの人達は、個々の力が十点中、五点って感じだ。これじゃ合わせても10にしかならない。……これで、どうしてきたのだろうか。
あの人達は。ダブルスを落としてもシングルスに4人いるけどこれじゃキツいだろうなメンバー交換出来ないし。まあ、笹村と千秋が入ったから大丈夫だろ。千秋がどの程度までレベルアップしてるか知らねぇけどな。……って何考えてんだ俺、どうでもいいことなのに。あ、もう皆練習再開してら。千秋達に帰っていいかどうか聞くか。
「千秋ー! ちと、来てくれろ」
俺がそう言うと千秋は小走りで来てくれた。中断させられて不満そうな顔してるけど……
「もう、帰っていいか? 暇だし」
「別にいいけど……本当にやらないのか? あんだけ好きだったのに」
俺は「ああ」とだけ呟き体育館を出て行った。しっかし笹村楽しそうだったにぃ、あれなら勝つことに執着せずに楽しめそうだな、卓球を。まだまだだったけどこれから成長するだろう、アイツは。
んーっと、桜でも見たあと帰るかんな。学校いても暇だし一人だし。
体育館を出て少し歩くと桜を見上げボーっとしている少女が居た。誰だ? こいつ俺と同じ桜大好きっ子か? 俺と同じ寂しい奴も居るんだな、とニヤけながら俺は桜の木の近くにあるベンチに座った。生暖かい春の風が吹き花びらが舞う。いつもなら鬱陶しい風も何故か今なら心地いい。少しツンとする花の匂いが心を癒してくれる。俺は鞄からお茶を取り出すと少しだけ飲んだ、そして濡れた口を服の袖で拭う。
「あの、良かったらお茶少しだけくれませんか? 忘れちゃって……」
俺の前に立っていた少女は優しく微笑む、と同時に少し申し訳そうな顔をした。
くれって…俺の飲みかけだぞ? 知らない奴に、しかも男子に聞くのかよ。俺はどうでもいいけどさ、うん。なんか、こっちが申し訳なくなるぞよ。まあ、少女(同い年だけども)欲しがっているんだ上げないわけにはいかないだろう。
俺はポイっとペットボトルを投げる。すると少女は慌ててペットボトルを手に取った。
彼女はフタを取ると仕事終わりのサラリーマンがビールを飲む様に勢い良くお茶を飲んだ。うぉう、飲みっぷりいいねぇ嬢ちゃん。
マジですげぇな……よほど、喉渇いてたのか?
「ありがとうございます!」
ニッコりと微笑んだ彼女はペットボトルを差し出したが俺はそれを受け取らず「やるよ」とだけ言って、駐輪場に向った。
今の俺渋くね? カッケくね? マジ俺パネェ。まあ、そんなことはどうでも良いんだけども……可愛かったぞよ、あの子。もろタイプ。すんげぇ、タイプ。また今度会ったら話しかけてみよーっと。