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第84話 『大型案件』

「ようブラッド。最近よく会うな」


「あっ、ブラッドさん。お疲れ様です」


 商工ギルドまで案内され、建物内部にある会議室に入る。


 室内には先客がいた。


 会議室の一番奥、長テーブルの向こう側。明らかにボス席らしきポジションに、フレイがふんぞり返るように座っている。


 二つほど席を離して、下座側に冒険者ギルドの職員ことシルさんが背筋を伸ばし座っていた。


 察するに、二人はそれぞれ王都冒険者ギルドとオルディス冒険者ギルドの代表という感じだろうか。


 ちなみにここまでの道中で、簡単な説明をヴァイク氏から受けている。俺からは魔剣についての簡単な解説をした。


 それ以外の用件については機密事項が多いため、商工ギルドで説明するということだった。


「ブラッド様もどうぞおかけになってください」


「ああ」


 案内された席はフレイの隣の下座側の席だった。彼女と視線を交わし、シルさんにも目礼。それから席に就いた。


 ほぼ同じタイミングで、ヴァイク氏がテーブルの向かい側の席に就く。


 女性職員はアテンドだけだったらしく、頭を下げてから会議室から退出していった。


「……さて、皆さま。まずは、多忙の折お集まりいただきありがとうございます。すでに顔なじみの方もいらっしゃいますが、改めて。私はオルディス商工ギルドの渉外責任者を務めさせて頂いております、ヴァイク・ベルレボーグと申します」


 かしこまった様子で、ヴァイク氏が頭を下げた。


「ごたくはいい。で? 用件はなんだ。わざわざオレを呼びつけたってことは、それなりに楽しめそうな仕事なんだろうな? 相手は竜より強いんだろうなぁ?」


 威圧感たっぷりな口調でそう言い放ったのは、もちろんフレイだ。


「ひゅっ……!? も、もちろんですともフレイディア殿」


 ヴァイク氏の顔が引きつり、変な声が口から漏れる。


 だがそこはダンジョン都市オルディスの商人である。すぐに営業スマイルを顔に貼り付け、身振り手振りで説明を始めた。


 ……ちょっと手が震えてるのは見なかった振りをしておくか。


「現在、魔剣持ちの集団が裏社会で勢力を拡大し我々の経済活動を脅かしているのは、皆さまもご存じのとおりかと思います」


 ヴァイク氏は俺たちを見回して言った。


「すでにいくつかの盗賊団と手を組み、用心棒代だとか何かと因縁を付けてギルド所属の商人たちから金銭を巻き上げている事例も確認しております。もちろん当ギルドとしては、そのような事態を静観するつもりはありません」


 そういえば先日アリスと一緒に入った店でもそんなことがあったな。


 あれは俺たちがいたから良かったが、不幸にも被害に遭ってしまった店もあるということか。


「そのうち何人かはS級冒険者であるフレイディア殿や冒険者の皆さま、そしてオルディス衛兵隊の尽力もあり、捕縛することができました。ですが魔剣には『自死の呪詛』が込められていたらしく、魔剣持ちは全員、捕縛直後に自害してしまったのです。……ですが、ここにきて進展がありまして」


「つい最近捕縛された魔剣持ちから、アジトの場所が割れたんですよね」


 シルさんがヴァイク氏の説明を補足してくれる。


「ええ。これは店の方から聞いたのですが、因縁を吹っ掛けられたときに居合わせたお客の中に、偶然腕利きの冒険者がいたそうで。……その方が魔剣持ち制圧したさいに、自死の呪詛が発動する前に魔剣を奪うことに成功したようで、生きたまま捕らえることができたのです。もっともその方の名前までは分からず、衛兵側も『機密だ』と言って、その方の名前は教えてくれませんでしたが」


「……冒険者ギルドもその方の名前を聞きだしたかったのですが、衛兵サイドは『報復の可能性があるため教えられない』の一点張りで。……フレイさんではないですよね?」


「違うな。オレが倒したヤツは、放っておいたら全員すぐに死んじまったからな。つーかあいつら弱すぎないか? 魔剣ごときに憑り殺されるとか、根性なしにもほどがあるだろ」


「……できれば魔剣を奪って生け捕りにして欲しかったんですけどね」


 涼しい顔で言い放つフレイ。


 シルさんの頬がちょっとだけ引きつった。


 まあ、フレイに注文を付けること自体が不毛だ。


 ヤツは竜狩り以外の依頼は真面目に遂行する気なんてないだろうからな。


 どうせ魔剣持ち討伐の依頼を受けたのも、この辺りで竜を狩るための口実作りだったに違いない。


 等級A以上の冒険者が依頼で遠出する際は、ギルドから旅費が出るからな。


 つーか……


 魔剣持ちを生け捕りにした件、最近似たような事件に出くわしたような気がするんだが。


「…………ブラッドさん、どうかしましたか? 先ほどの事件について何か知ってらっしゃることでも?」


 どうやら挙動不審になっていたらしい。


 シルさんが俺の顔をじーっ……と見てきた。


 完全に俺だと疑っている目だ。


 なぜなら彼女の目は、どう見ても期待に満ちた目(・・・・・・・)だったからだ。


 シルさんからの謎の信頼が胸に刺さって痛い。


 とはいえ、である。


 ここで「俺です」とかドヤ顔でカミングアウトした後に人違いなのが判明したら、大火傷は免れない。一番恥ずかしいヤツだろそれ。


 俺はシルさんからスッと目を逸らした。


「……いや、なんでもない。ヴァイクさん、話を続けてくれ」


「……はい。ともかく、その魔剣持ちのおかげで連中のアジトが判明しました。場所は街の北西にある遺跡群の奥地に存在する古城、つまり古代魔導王朝期の建造物です。内部はほぼ確実にダンジョン化していると思われ――」


「…………」


 ヴァイク氏が説明を続けている間もシルさんがじいぃ……と疑い(?)の視線を向けてきた。


 俺は努めて何でもないようなふりをして説明に耳を傾け続けた。


「――そして警備の盗賊団の除く構成員全員が魔剣を所持し、首魁と見られる人物はそのなかでも特に強力な魔剣を持っているとの情報を得ておりますが……場所が都市から遠く離れた場所となるため、衛兵隊は参加できません。このため今回は冒険者ギルド様と連携した掃討作戦となります。以上が概要ですが、ここまでで何か質問はありますか?」


 ヴァイク氏がそう締めくくり、俺たちを見回したのだが……


「ちょっと待ってくれ。俺の役割はなんだ? まだ聞いてないぞ」


 俺がここに呼ばれたのは、聖剣錬成師としてであって、冒険者としてではない。そもそも魔剣の説明だけならば、自宅でもできた。じゃあ俺はなんでここにいるのか、という話である。


 そんな疑問に、ヴァイク氏が頷く。


「はい。ブラッドさんについては、商工ギルドから聖剣錬成の依頼を出させていただこうと思っております。聖剣錬成師である貴方に、今さらその理由を説く必要はないかと思いますが……要するに魔剣に対抗するには通常武器だけでは戦力不足ということです」


「なるほど、理解した」


 彼の認識は正しい。


 魔術や矢で遠距離攻撃を仕掛けるならともかく、接近戦で魔剣持ちと対峙するには、通常の剣や槍では荷が重い。


 魔剣はその固有能力以外にも、瘴気を大量にため込んでいるからだ。


 瘴気は人体にとって有害だ。


 触れれば、フレイのように頑強な肉体と精神力を持っていなければあっというまに心身ともに蝕まれ、戦闘不能状態に追い込まれてしまう。


「で、錬成する聖剣はどのくらい必要だ?」


 冒険者ギルドと連携するということは、一人だけに錬成してやればいいということもなかろう。


「数は……フレイディア殿の聖剣をのぞく、掃討作戦に参加する冒険者全員分です」


「……なるほど」


 これまた大型案件である。相手が商工ギルドならば、費用の取りっぱぐれもないだろう。


 俺は少し考えてから、口を開いた。


「悪いが、断る」

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