第78話 『カミラのデスキャンプ』
――ズドン!
「ぎにャアァァァッッッ!?!?」
青く晴れ渡った空に、巨大な爆炎が舞い上がる。
次いで響き渡る、竜の絶叫。
炎が晴れる。
最近よく訪れている地下神殿ダンジョンの地上部が吹き飛び、完全に瓦礫と化していた。
残るのは、ぽっかりと開いた地下への入口のみだ。
一方、竜――リンドルムは無事だった。
煤まみれののうえ顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったが。
「ふん、今のを回避するとはやるじゃないか。……次は外さないよ。――《轟雷》」
リンドルムの立つ周辺がパリパリと帯電。
「し、死ぬうううウウゥゥッッ――!?」
竜の勘が働いたのか、リンドルムがその場から素早く飛び退る。
次の瞬間。
――ズガン!
閃光とともに虚空を斬り裂き、巨木もかくやという極太の雷が地面に突き刺さった。
さきほどまでリンドルムがいた場所には、ちょっとしたクレーターが生じていた。
もちろんその中には真っ黒こげだ。
「ふ、ふえええぇぇェェ……」
それを見て、少女姿のリンドルムの顔が真っ青になる。
彼女の回避が一瞬でも遅れていたら、跡形残らず消し飛んでいたかもしれない。
「ほほう、これも避けるか……大した反応速度だ。幼竜とはいえ、エルダードラゴンは手ごわいな。ならば、次は……」
「待て待て待て待テッ! ストップッ! ストップダッ!!」
カミラが次なる精霊魔術を行使しようとしたところで、リンドルムの絶叫が響き渡った。
「おいブラッド! これは本当ニ『訓練』なのだナッ!? なんなのダこのハーフエルフオンナハッ!? 完全に我ヲ殺しに来てるゾッ!?」
「ふん、ブラッドに泣きつくとは情けない竜だ。この程度で音を上げるようでは、フレイには指一本触れることはできないぞ。ギリギリの死線を超えた先にしか、勝利はないのだよ」
カミラが腕組みをしながら、リンドルムに呆れたような視線を向けている。
彼女が続ける。
「この魔術回避訓練は、フレイが放つ一撃必殺かつ回避困難な攻撃を見切るための勘を養うものだ。死なない程度の攻撃では無意味なのだよ」
「意図はハ分かっているガ……」
もちろんカミラが手を貸してくれるのは素直にありがたい。
聖剣に宿らせる人造精霊も、こうしてリンドルムと接する機会があればより最適な形にしてくれるだろう。
だがフレイとの対戦まであと十日もないのだ。
彼女が今大怪我を負ってしまえば、かなりのタイムロスとなってしまう。
というかあの脳筋の体現者であるアリスでさえも、リンドルムが大けがを負わないよう(本当にギリギリのところでだが)手加減してたからな。
「とりあえず、休憩だ。昼飯にしよう。カミラ、午後からの訓練では高位精霊魔術の使用は控えてくれ。さすがに今リンドルムが再起不能になるのはマズい。本末転倒だ」
「むう……君がそう言うのならば、自重しよう」
まだ少々不満なのか頬を膨らませているが、カミラは頷いてくれた。
「ほッ……」
それを見て、リンドルムが胸をなでおろしている。
「とはいえ、だ。お前の特訓でリンドルムの動きが目に見えてよくなってきたのは間違いない。この調子で頼むぞ」
「……! ああ、もとよりそのつもりだよ」
俺の言葉に、カミラが嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべた。
実際のところ、この午前中だけでもリンドルムの回避能力は各段に上がっている。
現時点でもすでに、並みの竜狩りでは触れることすらできないだろう。
もちろんフレイとの対戦では時間制限があるから、ただ彼女の攻撃を避け続けるだけでは意味がない。
さらに動きに磨きをかけ、最終的には攻防一体の身のこなしを体得する必要がある。
「さて、午後の訓練内容だが……一撃で再起不能に陥るような魔術でなければ問題ないのだろう? ならば、できるだけ殺傷力を落としつつ当たると死ぬほど痛い中位魔術を選んで、訓練を施していくとしようじゃないか」
「ひぃッ……」
「お手柔らかに頼むぜ……」
午後もリンドルムが死にそうな目に遭ったのは言うまでもない。
◇
カミラの強化訓練が終わった次の日のことだった。
「こんにちはー!」
自宅の地下工房で作業をしていると、上階から元気な声が響いてきた。
ややあって、トントンと階段を下りてくる足音。
「ご主人、お届けものですよー」
「おお、待ってたぞ」
ふわふわと飛ぶセパに連れられて工房に入ってきたのは、獅子獣人の少女……ステラだ。
もうすっかり素材配達の仕事が板についており、ピンと立った耳と力強く揺れる尻尾が頼もしさを演出している。表情も自信と誇りに満ち溢れている。
最近はオルディスのいろいろな店を回るようになり、店主やお客とも仲良くやっているらしい。とてもいいことだと思う。
「ブラッドどの、素材のお届けにまいりました。……これを!」
はいっ、彼女が差し出してきたのは、布に包まれた瓶だ。
「ご主人。これはもしかして、アレですか?」
「そうだ。ようやく錬成に取りかかれるな」
「アレ、です?」
俺とセパの会話を聞いたステラが、小首をかしげている。
そういえば、彼女には俺の仕事が聖剣の錬成だということは伝えているが、具体的な素材まで逐一説明することはなかった気がする。
「これは、人造精霊だ。お前も見たことはあるだろ?」
保護用の布を取り払うと、特殊な魔術処理を施した瓶の中で浮かぶそれが露わになる。
淡く暖かい光を放つ、拳大の光球だ。
「ほわ……綺麗ですね。もちろん、よく知っております! カミラどのがよく創っておりますので」
「これが、俺の錬成する聖剣の核となる重要な素材……『御霊』だ。せっかくだ、錬成過程を見ていくか?」
「ほわ……ぜひとも!」
俺の提案に、ステラが目を輝かせ大きく頷いた。




