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第76話 『掃除用具vs魔剣』

「テメェ、何しやがる! 俺らは『ロゴツキー兄弟』だ! 知らねぇとは言わせねぇぞ、あぁ!?」


 穏便に腕をひねり上げ、店外に放り出して差し上げたところ、恩と命を知らないらしいチンピラアニキが襲い掛かってきた。


 ロゴツキー兄弟? 知らん。


 というか、喧嘩で負けそうになったからと自分らの名前を出すとか、三下仕草の極みだろ……


 いずれにせよ、取るに足らない連中だ。


「うるせぇ」


「うげっ」


 攻撃を躱し、死なない程度(・・・・・・)の腹パン。


 アニキは白目をむき、その場に崩れ落ちた。


 ちなみにアリスはすでに舎弟チンピラを調理済みである。


 さすがにつぶれたトマトは免れているものの、数日は起き上がることもできまい。まあ、同情はしないが。


 これにて一件落着……と思いきや。


「あれ……? ここの用心棒は『魔女』だって聞いてたんだけどな」


 行き交う買い物客の向こう側から声がして、少年が一人現れた。


 年は十代半ばくらいだろうか。


 背も低く年相応の華奢な身体つきで、チンピラアニキどころか舎弟よりも弱そうに見えるが……雰囲気が妙に禍々しい。よく見れば、襟元から首元にかけて、タトゥーのような紋様が覗いていた。


 手には、抜き身の剣が握られている。


 刃には、古代語と思しき文字が刻み込まれており、黒いモヤのようなものがまとわりついていた。


「お、おい! こいつ剣を抜いてるぞ!」


「キャーー!」


「誰か、誰か衛兵を呼べ! 早く!」


 通りを歩く買い物客たちの一人が剣を持った少年を見て大声で叫び出し、周囲はあっという間に大混乱に陥った。


 蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく人々。


 あっという間に店の前から人気がなくなった。


「ねえ、兄さま。あれって、魔剣だよね」


 そんな様子にも全く動じず、アリスが俺に耳打ちしてくる。


「……みたいだな」


 あの感じ。


 以前倒したスケルトンが持っていた剣と同じだ。


 もっとも、同じ『腐れの呪詛』だとは限らないが。


 ……なるほど。


 フレイの言っていた『魔剣持ちが出没している』というのは、こういうことか。


「てめぇら、俺らのシノギを横から邪魔しやがって……だが、こっちには魔剣持ちを雇ってんだよッ! まあ、もう謝っても遅せぇがな! ……先生、やっちまってくだせえ!」


 アニキが身体を起こし叫んでいる。


 どうやら俺の調理は不十分だったらしい。ちょっと焼き加減をミスったか。まあ腹パンだけだったからな。


 それよりも、目の前の魔剣持ちだ。


「はあ……そういうわけだから俺も仕事でさ。そこのお兄さんとお姉さんに恨みはなんだけど……死んでもらえる?」


 気だるげな様子でボリボリと頭を掻きながら、片手で剣を構える少年。


 だが、そんな様子でも不思議と隙は見えなかった。


 こいつ……見た目はともかく、それなりに剣に覚えがあるな。


「ごめん、兄さま。さすがにデートにまで『(とき)斬り』は持ってこなかった。魔剣持ちと戦うにはちょっと厳しいかも」


「ああ。俺も丸腰だが……聖剣じゃないが、武器なら用意できる」


 さすがに腰の魔導鞄(マジック・バッグ)には武器は入っていない。


 だが、冒険者ギルドでゴーレムを迎え撃ったときと同様に、懐には魔法陣を描いた紙片が忍ばせてある。


 幸いなことに、俺たちの立つ場所からすぐの路地裏にホウキとモップが立てかけてあった。


 場所からして隣の店のものっぽいが……万が一折れたら、弁償して返そう。


「…………」


 俺は魔剣持ちの少年から目を離さず、しかし素早く掃除用具を手に取った。


 そんな様子を、少年は面白そうに見物している。


「ぷっ……あははっ! 彼女さんを置いて逃げるつもりかと思ったのに……まさか、そんなもので戦うつもりなの? 俺と? バカなの! 死ぬの!? 面白すぎるだろ、お兄さん!」


 俺がホウキとモップを取ったのがツボにハマったらしく、腹を抱えて笑い転げている。


「兄さまが、僕を置いて逃げるわけないだろ……」


 アリスがむっとしているが、もちろん俺が彼女を置いて逃げるわけがない。


 そもそもそんな必要性すらない。


「…………これでよし」


 魔剣持ちが爆笑している間に、俺は懐から取り出した簡易魔法陣でホウキとモップに術式付与を完了させる。


 今回は魔剣対策として、『硬化』と『瘴気耐性』を付与しておいた。


 『瘴気耐性』はフレイの依頼により急遽組んだ魔法陣だが、まだ未完成品である。


 だがまあ、実地試験にはちょうどいいか。


「ほら、アリス。こいつで戦うぞ。聖剣ほど使い勝手は良くないが、魔剣持ち程度なら十分だ。効果は――」


 付与した術式を手短に説明し、アリスにモップを手渡す。


「へえ……さすがの僕でも、掃除道具で戦うのは初めてだよ! ……こんなサプライズバトルを演出してくれるなんて、さすがは兄さま! 最高だよ!」


「お、おう」


 普通ならかなり不安な状況だが、アリスにとっては超絶喜びポイントだったらしい。


 脳筋を通り越して戦闘狂のそれだが……まあアリスだからな。


「ふーん、付与術式かぁ。そんなもので俺の魔剣がどうにかできると思ってんの? ムカくなぁ……じゃあ彼氏くん、まずはお前から死ねよ!」


 一方魔剣持ち的には、俺の行動は意味不明に映っているらしい。


 明らかに不機嫌になり、俺に襲い掛かってきた。


 ふむ、踏み込みはそれなりに速いな。


 剣の振りにもキレがある。


 若い剣士としては、それなりの腕前のようだ。


 そこらのチンピラ相手なら、さぞかし無双できることだろう。


 だが、それだけだな。


「よっ」


 ギン! 甲高い音が通りに反響し、強化ホウキと魔剣が交錯する。


「なっ……『邪眼』が効いてない、だと……?」


 ギリギリと鍔迫り合いを繰り広げる中、魔剣持ちの顔が驚愕に歪んだ。


「どうした? その剣はただの鉄の棒か、少年?」


「くそっ……『邪眼』ッ! もっと力をくれてやる、さっさと本気を出せ!」


 魔剣持ちが叫ぶ。


 呼応するように魔剣の鍔がパクッと開いた。現れたのは血走った眼球だ。


 おっと、さすがにコイツと目を合わせるのはまずそうだ。


 鍔の眼球を直視しないよう目を逸らし、魔剣持ちの腹を強く蹴とばした。


「ぐあっ……クソ! この状況判断……お前、ただの魔術師じゃないな!?」


「魔術師じゃないけどな」


 魔剣持ちが腹を押さえながら喚いているが、放置。


 しかし、あの魔剣……察するに、麻痺系の状態異常を付与するタイプの魔剣らしい。


 俺は微かに痺れの残る手で剣を握り直した。


 どうやら一瞬だけ眼球と目が合ってしまったらしい。


 だが『瘴気耐性』をホウキに付与していたおかげか、剣を通して浸食されること自体は防げているようだ。影響は軽微である。


「アリス、あの目を直視するな。おそらく麻痺系か、魅了系だ」


「了解。要するに視界を閉じておけばいいんだよね」


 言って、アリスがモップを構えたまま、目を閉じた。


「ハッ、バカが! ……目が見えなければ意味がないだろう! じゃあ今度はお前だっ!」


 魔剣持ちが、今度はアリスに襲い掛かる。


「……ここっ!」


 が、魔剣持ちの攻撃がアリスに当たることはない。


 スルリと水が流れるような動きで回避と同時に攻撃。


 魔剣持ちのわき腹にモップの先端が突き刺さった。


「ぎょえっ!? があああぁぁぁぁッ――!?!?!」


 魔剣持ちが苦悶に満ちた顔でわき腹を押さえ、崩れ落ちた。


 そのまま七転八倒。


 うわ……あれ、死ぬほど痛いやつだ……


 間違いなく肋骨が何本か折れてる。しばらくは戦闘不能だろう。


「じゃ、こいつは没収な」


「ぎえっ」


 悶えている魔剣持ちの手を蹴とばし、魔剣を通りの向こう側にやる。


 ついでにゴンと頭部へホウキの一撃を喰らわせ、無力化。


「ふん……兄さまと僕を相手にして、たかが魔剣持ちごときが勝てるわけがないだろう」


 勝利を確信したのかカン、とモップを石床に叩きつけ、超ドヤ顔をするアリス。


 まあ、今日ばかりは彼女に同感だ。


「はあ、はあ、はあ……! 賊はどこだ……ん? ブラッド?」


 と、そこに息せき切って駆け寄ってきた影があった。


 振り返ってみれば、見慣れた赤髪が。


「悪いな、カミラ。賊は俺たちで片付けておいたぞ」


 …………うん。


 やっぱここ、彼女に関するお店だったらしい。

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