第69話 『S級冒険者』
「…………」
俺は『ふとっちょ銀猫亭』のテーブルで、腕組みをしていた。
向かいには、激盛りパスタを元気に頬張るリンドルムが座っている。
「ウマッ……ウマッ……! 冒険で汗を流しタ後に喰らうニンゲンの飯は格別だナ!」
彼女は大仕事を終え、大変ご機嫌の様子である。
だが、俺の気は重かった。
たしかにダンジョンからは、無事帰還することができた。
俺もリンドルムも怪我ひとつない。
ギルドで受けていた依頼を片手間にこなせたし、完璧である。
……リンドルムが弱すぎることを除いて。
「…………はあ」
あのあと、リンドルムはどうにか『動く鎧』をすべて撃破して見せた。
それはいい。
ただ、動く鎧はスケルトン兵以下の雑魚だ。
見た目は厳ついが動きも鈍く、なんなら駆け出し冒険者のおやつ程度の魔物である。
そんな魔物に、ブレス封印状態かつ人間の武器を使用して戦ったとはいえ、苦戦するとは。
俺の指導で多少動きがよくなったとはいえ、素人に毛が生えたようなレベルだ。
もちろん本番はあらゆる手段で『竜狩り』を追い詰めることになるだろうが、今のままでは、彼女に聖剣を持たせたところで戦力が劇的に向上するようなことはないだろう。
さて、どうしたものか。
「ム……ブラッド、そのボウル入りチーズリゾット、食べないのカ? ならバ我が代わりに片付けてやるゾ」
「勝手に食え」
「遠慮ナドしないゾ?」
遠慮もなにも、すでに俺のスプーンまで奪ってガツガツ食ってるだろ。
「そういえばリンドルム、その竜狩りってのはどういうヤツなんだ?」
「……? 先日、山ほど話したダロウ。まだ聞き足りないノカ?」
「いや、のろけ話は腹いっぱいなんだが……お前、そいつがどんなに強いか、どんなに美しいかみたいな話はしてたが、どう強いのかとか、お前がどう負けたのかについては喋っていなかっただろ」
「それも、言わねばならぬノカ……」
「当たり前だろ」
まあ、言語化しづらいところではあるだろう。
敗北のトラウマをほじくり返すような作業だ。
精神的にもキツイのは分かっている。
だが、その竜狩りとやらの素性が分からない以上、俺としても彼女をどう勝たせてやればいいのか、作戦の立てようがない。
「…………むむム……」
リンドルムは難しい顔で思案し始めた。
が、それも少しの時間だった。
彼女は決心したように大きくため息をつき、重い口を開いた。
「そう、あれハ――」
そのときだった。
「たのもーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
ガシャアアアアアアアアァンッ!
誰かの大声とともにド派手な破砕音が店の入口の方から鳴り響く。
ものすごい勢いでドアがぶっ飛んでいき、奥の壁にドカンとぶつかった。
水を打ったかのように店内が静まり返る。
店の入口に、人が立っていた。
バカでかい剣を担いだ、野性味あふれる美女だ。
亜麻色の髪を後ろで束ね、顔も体も傷だらけ。露出の多い軽鎧や担いでる大剣には、赤黒い返り血がこびりついたままである。
「うわっ!? なんだアイツ!?」「おいおい、昼時に何事だよ」「待て! アイツ、知ってるぞ!」「『竜狩り』のフレイじゃねーか! 等級Sの冒険者だぞ、なんでこんな辺境に!?」「なんだと!? おい、早く裏からペンをもってこい! 蹴破った扉にサインをもらうぞ!」
一瞬の静寂ののち、波紋が広がるようにざわめきが大きくなってゆく。
「うっせぇ! 黙れ!」
美女が一喝。
ビリビリと耳をつんざく大音声である。
凄まじい迫力に、店が一瞬にして静まり返る。
「ええと……ここにいるって聞いたんだが」
美女は巨大な剣を担いだ女は入口でキョロキョロと店内を見回すと……俺の方を向いた。
彼女の野獣のような視線が俺に注がれ……ニカッと陽光みたいな笑みに変わった。
「おっ、いたいた!」
大声で叫ぶなり、ズンズンと大股で俺のところまでやってくると……
「よう姉弟! 元気してたかー?」
大剣を床にズン! 突き刺すと、俺の首にグイと腕を回してきたのだ。
「おー、久しぶりだなフレイ。ここがよく分かったな」
やってきたソイツは、俺の知り合いだった。
「いやぁ、お前んちを訪ねたらえらい美人な金髪のねーちゃんが出てきて、ここでメシ食ってるって聞いたからよ。あの子、お前の女か何かか?」
俺が不在の時はセパとレインに留守番を頼んでいるから、レインが対応したのだろう。
「いや、アイツは人造精霊だ」
「ああ、なるほど。便利だな、精霊ってのは」
フレイは合点がいったように、ポンと手を打った。
「で、だ。最近いろいろと暴れまくってたら、さすがに『大食い』の刃が少々鈍っちまってな。もちろんそのままでも、別に竜なんて叩き潰せばいいんだが……いい機会だから、ちょっくらお前に見てもらおうかと思ってたんだよ」
言って、彼女が床に刺した大剣を指さした。
鉈を思わせる、分厚く幅広の剣身を持つ巨大な剣だ。
聖剣『大食い』。
俺がかつて錬成した、彼女の主力武器である。
「けどよ……久しぶりに王都に帰ってきてみればお前の前いた工房はなくなっちまってるし、知り合いの武器屋に聞いたら王都からずいぶん前にいなくなったって話だし、探すの苦労したんだぞ。ギルドの伝手でどうにか居場所が分かってな。こういうときこそ、等級Sって肩書を利用しないとな! ガハハ!」
「いや、それ職権乱用だろ……」
「まあ、細かいことは気にすんな! とにかくオレはお前が必要なんだよ。なあ~頼むよ~~」
俺の首をぐいぐい締め上げながらそんなことを言ってくるフレイ。
本人は久しぶりに知己とじゃれ合ってるつもりなのだろうが、女性とはいえ『竜狩り』の腕力はそれこそ竜並みだ。
……そろそろ苦しいから離して欲しい。
「おいブラッド、その者ハ……」
対面に座るリンドルムが驚愕の表情でフレイを凝視している。
おっと、彼女のことを忘れていた。
誰かと食事をしていていきなり相方の知り合いがやってきたら、とても気まずいのは俺も分からないでもない。
「ああ悪い、紹介するよ。彼女はフレイディア・グリューネヴァルト。『竜狩り』専門で活動をしている現役のS級冒険者だ。俺とは昔縁あって、少しの間だが一緒に冒険してたことがあってな。そして今は、俺の顧客でもある」
リンドルムに簡単に紹介する。
「おー、嬢ちゃん可愛いねぇ! オレはブラッドのツレだ! よろしくな! ……ところで君、どこかで会ったことある? なんか知ってる匂いなんだよな」
俺の首を確保したまま、フレイがニカッと歯を見せ挨拶をする。そして流れるようにナンパ(?)である。
この自由奔放な性格、嫌いではないのだが……
そろそろ、俺の首を解放してほしい。
今はさほど苦しいというわけではないのだが、今度はヤツの胸が密着していて気が散る。
フレイは女性にしては筋肉量が多い方だが、出るところはしっかり出ているのだ。そして出ているところは、もちろん柔らかい。
俺も健全な男なので、その……ちょっとこのままだと困る。
「な、な、ナ……」
一方リンドルムの方はというと、なぜか態度がおかしかった。
さっきから顔が真っ赤でプルプル震えてるし、どうしたんだ?
メシを喰いすぎたのだろうか。
吐くなら便所で吐いてほしい。
「お、お主……彼女ダ」
プルプル指を指し示すリンドルム。
「は?」
「ブラッド、よく聞くのダ。我を打ち負かしタ『竜狩り』というのハ……彼女なのダ」
…………………マジで?
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