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第68話 『縛りプレイ』

「とりあえず、ここでお前の『人間』としての腕を見る」


 俺はリンドルムにそう伝えたあと、ダンジョンの入口を指さした。


 ここはオルディスの街から半日ほど歩いた場所にある比較的近場にある地下神殿型のダンジョンである。


 出没する魔物はスケルトン兵のほか、『動く鎧(リビング・アーマー)』など。


 リンドルムが戦う相手は竜狩り、つまり人間だ。


 だから人型の魔物との戦闘をもって、彼女の人化時の戦闘能力や立ち回りを確認することにしたのだ。


 そして彼女が聖剣で戦うことを選択した以上、竜狩りとは人の姿で戦うことになる。そんなわけで今、彼女には人の姿に変化してもらっている。


 ブレスは念のため禁止。あと人化以外の魔術も。


 このあたりはすでに通達済み。


 ちなみにダンジョンでの実地試験の体を取ったのは、単純に見知らぬドラゴンを自宅に招きたくなかったからだ。


 いや、ブレスとか吐かれて家燃えたらイヤだし……炎がお隣さんにでも燃え移りでもしたら、それこそ目も当てられないからな。


「……望むところダ。準備はできてイル」


 そんな俺の心中を知る由もないリンドルムはグッと両拳を握り、フンスと鼻を鳴らした。


 漏れた息には火の粉がチロチロと舞っている。


 やる気満々、といった様子である。


 ブレス禁止だが、まあこれくらいはいいだろう。


『このドラゴン、大丈夫ですかねぇ」


『あーし、この子の尻尾斬ったとき思ったけど……あんまり強く感じなかったんだよね』


 俺の腰に装備済みのセパとレインが、念話で心配そうに語りかけてきた。


『まあ、どの程度の力を持つのかを確認するのかが、今回の目的だからな』


 俺も同感ではあるが、こればかりは自分の目で確かめなければ始まらない。


「よし、リンドルム。そろそろダンジョンに入るぞ」


「うム!」


 リンドルムの返事を確認したあと、俺たちはダンジョン内部に足を踏み入れた。


「……うん、このダンジョンならばきちんと実力を判定できそうだな」


 ダンジョン内部は、元が神殿なだけあって、内部は平坦で歩きやすかった。


 それにかがり火が焚かれているため、視界の確保が容易である。


 ギルドの情報では罠の類もないらしいので、変に冒険者スキルを試されることもない。


 純粋に戦闘の実力だけを確認するためには、最適なダンジョンである。


「むウ……しかしこの鎧とやらハ、動きにくいナ」


 しばらく歩くと、俺の後をついてきているリンドルムが不満の声を上げた。


「ドラゴンの姿じゃ聖剣は振れないだろ」


「たしかニそうだガ……別にこんなモノ、身に着ける必要がアルのカ?」


 どうやら人の姿であることに加え、軽鎧のフィット感が気に入らないらしい。


 とはいえ、鎧含め装備品の数々はコイツの有り余る金で揃えたので、それなりに品質のいいヤツだ。動きにくいということもないと思うが。


「別に俺はお前が素っ裸でも構わんが、それで本番は竜狩りと戦えるのか? お前、ドラゴンのままでもゴーレムに勝てなかったんだろ」


「あ、あれハ……我のブレスが効かなかっタだけダ! 効いていれバ、余裕ダ!」


 竜狩りにもブレスが効くとは思えないんだが。


 連中はその道のプロだからな。当然対策済みだろう。


「雷撃魔術を撃たれても大剣でぶった切られても平気なのか? 本当に? 手練れの竜狩りなら、竜の鱗なんぞ簡単にぶった斬るぞ?」


「ム……もちろン……平気ダ!」


 …………ほーん。


 なかなか強がるじゃねーか。


 だったら、試してやるとしようじゃないか。


 ちょうどいい魔物が見えたし。


「わかった。それほど自信があるのなら、アイツと戦っても余裕で勝てるよな?」


 俺が指さした先には、鎧が飾られていた。


 装飾が施された見事な全身鎧で、片手には槍を掲げている。


 ここはどうやら奥の祭壇に続く通路らしく、そんな状態の鎧たちがずらりと並べられていたのだ。


 イメージとしては、かつて神殿を守護した聖騎士の鎧、といったところだろうか。


「ム……あの鎧をぶっ叩けばいいノカ? 馬鹿にするなヨ、ニンゲン!」


「いいから倒してこい。俺はここで見ててやる」


「フン、動かぬ的なド、楽勝ダ!」


 リンドルムは一瞬むっとした様子を見せたが、すぐに余裕の表情に戻り、腰の剣を引き抜いた。


 ちなみに彼女の得物は、ショートソードだ。


 こういった屋内でも取り回しがしやすく、それでいてリーチもそれなりにある。冒険者ならば、一度は通る定番武器である。


 刃渡りは、彼女の体格と汎用性を考慮して60センチを選択した。


 とはいえ、リンドルムはドラゴンである。


 腕力自体はそれなりにあるので武器屋で剣を軽々と振りまわし、店主のおっちゃんを驚かせていた。


 普通に戦えば、このダンジョンの魔物に後れを取るようなことはないはずだった。


 まあ、今回は彼女の立ち回りを確認するためだからな。


「ククク……我の強さに畏怖するがヨイ!」


 リンドルムがブンブンと剣を振り回しながら、意気揚々と鎧に近づいてゆく。


 ……完全に素人ムーブである。


 彼女が鎧まで十歩ほど近づいたところで、そのうちの一体の兜が、グリッと彼女の方を向いた。


「……ふエッ!?」


 リンドルムが固まる。


「オイ、ブラッド……! 鎧が動いたゾ」


「当然だろ、そいつ『動く鎧(リビング・アーマー)』だし」


「待て待て待て待テ!」


 先ほどの威勢はどこへやら。


 ちょっと涙目になったリンドルムがダッシュで戻ってきた。


「どうした? 早くアイツ倒して来いよ」


「イヤ、おかしいダロウ!」


「何がだ?」


「鎧が動くのハ聞いてイナイ!」


「ブレスが効いていればゴーレムに勝てたんだろ? アイツはゴーレムに比べりゃ紙切れみたいな装甲だし、動きも遅い。余裕だろ」


「ダガ、槍ヲモッテイル!」


 リンドルムは完全にビビっていた。気が付けば、声が完全にドラゴン状態に戻ってしまっている。


 鎧が持っている槍と自分のショートソードを見比べて、なんか雨に濡れた子犬みたいにプルプルしている。


 もしかして、ゴーレムに追いかけ回されたせいで、似たような魔物の『動く鎧』相手にもトラウマを覚えているのだろうか。


 つーか……


 こいつ、竜のくせに弱すぎるだろ。


 主に気持ちが。


 いや、ポテンシャルはあるのだ。


 竜狩りには負けたものの、ブレスを吐けばスケルトン兵を蒸発させるほどの攻撃力を持っているのだ。


 それに直接攻撃も悪くなかった。


 幻覚魔術で作られた尻尾とはいえ、速さも当て感(・・・)も悪くはなかった。


 だが、これでは実地試験も何もあったものじゃない。


 なので、俺の取るべき行動は一つだけだ。


「とりあえず行ってこい。骨は拾ってやる」


「ヌワッ!?」


 リンドルムの背中を蹴っ飛ばして、動く鎧の前に放り出した。


『……ギギ……』


 動く鎧が彼女を視線に捉えた。


 錆び付く音とともに、槍を向ける。


 ガシャン、と鎧が台座から通路へと踏み出し、俺とリンドルムを分断するように立ちはだかった。


 これで彼女は逃げられない。


「ヒィッ!? ……クソ、ニンゲンオトコ……! 我ガ死ンダラ祟リ殺シテヤルカラナ……ッ! 竜ノ祟リハ怖インダカラナッ!」


 リンドルムは半泣き状態で俺を責めているが、それでも覚悟は決まったらしかった。


 必死の形相で、剣をしっかりと構えた。


「大丈夫だ、リンドルム。見た目は厳ついが、そいつはスケルトン兵より弱い。落ち着いて対処していけ」


『ギギッ……!』


「ヒイッ!?」


 動く鎧がリンドルムに向かって槍を突き出した。


 彼女は顔を引きつらせながらも地面を転がり、どうにか躱してみせる。


 そして、少しだけ驚きの表情を浮かべた。


「ヤツノ攻撃ガ……見エル……!?」


「お前の反応速度ならば、動く鎧程度の攻撃は当たらん。攻撃の後に隙ができるから、そこを突け。ヤツの弱点は鎧の内部にある核だ。腋の隙間から剣を差し込むんだ」


「ウム……承知シタ……ッ!」


『ギギッ……!』


「……ココダッ!」


 動く鎧の突き出す槍に合わせて、リンドルムが動く。


 竜の身体能力で瞬時に相手に肉薄。


 俺の指示通り、鎧の胴と腕の継ぎ目にショートソードを差し込んだ。


 パキン、と何かが砕けるような音が通路に響き渡る。


『ギ……ッ――』


 断末魔のようなうめき声を上げたあと、動く鎧の動きが止まった。


 次の瞬間。


 鎧がバラバラに崩れ、石床に落下し派手な音を響かせた。


「ヤッタ……ノカ……?」


「ああ、ちゃんと武器を使って魔物を倒せたぞ。よくやったな」


「オオ……オオォ! やったゾ! これで打倒竜狩りに一歩近づいたノダ!」


 よほど嬉しかったのか、剣を放り出してグッと両拳を握りしめるリンドルム。


 ついでに言葉もちょっと戻っている。現金なヤツである。


 だが、戦いはまだ終わっていない。


「おい、油断するのはまだ早いぞ」


「ム……? これで終わりではないのカ?」


 キョトンとした彼女の背後で、ガシャコン、ガシャコン、と次々と台座から降りる鎧たちの姿があった。

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