表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/125

第67話 『竜の頼みごと』

「モグッ! ムシャッ……! ウマッ……ニンゲンの料理、ウマッ……!」


 テーブルの向こうで黒髪の少女が幸せそうな表情で、大量の料理をガツガツと貪っている。


 よっぽど腹が減っていたらしい。


 言うまでもなく、黒髪の少女は例のミニドラゴンが人間に化けた姿だ。


 問い詰めたらあっさり白状した。


 というか、隠すつもりはなかったらしい。


 さすがに俺も街中で少女の姿をしたコイツをボコボコにできるほど粗暴ではないし、さりとてこのまま逃がすわけにもいかず(逃げるつもりはなかったようだが)……こういうことになった。


「ニンゲンオトコ、お主はハ喰わないのカ? さっきから言っているダロウ。ここは我の奢りダ。そんな小皿一枚で腹が満ちるわけガなかろウ? もっと頼んでいいのダゾ?」


 ミニドラゴンはそう言って、懐から財布らしき革袋を取り出し、ドカッとテーブルに置いた。


 紐がほどけ緩んだ口から金貨が零れ落ち、テーブルにぶつかりカラカラと乾いた音を響かせる。


 ドラゴンは討伐しにきた者を返り討ちにしたあと、その金品をぶんどって貯め込む習性がある。


 彼女もそう言っていたし、俺も確認してみたが本物だった。


 化かされる心配はない。


 とはいえ、訳の分からんヤツにホイホイ奢られるほど俺もアホではない。


「いや、こっちはこれで十分だ」


 俺の前には大盛のパスタがあるが、もちろん自分の金で注文したものだ。


 ちなみに小皿どころか大皿に山盛りである。


「そうカ。まあイイ」


 ミニドラゴンはあまり気にした様子もなく、自分の料理をガツガツと頬張っている。すでに彼女の横には空になった皿が十枚ほど積まれている。


 この飯屋――『ふとっちょ銀猫亭』は質より量を求める冒険者御用達の大衆料理屋である。


 確かに味の割に安く腹も膨れるので最近は俺もダンジョン攻略前の腹ごしらえなどに利用しているが……


 そんな大量の料理を何人分も腹に詰め込んでいくミニドラゴンには驚きを禁じ得ない。まあ人間の姿をしているが、本性はドラゴンだしな。


 それはさておき。


「おい、そろそろ理由を話してくれないか」


「ウメッ……ウメッ……む? なんのことダ?」


 きょとんとした顔で皿から顔を上げるミニドラゴン。


 こいつ……!


「いろいろあるが、まずは俺を尾行してきたことからだ」


「オオ、そうダ! それは……ニンゲンオトコ、お前が聖剣使いだからダ。まさカ、再び会えるとハ思っておらなんダ。……あれを譲ってくれないカ」


 なるほど、そんなことか。


 そういえば、墳墓ダンジョンでコイツが逃げ去るときに、竜狩りが持っていたとか、俺やアリスの持つ聖剣に興味があるとか、そんなことを言っていた気がする。


 ならば、答えるべき言葉は一つしかない。


「ダメだ。聖剣はやらん」


「なぜダ! よこセ! 金ならアル!」


 ミニドラゴンがガタン! と身を乗り出し、こちらに顔を近づけてきた。


 威嚇しているのか歯を剥き必死の形相だが、見た目は可憐な少女のうえ口の周りにパスタのソースがこびりついているので全く威厳が感じられない。


「はあ……お前、当たり前だろ」


 俺は肩を竦め、大きなため息をついて見せた。


「金を積まれたからって、簡単に聖剣を手放すやつがどこの世界にいるんだ。お前に聖剣の知識がどのくらいあるのか知らないが、聖剣は所持者にとって、体の一部みたいなものなんだぞ? お前だって、金をやるから自分の羽をもぎ取って差し出せ、と言われたら素直に従うのか?」


「ウ……それハ……」


 俺の言葉にたじろぐミニドラゴン。


 まあ俺の反論は完全に詭弁なんだが、かなり効いている様子である。


 このミニドラ、なかなかどうしてチョロ……素直である。


 とはいえ……悪くはない。


 それはつまり、このミニドラゴンが人間の姿をしているだけでなく、意思疎通がまともにできることを意味しているからだ。


 簡単に言えば、コイツは俺の商売相手になり得るということだ。


「そうはいっても、聖剣が欲しいんだろう?」


「…………ウム」


 俺が言うと、ミニドラゴンがコクリと頷いた。


 少々小言が効きすぎたのかシュンと肩を落としているが、まあこのくらいはいいだろう。


 散々コイツに迷惑をかけられたからな。


「……我ハ、『竜狩り』を狩らねばならン。そして再び求愛するノダ。エルダードラゴンの誇りにかけテ」


「……んん!?」


 いきなり竜狩りを狩るとか、求愛するだとか、話がまったく見えてこないぞ。


「とりあえず、話を聞こうか。落ち着いて、順序立てて話してくれ」


「……それをすれバ、聖剣をくれるノカ?」


「俺は聖剣錬成師だ。今ある聖剣を譲り渡すことはできないが、錬成……造ってやることはできる」


「……オオ! ならバ、いくらデモ話してやろうゾ! ニンゲンオトコ、お主、いい奴ダナ!」


 俺の言葉にパアッ! とミニドラゴンの顔が明るくなる。


「とりあえず俺の名前はブラッドだ。ニンゲンオトコはやめろ」


「我はリンドルム、ダ。よろしく頼むゾ、ぶらっど! それでダナ――」


 ミニドラゴン……リンドルムの話をざっくりまとめると、こうだ。


 彼女(性別は見た目どおり雌らしい)は、故郷で人族の竜狩りと戦ったがあっさり負けてしまった。


 しかしそのときに竜狩りの強さと美しさに一目ぼれしてしまい、求愛したがバッサリ振られてしまったそうだ。


 ちなみにその竜狩りの強さと美しさについては小一時間のろけ話が続いたが割愛。


 そもそも負けた相手を好きになる理屈が、俺にはよく分からない。


 まあドラゴンは強者を好むと聞くし、そういう習性と無理やり納得することにした。


 で、あきらめきれないリンドルムは竜狩りの故郷――王国にやってきたものの竜狩りは見つからず、あちこち放浪したあげくヤケになってダンジョンの底で無限に湧いてくるスケルトン兵相手に雑魚狩りして憂さを晴らしていたところに俺とアリスがやってきて……という流れらしい。


 なんて卑屈なドラゴンなんだコイツは……本当にエルダードラゴンなのか?


 ちなみにギルド地下のダンジョンも似たような理由で潜ったようだ。こっちは予想以上に(ゴーレム)が強く、返り討ちに遭いそうになったとのことだった。


 どんだけ弱いんだこのドラゴンは……


 ちなみに彼女がダンジョンに入り込んだのはギルドとは別の場所からだそうなので、あとでギルドに教えて恩を売ろうと思う。


「――お主やニンゲンオンナが持っていた『聖剣』は強かっタ。それがあれバ、我も竜狩りと対等に戦えヨウ。そしてもう一度求愛ができると思ったノダ。頼む、ブラッド。我に協力してくれないカ」


 そう締めくくって、リンドルムが頭を下げた。


「…………」


 うん、これ恋愛相談じゃねーか。


 たしかにコイツが聖剣を欲しがる理由は分かったが……これ、俺が介入していいものなのか?


 俺の聖剣でコイツが竜狩りとやらを打ち負かしたとしても、コイツの恋が成就する保証はない。


 事情が事情なだけに、あとで逆恨みとかされたくないんだが……


 というかそもそも論として、竜の姿で聖剣を扱えるのだろうか。もしかして、人間の姿で戦うつもりなのか?


 いろいろ疑問が浮かんでは消える。


「頼ム。このとおりダ」


 リンドルムがゴン、とテーブルに頭をぶつける。


 ゴン。もう一度。


 ゴン。もう一度。


 ゴン。ゴン。ゴン。ゴン。ゴン――


「おいなんだアイツ」「痴話げんかか? 他でやれよ……」「うわ……アイツ女に頭ずっと下げさせてるぞ……」


 ひたすら頭をテーブルにぶつけ続けるリンドルムに、周囲の注目が集まり始めた。


「おいお前、何やってんだ」


「誠意を見せてイル」


 そう言いながらも、ゴンゴンと頭をテーブルにぶつけ続けるリンドルム。


 誠意ってお前……どうみてもそれ、脅しの類だろ……


 だがまあ、気持ちは伝わった。


「はあ……分かった。聖剣は俺に任せろ。だからその頭突きをやめろ」


「ホ、本当カッ!?」


 とたん、顔をパアッと明るくして俺を見るリンドルム。


「…………男に二言はない」


「いいだろウ! あの竜狩りニ勝てルならバ……どんなことでも聞いてヤル!」


 そんなわけで、竜のために竜狩り『狩り』の聖剣を錬成することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ