第104話 『旅行計画』
「とはいえ、どうしたものか……」
セパが上に戻ったあと、工房内をうろつきながら思考を巡らす。
彼女には「なんとかする」と言ったものの、聖剣に宿る人造精霊の姿を変更するのは、基本的に不可能だ。
人造精霊は精霊術師が『還流する龍脈』より掬い上げた疑似魂魄を、聖剣錬成師が錬成した聖剣に宿すことにより姿形が定まる。
そして、彼女らの基本的な性格や容姿は『還流する龍脈』から掬い上げる淀みの程度によるとはいえ……最終的には、魂の形や聖剣の能力など様々な要素が複雑に絡み合い、相互に連携し、その上で均衡が保たれている。
無理に形状を変化させれば、最悪、セパという存在が消滅しかねない。
さすがの俺も、そんな無茶な真似をするつもりはない。
ならば、どうするか。
これに対しては、正直、あまり選択肢がない。
すなわち――
『聖剣の能力を拡張するアタッチメントを製作し、これを彼女に装着する』
これが、ほとんど唯一の方法といっていいだろう。
あとは、どういうアタッチメントを装着するかという論点になるのだが……これはすでに思いついている。
自動人形だ。
人造精霊の宿っていない自動人形にセパの本体である聖剣を組み込み、彼女が自動人形を通して五感を感じとれるようにしてやればいい。
自動人形の製作については、カミラがまさに得意分野としているところだ。
彼女は精霊魔術が専門だが、魔道具職人としても一流だ。
マリアという完璧な前例もある。
もちろん相応の金はかかるだろうが、実現可能だろう。
問題は、セパの五感をどうやって自動人形に同期させるかだが……これについてはカミラの技術をもってしても難しいだろうな。
これについては類似の事例としてステラの義手があるが、今回はその時と違って、セパを自動人形に宿らせるわけではない。
だから自動人形側に、自然な魔力経路形成は期待できない。
もっとも、この問題も半分解決済みである。
先日の魔剣狩りの一件で倒した魔物、ゲイザーである。
この魔族領産の魔物は、『視覚共有』の能力を持っている。
文字通り、自分の見た、あるいは他者が見た視界を共有する能力だ。
そして、ここが非常に重要なポイントなのだが……この『視覚共有』という力は、ゲイザーが持って生まれる力ではあるものの、純粋な魔術であり、これは『魔術回路』という器官により能力を行使している。
この『魔術回路』は生まれながら魔術系の能力を持つ魔物が有している器官であり、魔物使いはこの器官に自分の魔力経路を接続し能力を自分のものとしているそうだ。
そして、『魔術回路』は器官である以上、ゲイザーの身体からうまく取り出せば、そのまま使うことができる。
ゲイザーから取り出した魔術回路は、視覚だけでなく五感を共有できるようカスタムしたうえで自動人形に移植するつもりだ。
これでセパは自動人形に乗り移ったかのように周囲を見、聞き、触れたものを自分のものとして感じることができるようになる。
ただ……このプランには、唯一にして最大の問題がある。
それは俺の手元に、ゲイザーがいないことだ。
もちろん、現物は王国内に存在する。
だがそれは、アリスが証拠保全のため王都に持ち帰ってしまったものだ。
そうなると、さすがに「ウチの人造精霊の強化で使うから返してくれ」とは言えない。
もしかしたら返してくれるかもしれないが……さすがにアリスの仕事の邪魔はしたくない。
もちろん、かの魔物は魔族領産で、当然オルディスにはおらず、王国内にも生息していない。
かといって、さすがに魔族領に足を踏み入れるのは難しい。
王国は魔族領と国交がないからな。
許可なく足を踏み入れれば、密入国者なうえ密猟者である。
めでたく凶悪犯罪者の仲間入りだ。
最悪、戦争再開の火種になる可能性だってある。
では、どうするか。
「まあ……トレスデンに行くのが一番だよな」
俺は工房の中で独り呟いた。
トレスデン共和国。
商人たちの治める、王のいない国。
そして、魔族領と国境を接する数少ない人族の国でもある。
そのためか、十年前の大戦前から魔族の国家群と交流があり、三年前の戦役では一時的に交流が止まったものの、現在は再開していると聞く。
つまり、トレスデンには魔族が住んでいる。
しかも王国のようにただの駐在武官だとか、クソみたいなテロリストじゃない、ちゃんとその土地に根付き生計を立てている魔族や、魔族領出身の普通の魔族が、だ。
ゆえにトレスデンに行けば、魔族領産の魔物……要するにゲイザーそのものが魔物使い向けに売られている可能性がある。
よしんば売られていないとしても、魔族の商人のツテで魔族領から取り寄せてくれるかもしれないし、魔族領近くのダンジョンで捕獲できるかもしれない。
そしてこれが一番重要なのだが……トレスデンは王国とも国交のある国だ。
国の出入りも、トレスデンが商人の国であり友好国であるせいか、両国民が互いの国を行き来する分には比較的容易である。
もちろん、ある程度の身分があれば、だが。
だから気軽に……と言える距離ではないが、トレスデン共和国は『訪れることができる国』なのだ。
ちなみにその『身分』についても問題はない。
俺は聖剣錬成師として商工ギルドに籍を置いているし、冒険者ギルドに冒険者としても登録している。
どちらも、簡単な手続きでトレスデンへ入国可能な身分だ。
ただ、今回は目的の性質からすると冒険者としてトレスデンに入った方がいいだろう。
商人だと商工ギルド経由で護衛を雇わなければならなかったりして何かと金がかかるうえ、武具を持ち込むのにかなり面倒な手続きがあるからな。
この辺りは、以前商工ギルドで所属手続きを行った時に担当者から聞いたから間違いない。
俺としてはセパとレインを置いていくことは考えられないから、商人は論外、ということになる。
一方の冒険者は武具類は商売道具だ。
それゆえか、商人と比べ入国の条件が緩い。
もちろん街中で理由もなく武器を振り回したら現地の冒険者ギルドから賞金首にされる可能性もあるから、十分気を付けて立ち回る必要があるが……
まあ、俺もそんなバカをしないだけの分別はあるつもりだ。
何の問題もない。
というか、もしトレスデン周辺に面白そうなダンジョンがあったら素材採りに入ってみたいし、冒険者しかありえない。
「よし、そうと決まれば行動だ」
俺はまずカミラに依頼をすべく、彼女の店へと向かった。




