ピッツァ職人魂
今日の飲み会は、イタリア料理店。
厨房の奥にピザ釜があるのか、しっかりと耳に焦げ目が付いた本格派、日本で御馴染み宅配ピザと比べてはいけないピッツァだ。
しかし、先ほどの芽依が放った一言でイタリア人ルッソの言葉が止まり、冷めた目線は1/3が皆の口に収まったピザが乗る白い皿に向く。
(ふんっ!)
いかにも、気に食わないように見下げた雰囲気。
しかし、そんな様子も異に返さず、
「このスパゲッティも美味しい」
パスタも褒める芽依がいる。
その二つの褒め言葉に何の意味があるのかは不明だが、操られるように取り分け用のフォークを手にするルッソ。
そして、スパゲッティを持ち上げると、
「このパスタはダメだね」
と、明確な不満を口にする。
この飲み会が始まって、まともな言葉を初めて聞いた。
そして、歌に対する口説きが止まった所に注目したい。
「こんなスパゲッティは、イタリアではあり得ない・・」
本場イタリア人にしてみれば、納得が出来ないパスタらしい。
芽依が口を開いただけで話題が変わる。
言葉巧みに、口説きを止める話術はイタリア人をも越えるのか。
そんな合間にも、パスタへの批評は続く。
「イタリアでもレストランでパスタやピッツァを食べる・・」
なるほど・・・・、本場の料理と比べれば、日本のイタリア飯は違うのだろう。
そのイタリアが誇る伝統料理のピッツァはコルニチョーネ(額縁)と言われる生地の縁が美しく膨らんで、Pizzaiooと呼ばれるピッツァ職人が作る芸術作品だ。
また、パスタに至っては専用の職人であるPastaioが素材の形状によって、ソースを使い分ける。
と、でも言いたいのだろう、見事なまでイタリア料理への敬意を見せてくれる。
「でも、店で提供する食事に干したパスタなんてあり得ない、本来は自分で造るものさ」
いや、違った・・。パスタ類は自分で造るものらしい・・・・。
ちなみに、干したパスタはイタリア南部では好まれるが、店舗で購入する食材としての認識。
よくよく考えれば、本来のパスタは家庭料理なのだから、家で作るというルッソの意見は理解が出来る。
そして、芽依はスパゲッティの言葉を連発しているが、パスタの一種がスパゲッティでがあり、スパゲッティ=パスタでは無い。
それは、兎も角。
「まあ・・、まだピッツアは良い。でも、パスタは・・」
もの凄く、不快感が伝わってくる。
この店で提供しているのは、日本で多い乾燥スパゲッティーだ。
正に、出来合いとしての認識でしかないパスタ。
ソースは生ハムと海老を使用したもの。
イタリアの一部では、肉と魚、魚とチーズの組み合わせはタブーになっている。
そして、ここで芽依が相槌を入れる。
「凄く、パスタにこだわっているのね」
「当たり前さ。自分の国の食べ物にこだわりが無いなんてあり得ない」
そして、止まらぬ不快感煽られて、パスタの上にフォークを放り出す。
「ふんっ!、何だこれっ」
と、不満を口にした後に、ピッツァの白い皿に残った黒い煤を指で拭ってみる。
「・・・・、ピッツァの美しい姿が台無しだっ!」
イタリア人は料理が客の口へと消えた後、皿に残る見た目をも大事にするのか、白い器に残る煤汚れに不満を漏らす。
日本では料亭でもなければ器に拘る事も少ないが、国柄から来る美意識の違いなのだろうか。
しかしながら、一連のやり取りで芽依の調子は回復する。
(あはは、面白い!。口説きより料理に対するプライドが上なんだ!)
当初のイメージと異なる姿を見せるルッソを面白く思う事で、芽依の調子は更に上がる。
「本当?。じゃあ、君の手作り料理を食べてみたいわ~」
と、イタリア人の口説きを煽ってみる。
(ちょっと!、そんな事言ったら、お呼ばれされちゃうわよ!)
多少ながらも、ジュゼッペ・ルッソ の趣は変わったが、夏帆は未だ警戒心満々だ。
「大丈夫よ」
何か、芽依には策があるらしい。
「やっぱり、文化研究会っていうから、イタリアを代表する料理をセッティングしたと思うんだけど、他の男の子達も料理に興味があるんでしょ?」
他の男子二人にも話題を振って、マンツーマンでお呼ばれされるつもりはないと言うことだ。
そんな思惑を知らない日本人の二人は言葉が詰まる。
「えっ・・・、いや、外で食べる位だけど・・・・」
と、思わぬ問い掛けに躊躇した二人は正直な返事を口にするが、
「ちょっと、待った!」
ルッソから横槍が入る。
「もちろん!、僕らは料理もするよ!。普段の生活にこそ、国々の文化が現れる。料理は文化交流の基本なのさ」
と、胸を張りながらの主張。
そして、ルッソ自身は料理をするようだ。
しかし、残る男子二人は違うらしい。
「いや、料理なんかした事ない・・」
と、言いかける。
「今度、友達を紹介するから・・・」
と、言うのはルッソ。
女友達を紹介するから、口裏を合わせてと言いたいのだろう。
「本当か?!」
「しっ!、声が大きい!」
と、小声でしゃべる男子勢。
しかし、その場に女子はいるのだから、小声でも丸聞こえなのだ。
「もちろんさ、料理あっての文化研究会だからね」
都合良く、二転三転する男子の主張。
余りにも定石過ぎる反応に、詰まらないコントを見ているようだ。
(う~ん。結局は、そうなのよね・・)
その場の空気は戻りかけて、多少の盛り下がりがある。
(でも・・、面白いところはあるかな・・)
思惑を隠しているようでも、誰にでも分かるような反応をする男子達は面白いという評価が出来る。
「じゃあ、OK?」
と、料理を振る舞うかを芽依は確認する。
「もちろんさ、アモーレ!。三人の天使に祝福を、僕の料理で祝福するよ!」
「あはは、ルッソ君が祝福してくれるんだ!」
こうして、もう少し深くイタリアの事を知る機会を得た。
しかし、
「それって、また、このメンバーで集まるの?!」
夏帆から本音が漏れる。
「駄目かな?。もう少し僕達のサークルを知って欲しいな。僕らにしてみれば、今日の飲み会は楽しいものだけど・・」
と、葉山が言う。
サークル代表者としては、折角の機会を無駄には出来ないという気持ちがあるのは夏帆にも理解が出来る。
「・・、いや・・・」
返事に困るのか、言葉に詰まる。
「つまらないって、訳でもないんですけど・・」
と、声のトーンが少しずつ下がりながらの返事になる。
余り、乗り気ではない夏帆であることが分かる。
しかし、このような様子を見せれば、
「夏帆さんは、飲み会での親睦だと疲れちゃうんじゃない?。今度は僕らの活動内容ふまえての食事を薦めるよ?」
と、小首を傾げて、気を使ってくる。
(うっ・・)
再び、言葉が詰まる。
「うんうん、私もルッソ君の料理を食べたいし~」
と、眼をハート型にしている歌。
夏帆以外は賛成多数が占める状態。
そんな夏帆が助けを求めるように芽依へと眼を向けるが、
(お願い、ちょっと面白くなってきたから、もう少しだけ話をしたい)
と、願い事をするように、顔の前で手を合わせる芽依。
(じゃあ・・、いいけど・・)
渋々ながら納得するしかなく、夏帆は小さく頷いて同意をした後に、何か想う事でもあるのか独り言を漏らす。
「でも、大丈夫なのかね・・?」
最後は、諦め加減を含めた言葉で締めた。
と、いうわけで、次回はルッソの手作り料理を楽しむ事になる。




