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ジュゼッペ・ルッソ

「やぁ!、初めまして。文化研究会の代表者の葉山です」

 サークル名にふさわしく爽やかな第一声。

 そして、女子の中心人物である歌に挨拶。

「立花さんとは何回か顔を合わせたよね」

 既に、歌と馴染みのようなサークル代表者。

「うん!。でも、今日は友達も一緒だから、紹介するね~」

 と、歌の方も気さくな返事をして、一緒に連れてきた二人を紹介する。

「こっちの女の子が芽依ちゃん」

 まずは、芽依の方を紹介。

 特に紹介する順序などは無いのとは思うが、今日は芽依が中心になるはずなので先の紹介になったのだろう。

「北大路 芽依です。今日は楽しみにしてました」

 実際に楽しみしていたのだから、嘘偽り無く挨拶が出来る。

(でも、何か悪い気もするかな?・・)

 と、思う。

 その訳は、飲み会に参加した理由が、サークルによる大学生活の充実ではなく、所属する人物興味があっただけだからだろう。

 しかし、

「あっ、大学生活を楽しくしてくれる人を探している子だよね」

 開口一番、今日の集まりに参加した理由を告げてくる。

(そうだった、この前の話を伝えておくって、歌が言ってたっけ・・)

 それは良いが、大学を楽しむという縛りがある以上、サークルへの勧誘があり、更には男子からのアピールがある割り増しになるという思いが脳裏に浮かんでくる。

 想定はしていても、距離を置きたい案件だが、

(でも、まあ・・、いいか!)

 と、簡単に割り切れる様子が見える。

 その背景には、色々な思惑を打ち消すほどの活躍をしてくれるはずのイタリア人がいるならば、楽しみが増えるような気がするのだろう。

「ええ、そうです!。今日は本当に楽しみ!」

 芽依のスイッチが入る。

 そんな芽依を気付くのは夏帆。

(ずいぶんと、張り切ってるな・・)

 張り切る理由は分かってはいるが、調子に乗り過ぎると、余計な勧誘が付いてくる気がする。

 そして、夏帆もサークル勧誘に乗り気ではない。

「で、こっちの背が高い子が夏帆ちゃんって、言うの~」

「夏帆です」

 夏帆の言葉は、少し控えめ。

 名前だけを告げて、軽く頭を下げる。

 歌は兎も角、芽依の調子までおかしく見えたので、抑え気味になったのだろう。

「二人とも、まだサークルを決めてないの~」

 と、なるべくなら遠慮したい案件が告げられて、勧誘の話があるのは確定する。

「そっか!。じゃあ、今日は僕達が主催するサークルの話を聴きながら、楽しんでよ」

 と、葉山からは当然のような返事。

「じゃあ、僕達の方からも紹介するよ。と、言っても、今日のメンバーは三人だけだけど」

「初めまして、坂松です。」

 と、男子の二人目も挨拶は普通。

 ならば、極めて普通のサークル飲み会になると思われるが、女子三人が望むのは平常な集まりではない。

 色々な思惑は避けておきたいと言いながら、望む案件は確保したいという都合の良い言い分である。

 しかし、それは注目すべき三人目の働きで正否が決まる。

「チャオ!、アモーレ!。僕の名前はルッソ!。ジュゼッペ・ルッソ だよ。君と逢える今日という日が天国なのかな?」

 いきなりの飛ばし加減。

 話題の中心、イタリア人だ。

(ちょっと!、いきなり愛を語ってんだけど・・・・)

 アモーレは愛する人と言う意味だ。

 それを合った瞬間に口走る▽○に夏帆が素早く反応する。

(えっ、今のは挨拶でしょ?)

 と、芽依は思う。

 チャオという言葉の意味までは分からないが、挨拶の一言である事くらいは知っている。

(でも、イタリアの人って、挨拶の時に愛とか愛する人って言うの~?)

 と、いうのが、歌の疑問。

 歩きながらの下準備が効いているのか、先入観が付き過ぎている三人。

 しかしながら、チャオは【こんにちは】という意味でイタリアでは極めて普通の挨拶である。

 そして、アモーレも挨拶上で使われるならば、不自然な言葉ではない。

「彼は留学生。イタリア出身なんだ」

 と、改めて紹介される。

 しかし、それは既に知っていて、イタリア人目当てに飲み会へ参加しているのだから、居てくれなければ意味が無い。

「北大路さんの話を聞いて連れてきたんだ。僕らのサークルは文化研究と言っても、映画などの観劇を主題にする訳では無くて、各々の国柄の文化に馴染む事を目的にしてるしているんだ。だからこそ、色々な人材が揃うし、僕らのサークルが持つ特色かな」

 と、軽くサークル勧誘を匂わせて、とりあえずの顔合わせが終わった。

「それじゃあ、乾杯~」

 いよいよ飲み会の始まりである。

 すると、早速とでも言うように、目的を目指してジュゼッペ・ルッソ に眼を向ける芽依。

 しかし、その対面に座るのは代表者の葉山。

「北大路さんて、サークルを探しているの?」

「えっ・・」

 飲み会が始まった直後の勧誘を感じさせる話が出て、少しばかりの戸惑いを見せたが、顔合わせの時に出た話を鑑みれば、当たり前のような会話。

「あ~、そんな感じかな・・」

 と、同意はする。

 サークルの集まりに混じりつつ、動機を否定するのは変だと思ったのだろう。

「でも、学生を楽しむのはサークルだけじゃあないって気もして、大学を楽しくしてくれる人を探す為にサークルを選択肢にするのもアリっていう感じ・・、かな?」

 軽くサークル所属を断るための伏線を交えつつ、目的を観察するという選択肢を残すための対応をしてみた。

(でも、言い回しが遠すぎたか?・・)

 聴きようによっては、曖昧な言葉になると思う。

 しかし、

「あっ、そうなんだ!?。うん、うん!」

 何故か葉山の鼻息は荒くなる。

(あれ?・・)

 そんな思わぬ反応に疑問を感じて、先ほどの曖昧な返事が原因かと思い、言葉を継ぎ足すように自分自身でフォローを入れる。

「あっ、気を悪くした?。みんなを相手にしながらの話じゃあないよね」

「いや、全然。北大路さんの言う事は理解が出来る。せっかく入学した大学なら、楽しむべき事は多くあるはずだし、そんな相手を探す為にサークルがあるっていう認識は正しいと思うよ」 

 代表者というだけあって、理解がある様子を見せてくれる。

 しかし、芽依が言った【楽しくしてくれる人を探す為にサークルを選択肢にする】という言葉は色恋を希望するような意味にもなる。

 と、いう事で葉山の様子があるのだろう。

「まあ、サークルでなくても大学を楽しめる方法はいくらでもあるよね!。何だったら僕に相談してくれても良いし、今日みたいな集まりから相手を探すのも一つの手だよね!」

 と、多少の早口な葉山。

 芽依にとっては違和感を伴う理解力であるが、目尻を下げながら笑顔を向けてくる所に、明らかな誤解と異なる方向への親しみを感じる。

(・・・・、まあ、いいか・・)

 少し思惑とは外れてはいるが、気にすべきほどの事では無いとした。

 その一方で、夏帆の相手は坂松。

「夏帆さんて、大人しいんだ?」

「ええっ、私が?」

 とりあえずは、初対面の相手に打ち解けあう為の問い掛けをする坂松。

 そして、意外な評価を受ける夏帆。

 言葉少ない挨拶が生んだ、変な誤解を受けている気がする。

「もしかして、緊張してる?」

 無難かつ、筋道から逸脱しない会話を続ける坂松。

 第一印象で問い掛けた返事が、【えっ!】という驚きを伴い、落ち着きをもたらす【緊張してる?】という言葉を掛ける事で、包容力をアピールする様子が感じ取れる。

 そして、次は学年が違うことによる年上からの気遣い。

「入学してから初めての飲み会なのかな?」

「あっ。えぇ、まあ、初めてではあるんですけど・・」

「そっか、でも、高校を卒業したばかりで慣れない事ばかりだろうけど、僕らに相談してくれれば大丈夫だよ」

 自分は頼りになる存在アピールだ。

「でも、夏帆さんって、大人しそうだから、友人はしっかりした人を探した方が良いんじゃない?

 恐らく、その友人候補は坂松自身の事を言っているのだろう。

「はぁ・・」

 そんな坂松の心を読めるのか、夏帆の心は下がり気味。

「真面目な人を探すなら、僕らのサークルに入っても良いし」

「・・・・、」

 変な誤解から、ありきたりな方向に進んだ会話に言葉が止まる。

(まあ、いいか・・。こんな席で、自分の性格は大雑把です。何て言うのもおかしい・・、のか?)

 と、言った感じで、芽依と夏帆の相手である日本人男子二人とは問題が無い程度で会話が続く。

 しかし、

「ふふふ、君の声は天使のようだ」

 歌が座るテーブルだけが、イタリア人の独壇場。

 いきなり天使の言葉が出て、間も置かずに変わる世界観。

 天使が祝福のラッパを鳴らし、白く小さな羽を動かし、二人の間を飛び交う様子が見える。

 そんな中、

「え~、そうかな~?」

 褒めてもらって、素直に喜ぶ歌。

 そして、謙遜と疑問を伴う返事をしたが、

「やっぱり、僕は天国に迷い混んだのかな?」

 更に褒める。

 口説き相手の疑問よりも、自らの主張を続ける衝動。

 ただ、女性を口説きたいという独自の世界がルッソの中で構築されるのか、文化の違いを学ぶサークルというよりは、次元が違う思考が脳裏で輪を作っているのかも知れない。

 そんな世界が繰り広げられる中。

「でも、大人しいなんて、言われたの初めてですよ」

 と、先ほど問われた事に返事をする夏帆も、

(まずは、歌か・・・・)

 と、思う。

 その横で、ルッソを注視する芽依。

 そして、男子サイドからも小声が聴こえる。

(おい、ルッソの奴。相変わらず飛ばしてるな)

 ここで、一旦沈黙の時が流れる。

 それほどまでに場の空気を切断するイタリア人トーク。

 もっとも、ルッソにしてみれば、普段通りの行動なのだろう。

 それでも周りを圧倒するところが凄い。

 しかし、今は静観する男子と女子。

 男子からしてみれば、ルッソがノーマルモードであるのは知っていて、芽依と夏帆にしてみれば、聞いた通りのイタリア人である。

 しかし、

「えへへ~、そうかな~。そんなに誉められたの初めて~」

 歌の調子だけが上昇してゆく。

「僕は眼に見えた事だけを、口にしているだけさ・・」

 歌が素敵だから、真実を告げいるだけらしい。

「それが誉め言葉に聴こえるなれば、君自身が正しく美しい女性だと気付いていないだけなのさ・・」

 と、更に褒める。

「でも、それは僕のためだけに、見せて欲しい・・・」

 そして、口説く。

 一連の言葉は、サークル活動と繋がりが無いようだが、他国の文化を知るには許容の内なのか。

「何だか、あらかじめ聴いていても驚いちゃうね」

 改めて、イタリア人と日本人男子の違いを理解する夏帆。

 遠回りがちに変化球で女子へ接触してくる日本人、有無を言わさず直球を投げてくるイタリア人。

 冒頭から始まる口説き文句に驚き、目の前にいる日本人をスルーしがちに、横目で歌とのやり取りを聴いている。

「え~、そうかな~?。じゃあ、

ルッソ 君とだったら良いのかも~」

 話の過程は不明だが、何やら歌は落ちかけているのか?。

「ちょっと!、芽依。歌が口説き落とされるわよ!」

 初めから警戒していた分、焦りも割り増し、声も大きくなる。

「なんだ、あの子。口説き落とされる訳がないって言いながら、一番ヤバいじゃないか」

 と、いう友人の言葉を聴きつつも、芽依はオレンジジュースを飲む。

「うん。本当に、あんな風に口説くのね」

 と、関心が消え失せたかのような返事。

 当初の過熱感は既に冷めていて、思っていたよりイタリア人ジュゼッペ・ルッソ への評価は低い。

「実際は、もっとエスコートぽい口説きかと思ったけど・・、違うじゃない・・」

 聞きかじっていた口説き文句と違う展開を期待していたのか、誰に言うのか分からぬ苦情も口から洩れる。

「エスコートどころか、私には歯が浮きそうな言葉の連発にしか聞こえないけど!」

 と、夏帆の方は過熱しすぎ。

 意見の違いはあるが、三人が聞きかじっていた口説き文句は、街角で女性を誘う為のものに近く、間を置かずに結果を得るためのもの。

 それを先日の飲み会で聴けたのは、口説きが終局に入った頃のものないだろうか。

 故に、歌とルッソの会話が大人しく聞こえる。

 そんな訳で芽依は平常心を保ち、驚くのは夏帆だけなのか?。

「ああ、私はビックリ仰天だよ。それにしても、何で1人で盛り下がってんの!。さっきまでのやる気はどうした?!」

「だって、聞いてはいたけど・・。結局は他の男の子と同じ何だもの・・」

 結局、日本人男子とイタリア人男子は色恋が絡むやり取りしかしてない。

 そして期待していた分、熱が冷めるのは早い。

 変化球と直球であっても、届く所は同じ場所で、男女の距離を縮める行為に変わりはない。

「出来れば、もっと変わった事をして欲しいのよね」

 と、言いつつ、ルッソ の方を見れば、

(チャオ!)

 と、心の中で話し掛けるように、ウインクが返ってきて、少しばかりは驚くが、想定した範囲なのであろう。

「そうじゃないでしよ!。あんたの為に開いた飲み会何だから、歌が口説かれちゃあまずいのよ!」

 更に、声が大きくなると流石に男子達にも聴こえるようで、早速と言わんばかりに坂松が反応する。

「うん?、どうしたの夏帆さん?」

 首を傾げて問い掛ける姿で、包容力が割り増ししている。

「え?、いや、何でもないです」

「そう?。もしかして、疲れちゃった?」

「いえ・・、大丈夫です」

 変に好意を含む気遣いが面倒臭いと思うのか、うつ向きつつ返事をする夏帆。

(ちょっと、芽依!、何とかしなさいよ。言われなくても、私は疲れてきたんだけど!)

 と、芽依に助け船も求めると、

「なるほどね・・」

 芽依は指を唇に当てて、少し想いにふける。

 その間にも、イタリア人の口説きは続き、

「君と・・」

 更なる口説きが始まろうとする。

 多少、場が荒れてきたせいで、本題に触れる糸口も見えてきた気がするが、友人への口説きを止める為に芽依の口が開く・・。


 そして、テーブルの上に置かれたピッツァへ告げる言葉は・・、


「このピザ美味しい」

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