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サークル話論争


 桜の樹々から洩れる太陽の光。

 花が新緑に変わる季節に進む5月の初め、緑鮮やかな大学校内は

私服での通学に変わった女子達で華やかな趣が増す。

 校内を歩く三人の女子学生。

 春を迎えて1ヶ月たった今でも、新調したばかりを想わせる服装からは初々しい余韻を感じて、その様子から今年の新入生だと言うことが分かり、新たな門出には華が咲く。

 と、いった雰囲気が嬉しい大学生ならば、女子が3人集い交わす会話は、さぞかし素晴らしきものであるのだろう。

「どうしたのよ。上の空じゃない?」

 と、三人の中で一番背の高い女子が口を開く。

 その言葉が向う先は、華の女子大生が揃う中にも関わらず、上の空という言葉が示すように虚空を見つめ、無我の境地にいるような女子。

「何かあったの~?」

 と、もう1人の片割れが問い掛ける。

「うん?、気にしないで。何でもないから」

 友人からの問い掛けにも、何でも無いと応える。

 何でもないとは言うが、心に気にかける事があるから上の空というものを見るのであって、大抵は憂いという喜ぶべきものと正反対の事柄を抱え込んでいるはずある。

 しかしながら、本当に悩むべきものすら無い事をアピールするかのように両手を広げてから言葉を発する。

「そう!、何も起きないんだもの、大学って!」

 先ほどまでの無我は何処に行ったか、声高々に華の大学生活を否定する。

 華の咲き誇る新入学と書いたばかりであるが、この女子が持つ心の内は花と緑の季節が過ぎ去って、枯れ葉舞う冬の訪れなのか。

「何だか、つまらないものね、学生最後の生活って・・・」

 と、未だ止まらぬ不満を口にする。

「いきなり黄昏ちゃってるよ、この子。まだ、入学してから1ヶ月しか経ってないんだけど」

 多少は呆れ気味はあるが、黄昏ゆく友人に声を掛ける。

 しかし、

「でも、私は気にかけないよ。芽依の悩みって、いつも大した事じゃあないんだもの」

 と、突き放すような言葉。

 そんな話の応酬に、芽依と呼ばれる女子は、一層の落ち込みを見せるかと思えば、

「そんなこと無いわよ?、見て!この楽しげな人々!。男女が入り交じり、何て素敵な笑顔が溢れているのかしら!」

 力一杯、華咲く校内を表現する。

「うん、サークルの勧誘だね。てっ言うか、まだやってんだね。あの人達」

 大学生活を楽しむには、いくつかの必須とも言える魔法がある。

 それは、サークル・飲み会・男女交際の3つ。

 その魔法の1つがサークルは、大学で一番初めに直面するもの。

 しかし、全く興味を示さない女子もいるらしい。

「夏帆って、何でそんなに覚めているの。そして、そんな中に居るにも関わらず、落ち込む私が大した事でなくて、何だと言うの?」

「何でって、それが私じゃない。1ヶ月も一緒に入れは、いい加減に理解しなよ」

 止まらぬ言葉の応酬、お互いに歯に衣を着せず、交わす言葉をただ聞いていれば、親しみを持つが故の関係性が見てとれる。

「そうだよ~。私はそんな夏帆が気に入っているよ~」

 と、もう1人の友人も会話に加わり、

「でも、2人もサークルに入るんでしょ~」

 芽依と夏帆の二人が否定するサークルに対して、入部を薦めるのは歌と言う女子。

「ついに出た!、身内からのサークル話!」

 すでに大学生となり1ヶ月が過ぎたと書いた。

 話の渦中になっているサークル勧誘は一段落して、学内も落ち着きを見せているが、サークルを完全否定する者と楽しむ者がいて、3人の会話に激しい温度差を感じずにいられない。

「だって~、もう私はサークル決めちゃったし!」

 サークル話を持ち出した女子は実に楽しげだ。

 それもそのはず、華の大学生活とは、サークルという学業に全く関係の無い謎の行動集団に関わってこそあり得るのだから。

 しかし、芽依は言う。

「良く考えて?、歌。サークルは楽しいかも知れないけど、所詮は高校のクラブ活動に男の子からのアピールが付随しているだけじゃない?」

 生々しい現実で、友人を魔法から引き剥がそうする芽依。

「それは言い過ぎでしょ」

 と、夏帆と呼ばれた女子は言い。

「でも、適して当たってる。あはは!」

 と、直後に肯定する。

 サークル養護をしていながら、即座に卑下する自分が楽しいらしい。

「二人とも、楽しそうね!」

 と、言う芽依。

 大学がつまらないと言いながらも、大学生活に必要な知人はいるようだ。

 華咲き乱れると言うよりは、話乱れる三人と言った方が正しい。

 その中で、大学がつまらないという言葉を洩らしたのは北大路 芽依。

「二人の意見は分かるけど、何が起きるか分かりきった事に夢中になんかなれないし!」

 いきなり、大学生活の核心を突く。

 大学に付き物のサークルは、スポーツや文化などの活動の違いはあれども、その先にある飲み会、そして更に待ち受けるのが男女交際。

 サークルに所属した時点で、3つの魔法は確定したも同然で、結果までが想像出来る範囲であり、決して逸脱する事が無い。

 それ故につまらない。

 それが、北大路 芽依という女子学生の意見らしい。

「馬鹿みたい。みんな、同じ考えで一年から卒業するまで同じ事をして過ごしていくんだろ」

 と、先ほどから正論だけを口にするのは戸田 夏帆。

「芽依だって、そんな感じで四年が過ぎて行くよ~」

 と、甘ったるい口調で話すのは、立花 歌。

「そうかな?。だったら、私の主張は意味が無いの?」

 と、聞くが、大学生だけが持つ特権というものは、他に代わるものは無い。

 仮に、卒業後に波乱に満ちた人生を送るとしても、大学で過ごした四年間に比べれば。充実感は遠く及ばない。

 故に、芽依の主張は無慈悲に破壊されるしか無いのである。

「そんな訳だから、芽依も冷静に戻りな」

 と、夏帆がたしなめると、

「う~ん、そうね。ちょっとはしゃぎすぎたかも」

 芽依も、意図も簡単に己を取り戻す。

 元々、悩むと言ったほどでも無く、ちょっとしたジョーク。

 または、場を盛り上げたかっただけなのかも知れない。

「でも、高校入学の時は、もっとドキドキした!」

 と、気持ちが収まれば、大した事もない口調に戻る。

 そして、芽依にとっての大学生活は、思春期に当たる高校生活と比べて、一味落ちるらしい。

「だって、高校の時は面白い人が沢山いたんだもの。あっ、二人は別よ?、夏帆と歌は素敵な友達!」

「何か、よっぽど幸せな高校生活だったんだろうね、この子」

 相変わらず、突き放し気味の夏帆。

「違うよ~。いつまでも高校生活が忘れられないんだよ~。だから、大学の楽しみ方が分からないんでしょ~」

 緩い印象を想わせる割には、核心を突いてくる歌。

 「う~ん?。そうかな?、でも、そうかも知れない」

 歌が言うように、大学への期待が大きすぎて現実に落胆しているのか、又は高校生活から離れられず、現実に馴染めないのか。

「贅沢だね。いずれにしろ、みんな同じだよ。芽依だって、何かをしたくて大学を選んだ訳じゃないんだろ」

「それは、そうだけど・・」

 物の言い方から、アクティブなイメージを持つ芽依ではあるが、自らが求める理想を叶えるには、自らが動く姿が必要なのである。

 しかし、

「でも、私が何かをするんじゃあなくて、周りが何かして欲しいのよね!」

 思い切り、受け身な思考を口にする。

「何それ~。どうせ、みんな同じだよ~」

「そうそう、おつむの中がお嬢様かね?」

 ひどい言われようだ。

 それでも、アドバイスだけは出る。

「そうねぇ、芽依が理想する人を探すなら、サークル嫌いで、起業や資格取得とかにこだわる奴とか?」

「あ~、格好良いよね~。将来、CNNとかになる男の子とかいるのかな~」

 CNNはイギリスの放送局だ。

「歌、それを言うならCEOだよ」

 と、夏帆からの突っ込みも入る。

「う~ん、そういうんじゃないんだよね・・・」

 未だ、煮え切らない芽依。  

 それは差し置いて、話題は変わる。

「そんなことより、歌のサークルから飲み会を誘われているんでしょ?」

「そう~、もう少し部員が欲しいからって、頼まれたの~」

「だってさ、芽依も大学がつまらないなんて言っていないで、サークルの沼に沈みな」

 結局は、収まるところに収まるしかないのか、しかし芽依の返事は会話の流れに逆らい続ける。

「ごめん、私は遠慮しとく」

 この場になっても、自分の感性に付き従う芽依。

「え~、なんで~?」

「本当にいいの?。つまらない大学生活を変えてくれる出逢いがあっても、後悔しないね?」

 と、言うのが、連れ合い二人の意見だが、芽依の気持ちは変わらない。

「あはは、大丈夫!。そんなの簡単にいるわけないし!」

 そして、用事でもあるのか、二人を残して学外の方へと離れて行く。

「歌、ごめんね~。次の機会に埋め合わせはするから」

 と、芽依は手を振る。

「うん、いいよ~」

 素直な返事をする歌であるが、

「でも、サークルメンバーには大学の楽しむ為の出逢いを求める友達がいるって伝えとくね~」

 きっちりと、サークル所属への道筋を立てる。

 そして、夏帆は相変わらずに、

「そうだ。そう言っとけば、芽依も参加するしか無くなるわ。あはは!」

 楽しげな笑い声で場を閉めかかる。

「あはは!、いいよ。凄く面白い人がいれば、サークルくらい顔を出すし!」

 何だかんだと言って、楽しげな3人。

 と、言う会話があった後日。

「芽依!、いたわよ!」

 校内を歩いている最中、呼び止められる芽依。

 呼び止めたのは夏帆。

「?」

 呼び止められてはいるが、話の用向きに思いが至らない。

「いたって、何が?」

 と、疑問を投げ掛ける。

「何って、この前、言ってたじゃないか。大学生活を何とかしてくれる人を探しているんでしょ?!」

「あぁ、そういえば、そんなこと言ったわね」

 あれほど会話が盛り上がったにも関わらず、大して興味が無いような反応。

「もう!、何よ。こっちはレアな物件を見つけたつもりでいるんだけどね」

 と、夏帆は憤慨する様子を見せる。

「ごめん、ごめん。で、どんな人?」

 お詫びの言葉を付けて聞き返すと、多少は機嫌が収まるのか、口を開く気にもなる。

「聞いて驚くなよ!」

 しかし、探し当てた人物に自信があるのか、かなり語尾が荒い。

「うん」

 頷く芽依。

 そして、夏帆の口から、少しだけ予想外な言葉を聞く。

「私が見つけたのは、イタリア人だ!」

「ははあ・・」

 少なからずの納得を思わせる返事。

 しかし、それでも十分だ。

(なるほどね・・・、海外留学生か・・)

 退屈な大学生活を超越するには、人種を越えてのアクティブ感が必要らしい。

 と、言った感じで多少の食指は動くらしい。


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