第七話 おはよう(二度目)
おはようございます。寝てると藁がチクチクと(以下略。……このくだり、これで3回目ぐらいですね。
でも本当になんで自分の部屋にいるんでしょう?確か覚えてる限りでは朝起きて(起こされて)……朝食を食べて……あれ?その後何しましたっけ?
なんかすごい嫌なことがあった気がしますけど……。
………あっ!将軍さん、確か将軍さんに侮辱されて………何したんだっけ?
……まぁいいか。
窓の外を見ると太陽の位置は朝見た時から殆ど変わらず。朝食後からあまり時間は経ってないみたいですね。
……準備して……っと。まあ取り敢えず部屋の外に行きますか。
誰かいるかも知れませんからね。
………えっ?布団を畳めって?いやですよ面倒くさい。
………。
「………。」
はい。部屋の外に出て5分ほど廊下を歩いたところでエンカウントです。
異世界に来てからまだ二日目。城の構造なんて分かるわけもなく、外から入ってくる音しかない静かな空間を足元を見ながらとぼとぼと歩いていたわけですね。
そしたら吃驚!いきなり目の前に影が差し込んできたものですから反射的に顔を上げてしまいました。
まず目に入ってくるのは緑色をした軍服。
そして、腰に差している剣。
そしてそして、すごく不機嫌そうなむさい髭面。
なんというか…、ですね…。
───威圧感が……威圧感がすごい。
そう、威圧感が兎に角すごいのです。その一番の原因は体格。
大柄?デブ?太っちょ?なんと表現すればいいのか分かりませんが横に大きい。背はそんなです。僕の身長が150cmぐらい?……最後に測ったのがだいぶ前なので正確には分かりませんが。
そんな僕でもジャンプすればつむじにギリギリ届きそう……っていうくらいの身長です。因みに髪の毛はふさふさです。
あともう一つがその顔。そこだけ切り取ればザ・悪人面って感じです。よく某吸血鬼人間讃歌漫画とかで主人公に敵対して部下に「大佐!!大佐!!」って呼ばれる人いるでしょ?……あれ、少佐だったっけ?
……取り敢えず僕はそう感じたんです。でもなんかどこかで見たような……?
「………。」
「………。」
……で、そんな人がいきなり目の前に出てきたら固まらない人の方が少ないでしょう。
……っていうか居たなら声を掛けてくださいよ。どう考えても僕みたいな美少女が誰もいない廊下をあるいてるんだから何かリアクションをしてほしいものです。ぶつかってたらどうするつもりだったんですか。
「おい。」
「──ッ、ハイッ!?」
変な声でた!?変な声でたよ!?
ビックリしました。いきなり話しかけないでくださいよ。
「……ここで何をしている?お前は勇者だろう?なぜ他の勇者達と一緒にいないのだ?」
「いえ……、あの……その……」
どうしましょう……。誰かいないんですか助けてくださいよ。
……ホントに誰もいませんね。
「あの……「いやまあいい。それよりもこっちについてこい。」………。」
えぇ…。嫌ですよこんな怖い人と一緒に過ごすの。
あぁ……ちょっ……、やめっ……服引っ張らないでくださいよぉ。わかりましたついていきますからぁ。
誰かぁ……助けてぇ……。
……というか思い出しました。この人将軍(仮)さんだ!!
☆☆☆
こつこつ、かつかつ
ユニレ城の廊下。そこを二つの足音が木霊する。
皆他の場所での仕事があるのだろうか?その2人とすれ違う人間は未だにいなかった。
足音の一つ。かつかつの方の音の主であるシェルナー将軍は悩んでいた。
悩みのタネはもう一つ。こつこつの方の音の主。
他の勇者と同じく黒髪黒目。後ろ髪は肩甲骨ほどまで結われずに下ろされ、背は150センチ前半。眠たげな目だがその瞳は確かな知性を示している。因みに胸はぺったんこである。他(の人間でこれほどの絶壁)意はない。
すなわち楓である。
前をシェルナーが歩き、そのすぐ後ろを楓が着いていく。
……のだが様子が少しおかしい。
シェルナーはバレないように僅かに後ろに目線をやりながら考える。
そしてすぐに気がついた。
(こいつ…右手の袖に何か隠している…?)
まず前提として召喚された勇者は全員王国から配給された衣服を着用している。
男女共に長袖長ズボン。簡素だが頑丈、そして……ポケットがない。
理由は単純、物を隠し持てないようにするためである。異世界より召喚されし勇者、当然そのような身分が不確かな存在を国で一番か二番目に警備が厳重な王宮に置くのだ。このくらいはして当然ともいえる。
だがそんな状況でも隠し持てないわけではない。
例えば靴の中、下着……そして袖の中。
(右手だけ手が下にむくときに手首が曲がっている。つまりなにか……留めておかないとスルリと落ちてしまうもの……ナイフ…いや彼女の行動範囲的にペンか?)
そして太っても軍人のシェルナーは推測し……更に警戒レベルを引き上げる。
いつでも振り向けるように重心は少し後ろに。
そして拳を握って……
「シェルナー将軍ですか?」
男の声が前方から聞こえる。若い声だ。
確か勇者達の中で指導者的な立場にいた者の声だとシェルナーは思い出す。
……握った手を再び開く。そして一度深い深呼吸を行い
「ああ。その通りだ。よく来てくれたな勇者達よ。」
そう、呼び出した勇者達へ返事を返した。