第5話 末期 真っ青 真っ赤っ赤
うーーーーーん。おはようございます。いい朝ですね。
天気は快晴、程よく涼しく今日は絶好のお昼寝日和となるでしょう。
何?眠たそう?僕が?はい。めちゃくちゃ眠いです。
硬いんですよ。城のベット。地球みたいにマットレスがあるわけではなく、用意されてるのは藁を敷き詰めた敷布団モドキ。
こういうところまで時代に忠実に再現しなくてもいいんですよ異世界さん。チクチクするし硬いしで気分は最悪です。
───コンコンコン。
「……カワセ様おはようございます。食堂にて朝食をご用意しております。」
「ありがとうございます。今行きますね。」
はぁ〜〜〜。……ねむ。
☆☆☆
ユニレ王国。
その歴史の始まりは人類と魔王の絶滅戦争──人魔大戦──の末期に於いて、当時の覇権国家レムリア帝国が崩壊するところまで遡る。
帝国の一領邦であった彼らは人類と魔王との戦争後、今度は人類同士で争い始めた戦乱の世界から領民と自分達を守るために独立。国号をユニレ王国とした。
ユニレ城はそんな建国したての王国政府が本拠地と定めた城である。
まだ王国領が公爵領と呼ばれていた時代。
つまりは平和で豊かな時代に築かれたこの城は非常に広大で優美な城である。
城下町ごと囲んで聳え立つ外壁は周囲からの攻撃を寄せ付けず、また街の外からも見えるユニレ城は王都への来訪者に無条件に畏怖と憧憬を引き出す。
国内外問わず多くの人が様々な目的で訪れ、レムリア大陸南部に於いて王都なくしてユニレ王国は語れないとまで言わしめるほどの繁栄を極めた王都は今───
「1列にお並びくださーい。」
「俺が先に並んでたんだ!!割り込むんじゃねえ!!」
「なによ!?私の旦那は軍人なのよ!?少しぐらい譲りなさいよッ!!」
「みなさん。本日の配給は終了しました。次の配給は明日、またこの場所で行います。」
「「なんだと(ですって)!?」」
───混迷を極めていた。
理由は単純。物資不足である。……それも致命的な。
戦争が始まってから急速に前線が後退する中で各地の輸送網は寸断。戦時体制に移行した王国政府によって民間の馬車は徴用され、多くの物資を積み込み前線へと送られる。
残った数少ない馬車の持ち主である民間の商人や輸送業者は王国軍が占拠する主要な道路網を利用できず、かと言って開戦からまともな巡回が行われていない道路には盗賊や魔物が跋扈しており、安全に通ることは難しい。
当然、どんな状態では彼らもまともな商売ができず赤字は拡大。収益より赤字が上回った結果、王国の僅かばかりの補償金と引き換えに商売道具《馬車》を手放すことになる。
民間での物流が停止し、国も軍にリソースの殆どを注ぎ込む。
動脈《道路網》が使用不能に陥り、血液《物流》が停滞し、臓器《各地の都市》が機能不全を起こしている……。それが今の王国であった。
さて、王都に話を戻そう。王都のような人口密集地に於いて、自力で生産できないものが一つある。それは食糧である。
戦前の王都は活発な経済活動によって多くの物資が街の外と取引されていた。その中には当然食糧も含まれており、国内中の食材を手に入れることができたのだ。
ところが戦争によって状況は大きく悪化する。
軍を除いて物流の担い手が姿を消したため、新たな物資が入ってこない街の中では食糧が貴重品へと分類されたのだ。
ここを商機と捉え、価格を吊り上げた商人が怒り狂った空腹の群衆に店ごと叩き潰される事件が頻発。売り手だけでなくその矛先が城へと向くことを恐れた王国政府は軍を用いて暴動の鎮圧と食糧の配給を開始。
ボヤ騒ぎ|《焼き討ち》は収まったが民衆の不満は燻り続けている。
「おい俺の飯はどうすればいいんだ!?家族だっているんだぞ!?」
「そう言われましても……。」
……空腹は苛立ちを加速させる。たが腹が減っては戦はできぬ。不幸にも強制断食会を始めることになった彼は諦めて家族に怒られるしかないのだ。
「クソッ!!これでも喰らえッ!!」
──パンッ!
……訂正。確かに戦はできぬが銃を撃つくらいは出来る。彼が手に持つはフリンクロット式のピストル。1発ずつ装填するよく海賊映画とかで見るアレである。
なんでそんな物を持ってるのか。なんで町中でぶっ放したのか。なんでよりにも寄って軍人を撃ったのか。そもそもなんで周りは気付かなかったのか。色々と聞きたいことはあるがそれ|《犯罪》をした者の末路は決まっている。
──すなわち豚箱行きである。
……こうして名前も知らぬ彼は家族と今後の人生を一時の苛立ちで失ったのでしたとさ。因みにこの後、王国の優秀なお友達《尋問官》に根掘り葉掘り聞かれることになるので、もしかしたらカツ丼にありつけるかもしれない。よかったね。あれだけ望んだ食事だよ。
「《治療》を使える魔法使いを呼んでこい!!腹を撃たれただけだ!!死にはしない!!」
「了解!!そこのお前。近くの駐屯地に伝えてこい。……それにしても…今月で3件目ですか…。」
「まったく兵器の管理はどうなってるんだ。あれは民間に流通してるもんじゃねえぞ……。」
なんと吃驚、町中で銃をぶっ放す阿呆が彼以外にもいたらしい。しかも軍用の。
微かにどころかガッツリと漂い始めた陰謀と血の香りの中で2人の配給員は暗い顔をしながら撤収を始めたのだった。