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掌の上の劇場  作者: マイク密


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30/33

待って、回収する

コンッ、パキンッ。


ウッドデッキの外、ランタンの光が届かない場所で、noRhythmノリズムが薪を割る音が、一定の間隔で続いている。

始めてから、もう二十分くらい経っただろうか。


(三本だけでいい、って……三神さん、言ってなかったっけ?)


一方で、三神さんは席についたままだ。

ひと通りやることがなくなったのか、立ち上がる気配はない。

食卓では相変わらず、佐々木さんとサキさんのやりとりが続いている。

昔話に、少し大げさなリアクション。

笑い声が一定のリズムで転がっていく。


三神さんも、そちらに視線を向けている。

口元には、軽く笑っているような表情。

でも——なんとなく分かった。

あれは、ちゃんと聞いている人の顔じゃない。

興味がないことを、周りに悟らせないための対応。


(……器用だな)


コンッ、パキンッ。

その音が続く中で、ふいに、三神さんが席を立った。

三神さんは、食卓から外れるように歩き、そのまま noRhythmノリズムのいる暗がりのほうへ向かう。


(あ、止めに行くんだ)


そう思ったけれど、怒っている感じはしなかった。

どちらかというと、タイミングを見計らっていただけ、そんな歩き方だった。

私は、会話の輪から意識を外し、三神さんとnoRhythmノリズムのやりとりに耳を澄ました。


「ノリ君、そこまででいいよ」

薪割りの音が、そこで、ぴたりと止まった。


「ていうか、何本割ったのさ。俺、三本でいいって言ったよね……」


確かに、そう言っていた。三本だけでいい、と。

それ以上はやらないで、とも。


noRhythmノリズムは悪びれた様子もなく、ただ斧を持ったまま立っている。


(……noRhythmノリズムはこの手のタイプか)


会社にも同じタイプがいる。人の話が全く聞けないタイプ。

本人は「ちゃんとやっている」と思っているけれど、周りからの評価は、だいたい別のところに落ち着く。


「もういいから、今度は火おこししてくれないかな。そのつもりなんでしょ」

三神さんはそう言って、noRhythmノリズムの足元に置かれていた道具のほうを指で示した。


noRhythmノリズムは一瞬きょとんとした顔をしたあと、何も言わずに頷いて、その道具を持って焚き火台に向かう。

三神さんはnoRhythmノリズムが割った薪を集めている。


なんだか、予測通りの行動をそのまま辿っているように見えた。

そういえば、三神さんが「ノリ君って、だいたい俺の予測通りの動きするから」って言っていたのを思い出す。

私はランタンの明るさと、暗がりで火を起こそうとするnoRhythmノリズムの背中を見比べながら、少しだけ不思議な気持ちになった。


(……三神さん、どこまで見えてるんだろう)


三神さんが、何事もなかったようにテーブルへ戻ってきた。


「ノリ君、どうだった?」

佐々木さんが、面白がるような口調で聞く。

「どうもこうも……相変わらず、人の話ぜんぜん聞いてないですね」

少し呆れたように言いながらも、声のトーンは思ったより軽い。

「あはは。そういうとこ、安定してるよなーノリ君は。で、これから何始めようとしてるのさ?」

「火おこし道具用意してたんで、火を起こしてくれって頼みました」

「え、ノリ君にそんなことできるの?」

佐々木さんが即座に突っ込む。

「うーん……ノリ君が持ってきたやつ、けっこう上級者向けなんですよね。ファイヤースターターでも、割と本格的なやつで。正直、自分がやっても結構手こずるタイプです」

「じゃ、ダメじゃん」

「まあ、しばらく様子見ます。ダメそうだったら、着火剤ポンしますよ」


そのやり取りを聞いていたサキさんが、声を落として言った。

「え、それって……撒き餌? 撒き餌なの? 誰か食べてあげないと可哀想じゃん」

サキさんは笑いを堪えながら、暗がりのほうを指さす。

「ねえねえ、これ完全に観察プレイじゃない? 失敗したら着火剤ドーン、みたいな」

そこまで言って、どうやらツボに入ったらしく、サキさんはもう笑いを堪えきれなくなっていた。

「サキちゃん、それくらいで勘弁してあげて」

佐々木さんが苦笑しつつ止めると、サキさんは「はーい」と軽く手を上げた。


そこから、十分くらい経った。

暗がりのほうからは、金属が擦れるような音と、ときどき小さな息の音が聞こえてくるだけで、火がついた気配はない。

三神さんは、しばらくその方向を見ていたが、ふっと小さく息を吐くと、静かに立ち上がった。

何も言わずに、noRhythmノリズムのほうへ向かう。


それから——一分もしないうちに。

ぱちっ、という乾いた音がして、次の瞬間、焚き火台から炎が立ち上がった。


三神さんは特に誇らしげな顔もせず、元の席に戻ってくる。


(これも予測通りなんだろうな)


そう思いながら、私は揺れる火を、しばらく眺めていた。

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