表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掌の上の劇場  作者: マイク密


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/33

共犯

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


軽く頭を下げると、三神さんが笑って答えた。

「こちらこそよろしくね。っていうか、なんだか申し訳ない感じもあるんだけど……今日来るの、嫌じゃなかった?」


いきなり、そんな切り込み方をしてくる。

ひょっとして、私がnoRhythm(ノリズム)のことを嫌がっているのに気づいてる?

――そう思ったけれど、それにしてもストレートだ。


「いや、全然楽しみでしたよ」

そう返しながら、軽く笑って言葉を継ぐ。


「三神さんこそ大丈夫ですか? サングラスの奥の目、ちょっと眠そうですよ」

「はは、バレました?」

三神さんは苦笑して頭をかいた。

「昨日あんまり寝てなくて。でも運転は大丈夫ですよ。レッドブルしこたま飲んできましたんで」


その言い方がなんだか可笑しくて、思わず小さく笑ってしまう。

どこか無邪気で、肩の力が抜けていて――今まで私が持っていた三神さんのイメージとは、あまりにも違っていた。


合コンのときの彼は、自分から進んで話すことはほとんどなく、ただ場に“いる”だけの人だった。

そっけないわけではないけれど、積極的に楽しもうという気配はまるでなく、どこか「仕事で参加してます」とでも言いたげな雰囲気だった。

けれど今日は、眠たげな目でふっと笑って、普通の人みたいに肩の力が抜けている。


「並木さんって、キャンプよく行ったりするんですか? 格好がそれっぽいというか……こなれた感じがするんで」


ハンドルを軽く切りながら、三神さんがちらりとこちらを見た。

その言い方があまりにも自然で、営業トークのような軽さがない。

思わず返事のタイミングを逃した。


「い、いや、行ったことないです。今回が初めてです」

「そうなんですか。てっきり慣れてるのかと。なんか、今日の感じ、すごく似合ってますよ。軽くテンションあがっちゃうくらい可愛いと思います」


いきなりの褒め攻撃だ。

けれど、口調も表情も軽すぎない。

どこか冗談めいているのに、不思議と嫌な感じがしない。

――この人、やっぱり慣れている。

そう思った。


「まずノリ君拾ってから現地に向かいますね。多分、お昼過ぎには着くかと思います」

そう言って、三神さんはウインカーを出しながら車を滑らかに高速へと乗せた。


「あの、交通費とかは……」

「あー、全然気にしないでください。そういうのは全部、佐々木持ちなんで」

「え、そうなんですか?」

「うん。今回は場所代も飯代も全部佐々木持ち。だから“金に糸目をつけない”を趣旨に手配したんで、期待しててね」


「ごちになります」

思わず口をついて出た自分の言葉に、三神さんはハンドルを握ったまま笑った。


「あはは、いいね並木さん」

軽い笑い声が車内に広がる。

さっきまで感じていた緊張が、少しだけほどけた気がした。



車は高速道路を千葉方面に向かっている。

どうやらnoRhythm(ノリズム)の家は千葉にあるらしい。


ハンドルを握る三神さんが、少し声のトーンを落として言った。

「ちょっとぶっちゃけた話していいかな?」

「なんですか?」

「並木さん、ノリ君のことどう思う?」


どう思うって……いきなりすぎる。

確か、三神さんはnoRhythm(ノリズム)のマネージャーだったはずだ。

そんな人に、正直に話していいものなのか迷う。


「ほんと、ぶっちゃけちゃっていいよ。これ俺的には必要な情報なんで」

「ぶっちゃけちゃっても……いいって言われても……」


「なんか無理強いしてるみたいでごめんね。並木さんの答え次第なんだけど、嫌な思いをしないように――フォローできることもあると思うんだ」


嫌な思い。

――やっぱり、この人は気づいている。


「あーえー……ちょっと迷惑。だいぶ、かも」

「やっぱりかー」


笑い飛ばされるかと思った。

けれど三神さんは、意外にも真剣な顔をしてる。

前を見つめたまま、ほんの短く息を吐く。


「なんかご迷惑かけてるみたいでごめんね。あれでしょ、返答に困るLINEが頻繁にくるとか、謎に靴の写真送りつけてくるとか」


思わず笑ってしまった。

「まさにそんな感じです。……なんでわかるんですか?」


「もう、5年以上一緒にいるんでね。なんとなく彼の傾向はわかっちゃうというか」


三神さんは、苦笑しながらウインカーを出す。

「放っておいてもそれ以上の害はないと思うんだけどね。だけど、受ける側的にはきついよね、ああいうの」


「すみません。きついです」

思わず素直に返してしまった。


「だよね。そんな感じなのに来てくれてありがとね。今日は全力でフォローするんで安心して」


その言葉に、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。

冗談っぽいのに、なぜか本気で言っているように聞こえた。


「じゃあ、早速noRhythm(ノリズム)対策しましょうか」

「お願いします」


気が重かったことなどすっかり忘れ、なんだか楽しくなってきた。


「基本、ノリ君は俺の予測通りの行動するからさ。都度それを並木さんに伝えるんで、先回りして回避作戦っていうのはどうだろう」

「なんですかそれ。……というか、そんなことできるんですか?」


「それが、できるんだなあ」

三神さんは少し得意げに笑って、視線を前に戻す。


「ノリ君は捻くれたところがないというか、基本“純粋ピュア人”だから。ほんと、こっちの予測どおりに動くんだよ」


その“純粋ピュア人”という言葉の言い方が妙にツボで、また小さく笑ってしまった。


「まず手始めに――もうすぐノリ君の家に着くからさ。家の外で待ってるか、中で待ってるか。どっちだと思う? ちなみにいつもは中ね」

「だとすると……中ですか?」

「残念。今日は絶対、外」

三神さんは即答した。


「これも絶対なんだけど、大量の荷物が周りに置いてある。だから外っていうのもあるけど……今日に関しては、残念ながら並木さんがいるからです」

「残念ながらって……。荷物って、今回なにも持ってこなくて大丈夫って話じゃなかったでしたっけ?」

「そうなのよ。それ、しっかり伝えた上で、わざわざ買い揃えてくるのがノリ君なんです」

「……」


「ほぼ全部不要な荷物なんだけど、今日はあえて積み込みするんで。後部座席に積み込めば、流れで“隣に座る”ってことにはならないでしょ」


後部座席に荷物を積む――その作戦を聞いて、思わず感心した。

座る座席の位置、それこそが私が一番懸念していたことだった。


「あと、せっかくなんでクイズ対決。今日のノリ君の格好はどんなでしょう?」


noRhythmノリズムの……格好?

頭の中に浮かんだのは、あの奇怪な柄のパンツと、どこかのデザイナー気取りみたいなシルエットのジャケット。


「なんか……フランスのサブカル民的な格好ですかね?」


三神さん、爆笑。

ハンドルを軽く叩きながら、笑いをこらえきれない様子。


「それ良すぎ。ほんとそれで焚き火とかしてほしい。でも――おそらく正解は、『日本野鳥の会』ルックなんだよな」

「日本野鳥の会……ですか?」

「うん。望遠鏡はないにしても、首からカメラは下げてるかも。あと、ポケットがいっぱいついたベストに長靴ね」


三神さんが説明した格好をするnoRhythm(ノリズム)を想像して、私も笑いが堪えれれなかった。


「……あの角を曲がるとノリ君の家だよ。さて、正解はどうでしょう」


ハンドルを切り、車がゆっくりと曲がっていく。


角を曲がった先――塀の脇に、山のように積まれた荷物。

そのすぐそばに

――『日本野鳥の会』の人が立っていた。


首にはカメラ、足元は長靴。

まさか、ほんとに正解。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ