称賛の残滓(ざんし)
パソコンのモニターに、新着メールの通知が浮かぶ。
[件名]:内定(採用)のご連絡(株式会社PCフレンド)藤田紀之様株式会社PCフレンド採用担当の鈴木と申します。先日はオンライン面接のお時間をいただきありがとうございます。厳正な選考をさせていただきました結果、あなたをアルバイト従業員として採用することを内定いたしましたのでお知らせいたします——
メールを表示したままのモニターを、藤田紀之はぼんやりと見つめていた。
虚ろな目に、ほんの少し光が灯る。表情にわずかな揺らぎが生まれた。
「まあ、こんなもんだよな」
ぽつりとつぶやくと、右端のモニターに視線を移す。
SNSのビューワーには条件抽出された複数のタイムラインが、縦に整列している。
「noRhythm」「HeartBeater」「終末予言少女アリス」「404の楽園」…
紀之はその一つひとつを目で追い、何かを掘り当てるように、無言でキーボードを叩く。範囲を広げ、除外し、また絞り込む。ヒントのような断片を見つけ出すための反復。もう何千回、何万回と繰り返してきた作業だ。
画面の中の文字列が流れていく。感情、評価、熱狂、そして沈黙。彼の意識は、ツイートの洪水のなかに沈んでいく。かつてそこに確かにあった“称賛”の残滓を、今も探し続けるかのように。
そして再び、目は虚ろに戻る。
魔法は、解けなかった。いや、解けないように必死で守り続けた。
それは現実をねじ伏せる唯一の手段だったからだ。