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掲載日:2025/06/17

俺は、物心ついたときから二重人格だった。

もう一人の人格が、自分の中にいることに気づいていた。


これから別の人格のことを「あいつ」と呼ぶ。

あいつは優しくて、誠実だった。

……それが、時に弱さにもなる。


だからこそ、俺が助けなければならなかった。


あいつが喧嘩に巻き込まれれば、俺が出て殴ってやった。

あいつが緊張して立ちすくめば、俺が出て発表をこなしてやった。

あいつが眠るときは、俺が代わりに目を覚まし、身の安全を守った。


――それなのに、あいつは俺のことを「怖い」と言った。

守ってきたのに。

あいつは、俺を「消したい」とさえ……言っていた。



僕は、ある日からたまに「僕じゃない時間」があることに気づいた。


最初は、いつものように親から虐待されていたときだった。

気づけば、親は怯えた目で僕を見ていた。


近づこうとすると、親が叫んだ。


「こっちに来るな! バケモノ!」


……それが、始まりだった。


その日から、時々、意識が飛ぶようになった。

最初は、それでよかった。


学校でいじめられても――気づけば、いじめっ子はいなくなっていた。

緊張で声が出なくても――気づけば、発表は終わっていた。

運動が苦手でも――気づけば、運動会は過ぎ去っていた。


ある日、学校の先生のつてで、病院の先生に診てもらった。

そこで僕は、「解離性同一性障害」と診断された。


――もう一人の人格がいる。


彼は僕よりもずっと強くて、度胸があって、運動もできるらしい。


でも、それは僕が望んだタイミングで現れるわけじゃない。

僕には、彼をコントロールすることができない。


それに、彼は僕のことを知っている。

僕は彼のことを、何も知らないのに。


数年後、僕は、好きな人ができた。

彼女と話したり、一緒に遊ぶ時間がとても楽しかった。

不思議なことに、彼女といる時は、「彼」は一度も現れなかった。


だから僕は、思いきって告白しようと決めた。

緊張で、心臓の音がうるさいくらいだった。


……気づけば、僕は振られていた。

何が起きたのか、分からなかった。

彼女の友達にまで嫌われていて、周りの視線も冷たくなっていた。


僕の知らない「僕」のせいで――

僕の大切な場所が、失われていった。


――彼さえいなければ。



俺は――あの女が、あいつに好意なんて持ってないこと、最初から知ってた。

なんなら、あいつを使って遊んでた。おもしろ半分で、まるでオモチャみたいに。


だから言ってやったんだ。


「これ以上、俺で遊ぶな。このブスが」


……そして、突き飛ばした。


すると、あの女は鼻で笑って、こう言った。


「へぇ〜。気づいてたの。

いつも頭お花畑だから、このまま告白されるかと思ったわ」


そのまま、取り巻きの女たちと笑いながら去っていった。


俺は、あいつを守った。

……ちゃんと、守ったつもりだった。


それなのに、あいつは今でも――

俺のことを、「消したい」って言うんだ。



僕はあれ以来、カウンセリングを受け、人格を統一しようとした。

敵意を向けられない、穏やかな場所に引っ越して、

「彼」が生まれた原因そのものを、取り除こうとした。


そのおかげで、意識が飛ぶことはほとんどなくなった。


ある夜、僕は不思議な夢を見た。

知らない男が、優しい目で僕を見つめていた。


近づくと、彼は微笑んで言った。


「俺は、おまえを助けてたんだ。けど……完全に嫌われたなら、仕方ない」

「おまえを守るために――消えてやるよ」


そう言って、彼は静かに消えた。

目が覚めた時、涙が頬を伝っていた。


それからというもの、「彼」は二度と現れなかった。

僕は人格が統一され、平穏な日々を送るようになった。


数年後――同窓会が開かれた。

本当は行きたくなかったけれど、当時、隣のクラスで唯一話せた友達に誘われて、参加した。


会場の奥に、彼女がいた。

僕は気まずさと罪悪感で、近づけずにいた。


すると友達が、隣でぽつりと言った。


「久しぶり。……なあ、おまえ、まだあの子のこと引きずってるのか?

やめとけよ。悪行バレて、フッたんだろ? あの子、性格も変わってないらしいし」


……悪行?


「えっ……悪行って、何のこと?」


そう尋ねると、友達は静かに語り出した。


僕のことを「キモい」と笑っていたこと。

弄んでいたことを武勇伝のように話していたこと。

彼女の親が権力を持っていて、学校では誰も逆らえなかったこと――


僕は、何も知らなかった。

あのとき、全てを背負ってくれていたのは――彼だったんだ。


僕は彼を拒んだのに、

彼は僕を――なんの見返りもなく、ずっと助けてくれていた。


……僕は、それに気づくことさえ、できなかった。


終わった後、家に帰り、鏡を見てこう言った。


「……ありがとう」

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