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遅刻魔物語=地球を救うケチャップマン=

作者: naka

彼はダニ氏、オーストラリア産のケチャップを扱う専門商社に勤めるしがないサラリーマンだ。

学歴も英語力も地位もコミュニケーション能力はおろか、タイピング能力も運転免許すらない彼が唯一神から与えられた特別な能力、それはケチャップが残り少なくなった時の


(ブチュッ)


という時の声真似の完成度が極めて高いのだ。ケチャップなしで、あの独特の湿った音とオムライスにかけるケチャップが切れた時の情景を一瞬で相手に感じさせる能力はまさに芸術と言っていいだろう。しかし、残り少なくなったマヨネーズの声真似は何一つ似ていない。まさに一点集中の天賦の才だ。



そんな彼は今日も会社に、遅刻が約束された時間に家の前の電柱を去った。理由は、電柱の前に落ちていた金木犀の香りの柔軟剤の成分表を読み込んでいたからだ。


『なるほど、、、、階層多面的構造クロロギャッセルが使われているのか、、それであの独特のスパイシーな芳しさを醸し出しているのか、素晴らしい、、!!!今後の研究に大いに役立つぞ!!』


存在しない化学構造の妄想に浸り、甘い香りの金木犀をスパイシーな香りに感じる非研究職のダニ氏は今日も遅刻をする。


『はっ!!もう昼の12時か!!今日は早起きしたのに、会社に遅れるじゃないか、、仕方ない、遅刻しよう。急げ!!!1秒でも早く!!!』


ダニ氏は、競歩と早歩きの中間で会社に向かう。会社に着いたのは、午後1時53分17秒。道中3匹の黒猫に道を譲ったとはいえ、始業時間の9時に対し大幅な遅刻である。ダニ氏の上司と部下にとって、彼の遅刻は珍しくもなんともない。


部下の谷氏が


『ダニ氏。今日は、少し早いじゃないかい。』


といい


直属の上司、デニ氏が


『ダニ氏さん!今日は早いですね。』


というほどには日常茶飯事である。


部下の谷氏が

『なんであの人をやめさせない??絞りケチャップの声真似だけで全てが許されるのかい?しかも、こんな気を使ってまで雇用し続ける意味がわからない』

と上司のデ二氏にタメ口で言った。


上司のデニ氏は、やけに神妙な顔で


『そうです。絞りケチャップの声真似が天才的に上手いと全てが許されます。絞りケチャップの声真似が企業の利益に繋がるわけないと思う人もいますが、この会社のTVCMの音源は全て彼の口から発されているし、取引先とのつかみには抜群に効果を発揮します。ケチャップの商談で、相手に瞬時にケチャップを脳裏に浮かばせる能力が役に立たないわけがないのです。あと、なぜ上司の私にタメ口なんです??』

と言った。




〜次の日〜

ダニ氏はリビングで靴下同士の喧嘩の仲裁に明け暮れて、遅刻が約束される時間になる。



〜その次の日〜

横断歩道の信号が「赤→青→赤」と変わるリズムに合わせてダンスを始めたら、170分時間がかかってしまったので遅刻。



〜さらに次の日〜

ブラジル産の鶏胸肉と、ビートたけしの謎かけを考えて3時間が経過した。結局謎かけは思いつかなかった。。



〜さらにさらに次の日〜

カタツムリに道を譲って今日も遅刻が確定しつつあるその時だった。ダニ氏の遅刻人生に転機が訪れる。玄関のチャイムが鳴る


『ピンポーン!ポン!』


ダニ氏はぼそっと

『なんだろう。。。それって玄関のチャイムですよね。。』

と呟いた。いつもならこれで終わっていたのだが、今日はやけにしつこい。低音で20分揚げたフライドポテトよりしつこい。30分間チャイムがなりとうとう応答をしたダニ氏。相手はなんと政府機関の人間だった。


『ァア、失礼』


『本当に失礼です。30分も玄関のチャイムを鳴らし続けるなんて』


『単刀直入にいうと、宇宙人の侵略艦隊が地球に迫ってるんですわ。唯一の対抗手段である「超破壊光線」の起動スイッチを、指定時刻の午後3時に押す必要があるんですわ。それに勝手にあんたに選ぶってこっちゃ。時間通りに押したらええだけや。いいうこと聞いといたらええ。』


実にわけがわからない。この男は何を言ってるんだ??と思ったが結局面白そうなので引き受けてみた。



〜決戦の日〜


ダニ氏は政府の秘密基地に招かれた。科学者のド二氏が緊張した面持ちで説明する。「ダニ氏さん、午後3時ちょうどにこの赤いボタンを押してください。1秒の遅れも許されません。宇宙船が地球に到達する前に破壊光線を撃つんです!」

ダニ氏は気色悪くニヤリと笑い、「任せといてください! 13年間会社に遅刻し続けた私の時間管理を宇宙人にも見せつけてやるわ!」と豪語。博士は地球の運命をこいつに頼んで良いものかこの上なく不安げだったが、他に候補者がおらず、ダニ氏に全てを託すしかなかった。あの露骨に怪しい新興宗教のような政府機関の説明を信用したのはダニ氏だけだったのだ。


午後2時50分、ダニ氏はボタンの前に立つ。博士が叫ぶ。「あと10分! 準備はいいですか!」

だが、ダニ氏の目はあるものに釘付けになっていた。秘密基地の窓の外、雲がまるで「オードリ春日』の形に見えたのだ。「おお、すごい! あの雲、絶対春日だぞ!」とダニ氏は無我夢中に窓を眺めた。


午後3時。博士が叫ぶ。「ダニ氏! ボタンを押せ!」

ダニ氏はハッと我に返るが、すでに3時2分。慌てて何かしようとするが、何をしたらいいのか忘れてダニ氏はすっかりパニック。混乱して絞りケチャップの声真似をする始末。あわてて博士がボタンを押すが、モニターには「タイミングエラー」の文字。破壊光線は発射されず、宇宙船が地球に迫る。博士は絶望の叫びを上げた。「終わった…地球は滅亡だ!」

だが、その瞬間、奇跡が起きた。どうやら、ダニ氏の2分の遅刻が、宇宙人の攻撃スケジュールを狂わせたらしい。宇宙人たちは「時間厳守」が宗教レベルの掟で、2分のズレにパニックを起こし、艦隊は自滅的に撤退を開始。地球は救われたのだ。


基地内は歓声に包まれた。


数日後、ダニ氏は「地球の救世主」として表彰されることになった。授賞式は午前10時開始。会場には世界中の要人やメディアが集まり、ダニ氏の登場を待つ。だが、10時になってもダニ氏は現れない。10時30分、11時…ついに12時を過ぎても、太郎の姿はない。主催者が焦りながらダニ氏に電話すると、気色の悪い声が帰ってきた。

『ああ、コインランドリーに関するダジャレを考えていたら、ついこんな時間になっちゃって。。すいません。HAHAHA』


結局、授賞式にまで遅刻をしたダニ氏であった。



最初の長ったらしい絞りケチャップのくだりは、このくだらないオチに何の関係があったのだろうか、、、それはだれも知る由もない


〜おしり おわり おしり〜〜



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