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第一章 思惑

9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。

だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。


劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 一方、部屋に戻った翠蘭は、李亮と白凛の想像通り、帰ろうとする白凛を部屋に引き留めた。


 翠蘭は下女に華素手羅を皿に山盛で持ってくるように伝えると、白凛に椅子を勧めた。


 「ごめんなさい。私はガールズトークが苦手なんだけど、何故かあなたとは、どうしても、もう少しお話しがしたくて。」


 翠蘭がそう弁解すると、白凛は先ほどの食事会でだいぶ酒が入っていたこともあり、突然ボロボロ涙をこぼしはじめた。


 それを見た翠蘭は慌ててハンケチを白凛に差し出すと、白凛は横に首を振ってから自分の袖で涙をふいて彼女に聞いた。


「これでもまだ思い出さないの?」

「何を?」

「これ、二人で初めてガールズトークした時と、なぜか全くおんなじ展開なんだけど。」

「え?」

「私が酒が入って泣いて、あなたが手拭いを差し出して、私がそれを受け取らずに袖で涙を拭いたの。」

「ごめんなさい。思い出せなくて。」

「いいよ、あなたのせいじゃないもん。」

「私はあなたと仲良しだったの?」

「ルームメイトで姉妹だった。」

「へっ?」

「太子兄ちゃんが、あなたに頼まれてあなたに皇宮内の住居、友鶯宮っていうんだけどね、それを用意したんだけど、あなたが太子兄ちゃんのことを誤解して彼と口をきかなくなったから、太子兄ちゃんに頼まれて私があなたに話を聞きに行ったのよ。そうしたら思いがけず二人で意気投合しちゃって、あなたが友鶯宮が一人では広すぎるって言ったから、私が一緒に住むって言ったら、あなたが私の母を説得してくれて、そこで一緒に暮らせるようになったの。あなたが東側、私が西側、真ん中が共有スペース。一緒にいる時は寝る時以外はずっと一緒に共有スペースで話してた。二人ともガールズトークが苦手なはずなのにね。ずっと他愛のないことを話してた。私があなたより2つ年上だから、あなたは私を凛姉ちゃんって呼んで、あの頃はあなたの正体がわからなくて町医者の張麗って名乗ってたから、あなたのことはれいちゃんって呼んでた。」


 ここで先ほどの下女が山盛の華素手羅を持って部屋に入ってきた。

 翠蘭は自分でもなぜそうしたのかわからないが、なぜかその皿を白凛に渡すように指示した。

 白凛は全く驚くことなく、その皿を普通に受け取り「ありがとう。」と言ってから、皿を抱え込むと、華素手羅を黙々と食べ始めた。


 しばらくして、翠蘭は、「太子兄ちゃんって?」と聞くと、白凛は華素手羅を頬張りながら

「今の皇帝、劉煌陛下のことよ。」と言った。


 簫翠蘭はまたその名前を聞くと、心が掻き乱されるような思いになった。

 翠蘭はなんとか体制を立て直すと、「誤解って?」と聞いた。


 白凛は、華素手羅を愛おしそうに見ながら「太子兄ちゃんは訳があって一人二役やってたの。だけどみんなそれに気が付かなくて、同一人物を別々の人と思っていたから、二人はゲイのカップルと噂になったのよ。真相は一人なのにね。」と言うと、翠蘭は、それを想像してお下品にもぶーっと吹き出し、珍しく大笑いした。


 白凛は10切れ目の華素手羅を頬張りながら「おかしいでしょ。私もあなたが真剣に、皇帝が典医を寵愛してる って言った時には、しばらく笑いが止まらなかったわよ。」と言った。


 白凛は今度は遠い目をして、まだ残っている華素手羅の皿をテーブルの上に置くと鼻から大きな息を一回こぼした。


「昨日はさ、あなたは私たちが来るのをわざわざ門の所まで来て待っててくれて、私が馬車から降りたら、凛姉ちゃんって呼んで飛んできて、私の腕を取って歩き出したの。私たちは西乃国でもよくそうやって腕を組んで散歩していたのよ。それなのに、たった1日経っただけなのに、何もかも変わってしまった。」


 そう呟くと、白凛はハラハラと涙をこぼした。そして涙を拭うと、今度は心底心配そうに翠蘭に聞いた。

「傷は本当に痛まないの?」


「みんなそう心配してくれるんだけど、どこに傷があるのかわからないくらい、痛くも痒くもなければ痕さえ全く無いの。」


 そう告白すると翠蘭は、今度は椅子から立ち上がり、その場を行ったり来たりしながら悶々とした。


「実は昨日のことも全然記憶にないし、今日も記憶に残っているのは、砂浜で目覚めたあとからのことで、何で砂浜に倒れていたのかもわからないの。ただ、みんなが成多照挙殿が私を刺したと言うし、確かに着ていた着物は血だらけになっているし、ちょうど胸のあたりにざっくり剣が刺さったと思われる切れ目があるから、きっとそうなんだろうけど。」


 そこまで言うと、翠蘭ははたと何か思い出したように、床の間に置いてあるお盆を取ってきた。

「たぶん、これを私は懐に入れていたようなの。着物の切れ目と紙の切れ目が一致しているから。何か書き物みたいなんだけど、成多照挙殿はこれを狙って私を殺そうとしたのかしら。」

そう言って翠蘭はその血で染まった紙を白凛に見せた。


 白凛はその血でどす赤黒くなった紙の束に、うっすらと見える黒色の字体をちょっと見ただけで答えた。

「これ、太子兄ちゃんの字よ。きっと太子兄ちゃんが送った手紙を、あなたは懐に入れて持ち歩いていたんだと思う。だって、あなたは本当に太子兄ちゃんのことが好きだったんだもの。」


「そうおっしゃるけど、そんなに好きだったら、何故忘れるのかしら。好きだったら忘れないんじゃないかと思うんだけど。」


「それよね。私も全くわからない。何故あなたが私たちを忘れているのか。京安の長屋に住んでいた時のことは覚えているのよね。」


「ええ。女屋敷って言われていたわ。みんな旦那さんが戦場に行ってて。」

「え?旦那さん達、みんな帰ってきたのも覚えていないの?」

「ええ?!帰ってきたの??」

「そうだよ。だから奥さんたちが全員妊娠しちゃって、来年は凄まじいベビーブームになるって情報を、あなたが教えてくれたんだよ。」

「全然覚えていないわ。。。」

「じゃあ、黄敏は覚えている?」

「忘れもしないわ、私を襲ったけど、聖旨を理由に無罪放免になった、腐った目をした男。」


 白凛は頭を抱えた。


「なんで黄敏を覚えていて、太子兄ちゃんを忘れるかな!ねえ、黄敏を覚えているんだったら、太子兄ちゃんがリベンジしてくれたことは勿論覚えているよね。」

「何?リベンジって。」

「永劫無罪の聖旨を無効にする聖旨を出して黄敏を有罪にしたの。」

「えっ!?黄敏は有罪になったの?!」

「もう、なんで肝心なところばっかり覚えていないのよ!」

「ごめんなさい。」


 白凛は翠蘭も辛いとはわかっていながらも、つい大声を出さずにはいられなかったが、翠蘭が謝ると、「失礼します。」とお辞儀をしてから、翠蘭の肩を優しく抱きしめた。


 翠蘭は無意識に白凛の肩に頭を乗せると、凄く安心して懐かしい感じがした。


 それなのに思い出せないことが、何故か突然とても悲しくなって翠蘭はハラハラと涙を流し始めた。白凛は、翠蘭の頭に自分の頬を付けると、そのまま翠蘭を好きなだけ泣かせた。


 泣きつかれてそのまま寝てしまった翠蘭をベッドに移動させ寝かしつけた白凛は、おもむろに手を伸ばすと、翠蘭の頭を何回も何回も愛おしそうに撫でた。翠蘭はとても安心したのか、あれだけ泣いていたのに、白凛が頭を撫でていると、うっすらと笑みを浮かべて寝息をすーすーと気持ちよさそうに立てた。その翠蘭の無防備で無邪気な寝顔を見て、白凛はまた涙を流さずにはいられなかった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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