第三章 因果
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
それを聞いた途端白凛は、目を丸くし、思わず取っていた翠蘭の手をギューッと握ってしまった。
それによって生じた痛みによる反射で、手を引っ込めようとした翠蘭を、白凛は逆に引っ張り込むような形で抱きしめた。
「れいちゃんっ、私のかわいい妹。私を思い出してくれたの?」
消え入りそうな声でそう呟きながら翠蘭を抱きしめて白凛は涙にくれた。
完全に我に返った翠蘭は、白凛に抱きしめられながら自分がなぜ白将軍に向かって凛姉ちゃんなどと口走ったのか皆目わからなかった。
それでも白凛の抱きしめ方から彼女の想いをひしひしと感じた翠蘭は、その真実を彼女に伝える勇気を持ち合わせていなかった。黙ったまま抱きしめられている翠蘭から、彼女の事情を感じ取った白凛は、すごすごと彼女を開放してから袖で自分の涙をぬぐった。
「あの、、、」翠蘭は白凛に話しかけた。
すると、白凛は思慕いっぱいに真っ赤な目で翠蘭を見つめた。
その視線に耐え切れず、目を伏せて翠蘭は続けた。
「疲れたので御所に戻ります。お陸もいないし、よければ連れて行ってもらえませんか?」
感じ取っていた通り、やっぱり翠蘭は完全には思い出していないと彼女の口調でわかった白凛は、静かに「御意」とだけ答えると、くるっと身体の向きを軍隊式に変え、扉に手を掛け翠蘭を通せるようにした。
翠蘭が廊下に出た後、扉を閉めながら白凛は劉煌に向かって目配せした。
悲しそうな目で劉煌は2,3回彼女に軽く頷くことでそれに答えた。
扉が閉められた後、思わず劉煌は、うつむき、はああと大きなため息をついた。
翠蘭の埋もれた記憶は、ふとした拍子にポンと浮上するのに、なぜかいつもそこでプツっと切れてそれから先につながらないのだ。
当初はなにかきっかけがあれば、それが記憶を呼び起こし、さらに記憶が記憶を呼ぶ芋づる式にすべての記憶が戻るのではないかと期待していた。
しかし、現実はそうではないことをこの数日で劉煌は嫌というほど経験させられていた。
だが、今はそんな感傷に浸っている場合ではないのだ。
数日後、彼が帰路につき、成多照挙が解放されたら、小春の身に何がふりかかるか、最悪の場合暗殺の可能性だって大いにありうるのだ。
劉煌にとって小春は単なる隣国の皇后ではない。一緒に育った大切な家族なのだ。
”ままのためにも絶対小春を守り切らなくては、、、”
気を取り直して万蔵の方を振り向いた時には、劉煌は完全に皇帝モードになっていた。
「小春のことは、万蔵さんとまま、二人に任せるから。二人なら大丈夫でしょう?」
劉煌は万蔵と清聴の顔をかわるがわる見ながらそう語った。
しかし、それを聞いていた小春が口をはさんだ。
「イケオジはできるからいいよ。だけどままはかえって足手まといになるんじゃ?」
その小春の問いに3人が同時に答えた。
「ならない」
「ならねぇ」
「なるもんか」
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