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第二章 逸脱

架空の国、架空の時代


9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。

だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。


劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 けたたましい音が狭い空間にこだました。


 小春と聞いた途端めまいがした翠蘭は、足元が不安定だったこともあり、その場の財宝の山に倒れ込んでしまったのだった。


 文字通り劉煌はすっ飛んで翠蘭の元に駆け付け、倒れている彼女を抱き起こした。


 真っ青になって彼女の頭からつま先まで少しも異変を見逃すまいと血眼になって視診している劉煌の目を、彼の腕の中で見た翠蘭の心臓は、まるで拡声器がついているかのように大きく高鳴った。そして何とかそれをコントロールしようとすればするほど、彼女の心臓は彼女の言うことを無視して、まるで彼女の身体という器が小さすぎて入り切れないと主張するかのように、身体から飛び出してしまいそうな勢いで波打った。


 部屋中に自分の心臓の鼓動が木霊しているかのような錯覚に陥った彼女は、恥ずかしさと当惑で顔を真っ赤にして俯いた、、、


 その瞬間、彼女の脳裏に、向かいに座っている劉煌が彼女にプロポーズしている姿が浮かび上がった。


 このわずか数日の間に、彼女の記憶にない事柄が次々と浮上してきたことから、彼女はもうこのことは劉煌に確認するまでもなく実際にあった出来事なのだと悟っていた。


 黙って俯いている翠蘭を心配して劉煌は彼女に声を掛けた。

「痛めたところは無いか?手足は動かせるか?」

「大丈夫、、、」

 そう言って掴んでいた劉煌の着物の袖から手を離した翠蘭は、そこが血で染まっていることに気づき、慌てて自分の掌を見た。

「ああ、掌を切ってしまったか。」劉煌はすぐに彼の着物を引き裂き彼女の掌に巻いた。

「すぐに経易坊に行こう。」ひょいと翠蘭を横抱きにして立ち上がった劉煌に、翠蘭が恐縮しまくって答えた。

「陛下、自分で歩けます。それよりお召し物を台無しにしてしまいました。なんとお詫びをしたら、、、」

「着物なんてどうでもいいんだ!君の方がよっぽど大事だ!」

 抱きかかえている翠蘭に向かって首を横に振りながら真剣に叫ぶ劉煌の強い眼差しに耐えきれず、翠蘭は目をそらした。

「あっ!!」

 突然劉煌の腕の中で翠蘭が叫んだ。


 劉煌は何事かと思い、切羽詰まった声で彼女に聞いた。

「どうした?」


 しかし、翠蘭が口にしたのは、彼女自身のことではなかった。

「蒼石観音、、、」


 今はそれどころではない劉煌は、彼女を諫めた。

「探すのは後回しだ。とにかく君の、、、」

「あそこにあるの。蒼石観音では?」

「!?」


 劉煌が翠蘭の指し示す先に視線を向けると、そこには金でできた観音像があり、その片方の手に確かに青い石で彫られた観音像がちょこんと乗っていた。


 翠蘭が倒れた為に財宝の山が崩れ、その先にあった観音像が姿を現したのだった。


 劉煌はゆっくり翠蘭を降ろし、支えながら彼女をその場に立たせた。


 ようやく麒麟が財宝をかき分け彼らのところまでやってくると、すぐに手を延ばして蒼石観音を取ろうとした。

「待て!!」劉煌の叫びに麒麟はビクッとして手を引っ込めた。


 麒麟が劉煌の方を振り返ると、劉煌は両眉毛をくっつけんばかりに顔をしかめて蒼石観音を手に乗せている観音像を睨みつけていた。

「麒麟殿、成多照挙の蒼石観音をお持ちであろう?そのうちのどれがそこにある蒼石観音と同じ形かな?」

 劉煌に言われ3つの蒼石観音を懐から取り出した麒麟は、それらと金の観音像の持つ蒼石観音を比較した。

「これかな?」

「うん。金の観音像が持っている蒼石観音の側で、それに当たらないよう注意しながら再確認して御覧なさい。どうも同じ重さの物を代わりに置かないと何か仕掛けが動きそうだ。」


 劉煌はそう言いながら翠蘭をまた横抱きにしてぴょんと飛び上がり、階上に降り立つと彼女を八角円堂の外で待つように指示し、また階下にサーっと飛び降りた。そこでは麒麟が真剣に手持ちの3つの観音像と金の観音像が持つ蒼石観音とを見比べていた。麒麟は劉煌が側にやってくると、「やはりこれだと思います。」と言って、蒼石観音の一つを振って見せた。


「麒麟殿、貴殿がこれから試みなければならないことは、簡単なことではない。金観音が掌の蒼石観音を盗られたと気づく前に代わりの蒼石観音を置くんだ。」


 その劉煌の解説は、確かに文章になっており、言いたいことは感覚的にわかったが、果たして本当にそんなことができるのか、、、


 それは、麒麟だけでなく、金観音に関しても、、、。


 ゆえに麒麟の頭の中は?マークでいっぱいになってしまった。


 そんな麒麟の頭の中を透視できたかのように劉煌は続けた。

「まずは貴殿の頭の中で、金観音の手の上の蒼石観音を瞬時に取り替えるイメージを作って、それを何度も再生させるんだ。そして頭の中でそれが完璧になったら、今度はそのイメージと自分の手の動きをシンクロさせていく練習をするんだ。それが完璧になったら朕に教えてくれ。ゆっくりで大丈夫だ。時間は気にせず、気にすることはイメージを完璧にすること、それと身体が完全に頭の中のイメージと連動するようにすることだ。わかったかな。」


 麒麟は目をつぶって蒼石観音を魔法のように瞬時にすげ替えるイメージをすることに集中した。


 しばらくすると、麒麟の手がわずかに動き始め、その動きがだんだんと大きくなってきた。そしてある時点で目をカッと見開くと彼は叫んだ。

「劉煌殿、やってみる。」


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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