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第一章 思惑

9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。

だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。


劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 真冬の海に飛び込み、頭のてっぺんからつま先まで、ずぶぬれになった劉煌と李亮は、宿舎に戻るとすぐに浴堂用の着物に着替え、浴堂の総檜造りの湯殿の長椅子にボーっと肩を並べて座った。


二人は何も話すことなく、ただジーっと湯殿に座っていたが、冷え切った身体が温まり、温まった身体が熱くなって発汗し始めると、突然ハッとした劉煌は、唐突に李亮に身体の状態を聞いた。


李亮はその質問の意図を的確に解釈すると、「では私はこれで。お先に失礼いたします。」とかしこまって言ってからあがり湯を身体にかけ、脱衣所へと向かった。劉煌は李亮が完全に浴堂の建物内から出た頃を見計らって、天井に向かって話しかけた。


「二人ともそんなところにいないで、降りてきてよ。」


 お陸と百蔵が湯殿に降りてくると、座っている劉煌に向かって、二人ともすまなそうに俯いて立った。


 百蔵は、ポツリと一言だけ「助けられなくてすまない。」と詫びた。

 お陸も次いで何か言おうとしたが、劉煌はそれを手で止めて、「わかっている。どうも特殊な結界が張ってあったようだ。」と努めて冷静に言った。


 お陸は珍しくとても真面目な顔をして、「何十年とこの仕事をやってきたけど、あんな結界をみたのは初めてだよ。何をしてもどうやっても解けなかった。」と本当に悔しそうに呟くと、劉煌は空をみつめてポツリと答えた。


「そりゃ、そうさ。あの結界は時空を隔てる結界だったんだから。実はあの結界の内側は千年前だったんだ。千年前に居た人だけが結界の中に入ることができたんだ。」


 劉煌の非現実的な説明に、百蔵はこの話にポカンとしていたが、お陸は顔色一つ変えず何度も頷きながら腑に落ちていたようだった。

「なんとも信じられないような話だけど、私も実際にこの目で見て、身体で体験したからね。それにこのお嬢ちゃんがこのシチュエーションで大真面目に言うことだ。たぶんお嬢ちゃんの言う通りなんだろう。」


 やおら劉煌は、首を横に振って今ここに戻ると「お陸さん、悪いがこのまま翠蘭の警護を頼む。」とお陸に依頼した。


 そして今度は百蔵の方にふり向くと、彼に指令した。

「百蔵さん、悪いが今すぐ発って中ノ国で活動してくれる?今日の件は、平和不可侵条約を破って西乃国皇帝を暗殺しようとした中ノ国皇帝が、東之国の皇女に大けがを負わせたことにして、早々に噂を流して欲しいんだ。あと中ノ国の皇后は中ノ国の皇帝の暴挙を止めようとしていたことも盛り込んでね。恐らく近日中に東之国の軍隊が、中ノ国皇帝皇后を罪人車に乗せて、民衆に見えるような形で彼らを中ノ国に引き渡すだろう。その時に噂話が本当だったと民衆に強く思い込ませるんだ。」


 百蔵とお陸はそれぞれ1回ずつ劉煌に向かって大きく頷くと、そのままドロンと消えた。


 ~


 中ノ国皇帝を幽閉している離れに向かった簫麒麟は、だいぶ遠くから、狂ったような高笑いが聞こえていた。案の定、その音の発生源は中ノ国皇帝を幽閉している場所で、その前の見張りの兵士たちもほとほと困惑していた。


 麒麟は供の一人に、「悪いが、張先生を連れてきてくれないか。」と命じた。

 麒麟は、その場でしばらく待っていたが、その間も成多照挙の狂ったような笑い声は鳴りやむことはなかった。


 血相を変えて飛んできた張浩も、中から響き渡る笑い声に眉を潜めながら麒麟に向かってお辞儀をすると小声で、「本当に気が狂ったか、狂人のふりをしているかのどちらかでしょう。」と言ってから麒麟の顔を見た。


 麒麟は頷きながら張浩と部屋の中に入っていくと、返り血を浴びたままの照挙は、入ってきた麒麟と供たちには目もくれず、ベッドに腰掛けたまま狂ったように笑い続けていた。


 「成多照挙殿、今日あなたは友好不可侵条約を破り、我が国内で侵略行為を行った。」


 麒麟がそう言っても、照挙は聞こえているのか聞こえていないのか判断ができないほど、ずっと同じ調子で笑い続けていた。麒麟は照挙の乱心に全く屈することなく続けた。


「先ほど小春殿の尋問も行ったが、小春殿もこれが中ノ国の計画的な犯行であることを認めた。」

 そう麒麟が言っても、照挙は本当に気が触れたのか、ずっと笑い続けていた。


 麒麟はしばらくジッと笑い続けている照挙の様子を覗っていたが、照挙の手が届かないぎりぎりのところまで歩みを進めてから、照挙の目をジッと見て囁いた。


「成多照挙殿、狂人のふりをしても無駄ですよ。あなたがした行為はあまりに稚拙で目撃者が多すぎた。我が国の皇女を殺害した事実から逃げられると思うなよ。」


 そしてくるっと照挙に背を向けると、麒麟は張浩に目配せした。張浩は「陛下のお察しの通りと存じます。」と答えると、2人はそのまま御用邸の中庭に出た。


 そこで麒麟は大きなため息をつくと、貴賓館の方をふり向いた。

 ”劉煌殿に結納の延期を申し出ねば、、、”

 麒麟は着物の襟をさらにきつく絞めると、重い足取りで貴賓館に向かった。


 麒麟は貴賓館の劉煌の部屋の前に来ると、何回も深呼吸をして呼吸を整えてから部屋の扉をノックした。


 すると中から扉が開いて、白凛が顔を出した。白凛は、麒麟を見るとすぐにお辞儀をして、「簫翠袁皇帝陛下、劉煌がお待ちしておりました。どうぞこちらへ。」と言って、麒麟を部屋に招き入れると、自分は廊下に出て扉をピシャリと閉めた。


 麒麟は部屋を入ってすぐに劉煌を見ると、その場にひれ伏し、「劉煌殿、東之国の警備が行き届かず申し訳ない。」と頭が地面につかんばかりに謝った。


 劉煌は李亮に向かって頷くと、李亮が麒麟の所まで行き、「簫翠袁皇帝陛下、どうぞこちらへ。」と言って、劉煌の横に座らせ、彼自身は扉の所まで下がってそこに横向きに座った。


 劉煌は麒麟に「大丈夫だ。あなたのせいではない。」とねぎらってから、おもむろに左に合った饅頭の乗った皿を取り「翠袁殿は西乃国の饅頭を食されたことがおありかな?うちの首相は昔からこれが大好きでね。内々で話すときは、いつも必ずこれを頬張っている。」と言うと、遠くから李亮がうおほんとわざとらしい咳払いをした。劉煌はそれに苦笑しながら「すまん。正確ではなかった。話すときにはこの饅頭()()()()いろいろ食べている。」と訂正すると、遠くで李亮がうんうんと頷いた。


 そのやり取りをみた麒麟は一気に肩の力が抜けると、目に涙をいっぱい貯めながらも、それを1滴たりともこぼさず、「いただきます。」と言って饅頭に手をだした。劉煌も饅頭を1個掴んで、すぐにそれにかぶりつくと、口をもごもごさせながら、「今日の結納は延期ということでいいのかな?それとも摂政殿は破談にするよう君に言ってきたのか?」と、センシティブな内容を全くセンシティブでないやり方で切り出した。


 饅頭にかぶりつきかけていた麒麟は、ドキッとすると、劉煌は、「大丈夫だ。安心して。君に無理難題を押し付ける気は全くないから。」と、饅頭を口の中に大きいままいれたので、饅頭の形になっている頬のままでそう言った。


 そう言いながらも劉煌はすぐに「ただ。」と言ったので、麒麟はまた饅頭を食べる機会を逸すると、その代わりに唾をゴクリと飲み込んだ。


 劉煌はニッコリ笑って「大したことじゃないから安心して。実は明日は、翠蘭殿と都の美味しい東之国料理を食べに行くことになっていたんだ。そのことも忘れているだろうから、今日翠蘭殿に会ってもう一度誘いたいんだ。だからこれから翠蘭殿に会わせてもらえないだろうか?」と聞いた。


 麒麟は、この劉煌のリクエストの仕方に劉煌の懐の深さを感じると、今まで我慢していた思いがあふれ、思わず目の奥から液体が彼の意思とは裏腹に前に出ようとして溢れてきた。麒麟はそれを上を向くことで、また目の奥に引っ込ませ、急場をしのいだ。そして何とかもう涙が出ることは無い状態までコントロールすると、今度は顔を元に戻して饅頭にかぶりついて劉煌に答えた。


「勿論会ってください。どうでしょう。よろしければ今晩、夕食をご一緒致しませんか?料理も準備していましたから。」


 麒麟はそう言って劉煌を誘うと、劉煌は本当に嬉しそうに「ありがとう。」と言ってから「どう、その饅頭?」と麒麟に聞いた。麒麟は社交辞令ではなく「美味しいです。」と答えると、劉煌は「好きなら送るよ。どうせ美容クリームもいっぱい送らなきゃならないんだから、ついでだ。」と言った。


 麒麟は驚いて劉煌の顔を見ると、劉煌は「美容クリームが無いと翠蘭殿の顔が潰れるでしょう。いくら彼女が忘れていても、大衆は忘れていないから。だから悪いけど貴殿が誰か適任者を見つけて翠蘭殿の代わりに美容クリームの管理、お願いね。」とサラッと言った。


 せっかく先ほどは何とかコントロールできたのに、劉煌のこの提案に、麒麟はもう感情を抑えられなくなって、涙がながれるまま「劉煌殿はどうしてそこまでご配慮くださるのですか?蘭姉ちゃんはあんな状態なのに。」と聞いた。


 すると劉煌は一歩前に出て麒麟のすぐ横に座ると彼の肩を抱いて「君も大人になって好きな人ができたらわかるよ。」と答えた。


 その回答に麒麟思わず涙にぬれた顔のまま隣にいる劉煌を見つめた。すると劉煌は途端に口を開いた。

「あっ、誤解しないでよ。朕は聖人君子じゃないからね。下心満載よ。朕は諦めていないから。彼女の記憶を取り戻せなくても、もう一度朕のことを好きになって貰えばいいわけだから、また猛アタックするだけよ。」

 そう宣言すると、劉煌は自由な方の片手でガッツポーズをして、斜め上を目を細めて見上げるポーズを決めた。


 ”うーん、決まったっ!”


 そう確信し、しばし、自分のポーズに悦に浸っている劉煌を目の当たりにした麒麟は、思わず彼に肩を抱かれながらクククと笑うと、””蘭姉ちゃんが変わったのは、劉煌殿の影響だったんだな。”としみじみ思った。


 劉煌との対談では一切東之国の処遇について聞かれず、劉煌の部屋から出た麒麟は、安心したような不安なような不思議な気持ちだった。


 もし劉煌殿が東之国が決めた中ノ国の皇帝皇后の処遇が気に入らなかったら、東之国は西乃国とも険悪な関係になってしまう。


 柔和で仏様のような話しっぷりの劉煌に感じる、底知れぬ器の大きさに、本音はどうなのかと、考えれば考えるほど、こんなに優しくしてもらっても、劉煌に感じる恐ろしさが簫麒麟の中で消えることはなかった。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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