第二章 逸脱
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
翠蘭は今の状況で不適切だと思いながらも、結納品のことで胸がいっぱいになっていた。
”私への結納品が医療用具の山だなんて♡なんて素敵な結納品♡”
「陛下、すぐ参りましょう!お陸さんもご一緒に!」
そう言いながら翠蘭は劉煌の手を取って、走り出していた。
東尋御所の倉庫に着いてその医療用具の山を目にした翠蘭は、文字通り狂喜乱舞した。
「凄い!見たこともない物が半分はありますわ!」
小春母子の救命に必要な物を集めていた劉煌は、目を輝かせうきうきしている翠蘭を見て、この危機的状況にも関わらず思わずニッコリ微笑んだ。
そして彼女はガラスの扉のついた箱のような大きな物に目がいき、首をかしげた。
「これは、、、?」
「これこそ、探していたものさ。」劉煌はそう答えると、翠蘭に彼が集めた物の包みを渡し、自らはその大きな箱を持って「さあ、戻ろう。赤ちゃんを取り出すぞ。」とまだまだ医療用具の山をみていたそうな彼女を促した。
「陛下、赤ちゃんを取り出すっておっしゃいましたけど、それって。」
「解剖が得意な君ならわかるでしょ。」
「ま、まさか腹部切開をするおつもりでは。」
「そのまさかよ。」
「危ないからそんなこと誰もしたことないわ。」
「そうね。でも、このままだと母子ともどうなる?」
劉煌はそう言いながら自分の左横を歩いている翠蘭を見下ろした。
”死ぬ、、、”
翠蘭は劉煌の目線を外して俯いてしまった。
彼女の様子を見て、彼女がどう思っているのかわかった劉煌は、宣言した。
「だからやるしかないのよ。」
「でも、それで母体は助かるかもしれないけれど、子供は、、、それだったら堕胎薬の方が安全では?」
「だから言ったでしょ。秘密兵器があるって。これで子供を救うのよ。」
劉煌はそう言うと自らが抱えている大きな箱型の物をちょっと上げて見せた。
「そんな中が見える箱の何が?」
「これが子宮の代わりになるのよ。」
「!?何ですって?そんなことありえない!」
「大丈夫よ。朕の師匠が作った物だし、、、」
そう劉煌が言った途端、翠蘭は目を丸くしてガバッと後ろを振り返りお陸を凝視した。
「アイヤー、あたしじゃないよ。医術の師匠、ドクトルのことだよ。」
「ドクトル?」
お陸の代わりに劉煌が答える。
「ああ、呂磨のドクトル・コンスタンティヌス。二千年先を行く天才医師だった。」
「呂磨って西域の?」
「ああ、だから人種は異なるが、彼はもう何人も未熟児をこれで救ってきたから、きっと大丈夫だ。」
「呂磨の医療がそんなに先を行っていたなんて知らなかったわ。」
「呂磨の医療は大したことないのよ。ドクトル・コンスタンティヌスだけが2000年先を行っていただけ。あなたの師匠と同様異端児だったのよ。」
劉煌は翠蘭にそう説明すると、後を行くお陸に目くばせした。お陸は一度頷いてからその場でくるっと回っると、その場からドロンと消えた。しかし、あまりに遠く先をいっている劉煌の話と医療用具に文字通り面食らっていた翠蘭は、お陸が消えたことに全く気付かなかった。
勿論その話に面食らったのは翠蘭だけではなかった。
小春の治療のために集結させられた医師全員が劉煌の話についていけなかった。
一斉に反対意見が飛び交う中、小春の部屋からうめき声が響いてきた。
「とにかく、一刻を争うのよ!」
劉煌はそう叫んで、隣の部屋に駆け込んだ。
小春はさっきよりもまた一段と顔色が悪くなっていた。
そんな小春に劉煌は真剣に話しかけた。
「小春、よく聞け。これからどうするかって相談だ。今までの方法では小春を助けられても赤ちゃんは助けられない。」
「いやだよ。赤ちゃんを助けて。」
「わかってる、わかってる。だから赤ちゃんも助けられる方法でやろうとしている。」
「それでいい。」
「でも全く新しい方法で、、、」
すると小春が、ベッドサイドに座り目線を合わせるように座っている劉煌の腕を掴んでうめいた。
「新しかろうが誰もしたことなかろうが赤ちゃんを助けて。大丈夫、蓮ならできるって私が一番よく知ってる。照挙のことは無視していいから!あがううううう。」
この一部始終を一歩後ろで見ていた簫翠蘭は、西乃国の皇帝が小春と言う度にめまいを覚えながらも、彼と中ノ国の皇后の間にある一朝一夕では築けない絶対の信頼関係に気づき、身体だけでなく心もまるで台風に巻き込まれた1本の孤木のように左に右に前に後にと激しく揺れていた。
劉煌は真剣な顔で振り返るとすぐに準備に入ると言って、必要な物を揃えるために東之国の御典医長にてきぱきと指示し、張浩には着替えの手伝いを申し出た。
別室で二人っきりになった時、劉煌はすぐに張浩に申し出た。
「張先生、立ち合いをお願いしたいのだが。」
そう願い出た劉煌の目を見た張浩は、先ほどまでの姿勢とは一転して引き締まった顔で答えた。
「よろこんで。」
すると劉煌はニッコリと笑い、張浩の手を取り「これで百人力です。」と言った。
ようやくめまいが回復した翠蘭は、東西の名医同士がタッグを組んで別室からでてきたのを見て、すぐに状況を把握すると、張浩の後にピタッと張り付き、彼の袖をひっぱりながら口を尖らした。
「父様、私も立ち合いたい」
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