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第一章 思惑

9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。

だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。


劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 その頃、御用邸では、少し落ち着きを取り戻した簫翠蘭の所に、軍に、中ノ国皇帝・皇后を離れの別々の場所に見張りを立てて幽閉するよう命令を出したばかりの簫麒麟がやってきた。


 麒麟は翠蘭に茶を入れて手渡すと、「蘭姉ちゃん、気分はどう?」と聞いた。

 翠蘭はベッドに腰掛けながら、微笑むと「もう、大丈夫よ。」と言った。

 麒麟は、「じゃあ、今日の午後2時28分からの結納式は予定通り行うので大丈夫?」と聞いた。


 それを聞いた翠蘭は酷く驚いて「まあ、麟麟おめでとう。ごめんなさい。それもすっかり忘れてしまったようで。」と頓珍漢な答えをした。麒麟は翠蘭の手を取ると、彼女の手から湯飲みを取り、それをテーブルの上に置いてから、彼女の目を見つめると、「僕の結納じゃないよ。蘭姉ちゃんの結納だ。」と静かに言った。


 彼のその言葉に翠蘭は目をぱちくりと何回かすると、今度はムッとして「私は皇女だから巫女になるのよ。結婚なんてできない。まさか麟麟は掟を破って私を政略結婚させる気なの?」と食ってかかった。


 その迷言に麒麟は顔の前で左手を何度か払ってから「わかったよ。先方に今日の結納式は無しにすることを伝えてくるよ。大丈夫。向こうも事情はよくわかっているから、ドタキャンでも大事にはならないから安心して。」と告げると、立ち上がってそのまま部屋を出て行こうとした。


 「待って。」


 翠蘭は麒麟を呼び止めると「今日、私は誰と結納することになっていたの?」と聞いた。


 麒麟はまた翠蘭の横に座ると、「西乃国の皇帝の劉煌殿だよ。」と静かに翠蘭の顔をジッと見ながらそう答えた。


 翠蘭は”劉煌”という名前を聞いた途端に、自分の心が酷く掻き乱れることに気づくと、記憶を辿って行った。


 そして「違うわ。」とだけ言って黙ってしまった。


 麒麟は溜息まじりに「違わないよ。」と答えたが、翠蘭は真剣な顔をして「西乃国の皇帝の名前は劉操よ。り、劉煌じゃないわ。そんな人の名前聞いたこともないわ。」と、特に劉煌と言うのはとても言いづらそうに眉間に大きなシワを寄せて言った。


 今度は露骨に大きなため息をついて麒麟は翠蘭に説明した。

「劉操は自滅してもう半年以上経つ。その後はその前の皇帝の皇太子だった劉煌殿が皇帝になって、西乃国に逃れていた蘭姉ちゃんを助けてくれたんだよ。」


 翠蘭は劉煌という名前を聞くたびに酷く心が掻き乱れるので、顔をしかめながら彼女の真実を伝えた。「確かに私は西乃国に逃れて町医者をやっていたけど、皇帝に会ったことなんて一度もないわ。」


 さらに大きなため息をついて麒麟は解説を始めた。

「これはこの前、蘭姉ちゃん自身から直接聞いた話だからね。西乃国の京安で開業していた蘭姉ちゃんが襲われているのを劉煌殿は何回も助けてくれたって。それで蘭姉ちゃんが住まいの融通を劉煌殿にお願いしたら、西乃国の皇宮内の独立楼をあてがってくれたって。蘭姉ちゃんと劉煌殿の馴れ初めは、蘭姉ちゃんが6歳、劉煌殿が9歳の秋、中ノ国の3か国の祭典で、蘭姉ちゃんが皇宮内で迷子になっている所を、劉煌殿が救って先帝の所まで連れて行ってくれたこと。」


 この時、翠蘭の心の中で、何故だか、ふと、


 ”凄く優しくて、頼もしくて、広くて、安心できる背中”


 という思いが溢れてきた。


 ところがそれに記憶を結びつけようとすると、前よりもさらに彼女の心痛も頭痛も激しくなった。


 麒麟は翠蘭の内なる変化に気づくはずもなく、さらに劉煌の話を続けていたが、ふと翠蘭を見ると、彼女は真っ青な顔をして頭を抱えていた。


 麒麟は慌てて話をやめて翠蘭に手を貸した。

「とにかく蘭姉ちゃんは何も心配しなくていいから、休んでいて。」

 そう言って翠蘭をベッドに横たえると、優しく彼女に布団をかけてから、麒麟は部屋を静かに出ていった。


 ~


 簫麒麟は、彼の実父である摂政の部屋に行くと、扉をぴっちり閉めた。


 簫翠陵はすぐに「翠蘭はどうだ?」と姪の心配をしてきた。


 麒麟は、首を横に振りながら、「体調は問題ないが、心の問題が残っている。劉煌殿に関することが全てすっぽり記憶から無くなっている。」と俯いて言った。


 ところが、麒麟の父の回答は、彼の予想だにしないものだった。

「そうか。残念だが、でもこれで本当は良かったのではないか?これで東之国の掟通り、来年20歳になったら翠蘭は巫女になれる。」


 麒麟は、その言葉に真っ青になると「親父、正気でそれを言っているのか?蘭姉ちゃんの記憶が、戻ったらどうするの?それも、巫女になってから戻ったら。どれほど蘭姉ちゃんが傷つくことか!」と父に喰ってかかった。


 翠陵は麒麟の手を払うと「これも運命なのだ。大昔から東之国の皇女は巫女になると、掟で決まっているのだ。だからどんなに画策しようと、自然とこうなるようになっていたのだよ。」と面倒くさそうに言った。


 麒麟は珍しくとても怒りながら、「今日の結納式はなしにするけれど、婚姻の話自体はまだ解消はさせないよ!巫女になるのだって先の話だし。その前に蘭姉ちゃんの記憶が戻るかもしれない。親父も見たろ?中ノ国から帰国する時の蘭姉ちゃん。帰国してからの蘭姉ちゃん。今日だって劉煌殿を愛していたからこそ、自分の身を犠牲にしてまで劉煌殿を救ったんだ。それに劉煌殿が機転を利かせて朱雀に頼まなければ、蘭姉ちゃんは死んだままだったんだよ!」と語気を強めていった。


 簫陵は面倒くさそうな顔をして、麒麟を完全に無視していると、麒麟は彼を責めたてた。

「それに親父にだって今日のことには責任があるんだ!蘭姉ちゃんがあんなに中ノ国の皇帝皇后を呼ばないでくれと親父に頼んでいたのに、却下しただろう?とにかく、この話は性急に破談には絶対しないから!」


 責め立てられた簫陵は、自分自身でも分が悪いと思っていたのでとうとうそっぽを向いてしまった。そんな彼に麒麟は容赦しなかった。

「それよりも問題なのは、中ノ国の皇帝皇后の処遇だ。我が国の皇女を殺したのだから死刑にするのが当然だが、皇女は生き返ったから、死刑にする大義名分が無くなってしまった。かわした条約に則って、その条約違反ということで、彼らを即刻東之国から追放し、未来永劫東之国への入国を禁ずるだけでは、私の気が治まらない。そこで考えたのは、中ノ国への塩の輸出を止めることだ。あの国には海が無いから海塩は輸入に頼らざるを得ない。実は中ノ国には塩の鉱山も発見されていないから、塩は全て輸入に頼っているんだ。勿論西乃国から塩を輸入できたら兵糧攻めにはならないが、それでも塩の価格はかなり高騰し、国の中は混乱するはずだ。」


 翠陵は、中ノ国皇族の処遇についてから真剣に聞き始めると息子の行った強行策に難色を示した。

「それはこちらの条約違反になるのでは?」

 麒麟はここでニヤリと笑うと「親父は条約も塩のことも知らないのだな。国内の塩は全て国で管理しているんだ。民間業者じゃない。都に戻ってから、配給している塩の転売を禁止する聖旨を出そうと思っている。」と冷たい声で言った。


 簫陵はますます青ざめると「それでは中ノ国の民衆が困るのではないか。」と言った。


 麒麟は涼しい顔をして、それに答えた。

「それは中ノ国の皇帝が気にしなければならないことで、私が気にすることではない。中ノ国の国民も、皇帝が性懲りもなく、すぐにまた不祥事を犯したと知れば、今度こそ政変が起こるかもしれないね。そのことも念頭に入れて、こちらも準備しておこう。」


 これを聞いた簫陵は死人のように真っ青な顔をして震えながら言った。

「お前という奴は、時々末恐ろしくなる。」

「何を言っているのだ。親父こそ、我が領土で他国の皇帝を暗殺しようとした上に、我が国の皇女を殺害せしめた奴に甘すぎるのだよ。少しは懲らしめないと。ああゆう輩は、温情をかけてやると、逆に何をしてもいいと思いかねない。親父も見ただろう?皇太后が甘やかし続けているから腑抜けになって、どこでもかしこでも自分の我が通ると勘違いしているんだ。」

 彼はそう吐き捨てると、何も言えないでガタガタと震えている簫陵をそこに置き去りにして、部屋から出ていった。


 ~


 麒麟は中ノ国皇后の部屋の前に来ると、部屋の前の見張りの兵士に目配せした。


 兵士は慌ててお辞儀をしてから扉を叩き、「開けるぞ。」と言ってから、室内の返事を待たずにガラッと扉を開けた。それに木練が怒って「中ノ国の皇后に向かってなんと無礼な!」と叫ぶと、小春は「木練、静かに。」と木練を制した。


 小春は、珍しく務めて冷静な顔を作ると、「簫翠袁殿が直々に何の御用かしら。私たちを解放しに来られたということかしら。ま、いいわ。誰にでも間違いはあるから、私たちを拘束したことは、無かったことにしてあげるわ。」と言って、駆け引きに入った。


 供を二人連れた簫麒麟は小春を見ながら鼻で笑うと、「これはこれは、成多小春殿。あなたは記憶障害を装う気か。それとも朕を年少だと思って手玉に取れるとでも勘違いされているのか。」と言って、やおらゆっくりと脇差に手をやった。


 小春はそれを見ると、慌てて、両手を挙げて、「こ、皇女だって無事だったんだし、誰も死んでいないじゃない。言っておくけど、私たちを殺せば、戦争になるわよ。」と虚勢をはった。


 麒麟はこれに苦笑して、「あなたはどちらが先に仕掛けてきたのをお忘れか?中ノ国の皇帝ともあろう人が、こともあろうに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからこれは中ノ国と西乃国の間の問題だけではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だいたい、あなたが悍馬の手綱をしっかり締めておけば、こんなことにはならなかったのだ。それもできないくせに、偉そうに仲人などとでしゃばりおって、挙句の果てに全てをぶち壊したんだ!」と叫んだ。


 まったく取り付く島もないことにようやく気づいた小春は、真っ青になった。

「わ、私は本当に仲人をするつもりだったのよ!破談にするつもりなんてコレっぽっちもなかっ…」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なるほど、やっぱり破談目的の計画的な犯行だったのだな!誰か!」  麒麟は真っ赤になって怒りながらそう叫ぶと、供の二人がハハっと言って、東之国皇帝の側に寄った。


「このように、中ノ国は、友好を装って、東之国と西乃国の婚姻の妨害に入った。友好不可侵条約を他国に締結させ、自らはそれを遵守せず、我が国内で侵略行為を行った。記録しておくように。」

 氷のように冷たい声で麒麟はそう言うと、小春に背を向けて部屋から出ようとした。

 小春は完全に気が動転していた。

「えっ?簫翠袁殿!それは酷い誤解よ!こんなことになるなんて本当に思わなかったの。本当に私は蓮を祝福したかっただけなのよ。そうだ、ね、翠袁殿、西乃国の皇帝に会わせてもらえないかしら。彼なら私の言い分をわかってくれるわ。ね、お願い、西乃国の皇帝にここに来るように言って。」小春は無意識に手を合わせて麒麟に懇願した。


 麒麟は小春の方に顔だけ振り返ると、冷たい目をして、「本件は西乃国の皇帝から一任されている。諦めるんだな。」と言った。


 それを聞いた小春はショックのあまり膝から崩れ落ちたが、麒麟はそんな小春を完全に無視して部屋を出ていった。


 ”そんな馬鹿な。蓮は、あの時照挙から私を助けてくれたのに。”


 木練が慌てて小春を抱き起こそうと駆け寄ったが、小春は一点を見つめて座り込んだまま、ずっとボーっとしていて、木練が声をかけてもしばらく何の反応もしなかった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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