第一章 思惑
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子：劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人：小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
「大事なことは過去ではないと？」
「そうだ。大事なことはこれからのこと、、、未来のことだから。」
その言葉に思わず驚いて劉煌の目を見てしまった翠蘭は、彼と目が合うと、今までとは違って目線を外さず目をさらに大きくして彼を見つめた。
劉煌は優しく微笑み「そりゃー、お互いに二人の間の過去の記憶があることは嬉しいことさ。だけど、そんなことよりも、これから二人で共に歩んでいく未来の方が遥かに重要だ。朕は君がどういう人なのか知っているから、朕の未来に君が側に居てくれたら、素晴らしい人生を送れると確信している。だから、まだ君が西乃国の地方の役人の娘を装っている時から、好きだという前に口からプロポーズの言葉が出てしまったんだ。」と力強く言った。
劉煌の目は優しく、その瞳はどこまでも深く、彼の目を見ていると、まるで美しい森に吸い込まれていくかのような恍惚とした気分になった。
劉煌の瞳の森に一人たたずんでいた翠蘭は、それを聞いて、先ほど観た芝居を思い出した。
”本当の身分を知らなかったのにプロポーズしたというのは本当だったのね。”
”だとすると、私と結婚したいのは、政治的に利用したいからではなかったんだわ。”
今朝あった簫翠蘭の外堀は、これで完全に埋まってしまった。
ところが、劉煌の次の一言が、せっかく感情に揺れていた翠蘭に理性を呼び戻してしまった。
「ただ、残念だけど、朕はたとえ結婚したとしても、夫以前に西乃国の皇帝だ。私事より国民の生活を第一に考えなくてはならない。だから、明日帰国の途に着く。これ以上国を放っておけないからね。伝書鳩は緊急の知らせに使ってくれ。」
飲み干した茶碗を茶托の上に返しながら、劉煌はそう言ってしまった。
翠蘭は、それを聞いて、
”陛下、私も簫翠蘭である前に、東之国の皇女なのよ。私事より国の繁栄のことを考えなくては。”
と思いながらも、この１日で西乃国の皇帝がどういう人なのかわかってしまった彼女は、その思いを口にすることなく、ただ「はい。」とだけ答えた。
”今は辛いけど、陛下が明日私の目の前からいなくなれば、きっとすぐ忘れるわ。”
翠蘭は必死に自分にそう言い聞かせていた。
～
劉煌と簫翠蘭が楽しい１日を送っていた時、東之国皇宮では午後火急の要件と言うことで、全臣が都の皇宮内の大極殿に集められていた。
簫麒麟は、”皇女が死んで生き返って記憶を失った”部分は伝えずに、
①中ノ国の皇帝が、条約を破って東之国領内で国賓である西乃国の皇帝を暗殺しようと謀ったこと
②それに東之国の皇女も巻き込まれ怪我をおったこと
を報告して、中ノ国の皇帝皇后を東之国で弾劾しようとした。
ところが、中ノ国との関係を悪化させたくない重鎮達から、他国の皇帝皇后をこの場で裁くのはいかがかと言う声があがり、本国の皇女に怪我を負わせたということも、皇女が今日は西乃国の皇帝と共にいることを知ると、「大したことになっていないのに、ことを大袈裟にしない方がいい」と言って、ますます中ノ国皇帝皇后への制裁に消極的な反応をした。さらに国賓の暗殺未遂については、西乃国から東之国の警備についてのクレームが無いのであれば、それは西乃国と中ノ国の問題で東之国があずかり知らぬところであると、これも逃げ腰であった。
麒麟は心の中で歯ぎしりしながら”この腰抜けたちめ！”と思っていたが、昨日の一部始終を目撃している摂政の簫翠陵までもが、中ノ国の皇帝皇后の未来永劫の東之国入国禁止という皇帝の制裁案を却下し、強制送還だけにしようと弱気な態度を見せたので、頭から湯気が出るのを抑えながら、一度大きな深呼吸をすると、温めていた塩の輸出停止の話を持ち出した。「これなら中ノ国の皇族が制裁されているのに気づくまで時間がかかり、且つ本件に対する制裁という具体的な証拠が出るわけではないからいいのではないか。」と臣達は喜び、「さすが陛下。」と口々に言って、故簫翠袁の身代わりを勤めている麒麟を崇めた。
麒麟は、内心、”何がさすが陛下だ。くさった奴らめ。”と怒りながらも、”とにかく早くこいつらの首をすげ替えなければ。”と固く決意した。
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