第一章 思惑
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
そう思った劉煌は、椅子からガバっと立つと、テーブルをパッと飛び越えて翠蘭の横に屈み、彼女の背中をさすりながら呼吸を誘導した。翠蘭の呼吸はしばらくして正常に戻り、劉煌が念のため彼女の脈を見ていると、突然翠蘭が劉煌に向かって切羽詰まったように「前も同じようなことがありませんでしたか?」と聞いた。
劉煌はそれをパニック発作のことかと思い、「昨日もあったけど覚えていない?やっぱり僕が呼吸を誘導したんだけど。」と答えた。
翠蘭はギューッと目をつぶりながら首を横にぶんぶん振った。
「パニック発作のことではなくて、お料理屋さんで、男女逆転カップルと言われたことよ!」
彼女がそう叫ぶと、劉煌はハッとして、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。そして脈を取り終わり翠蘭の手首から掌へと劉煌は彼の手を滑らせた。
彼女の手をしっかりと握り、期待を込めて彼女の目を見ながら彼は聞いた。
「思い出したのか?!そうだよ。自称東之国料理を出すと言っていた店だ。私はあの頃東之国料理を食べたことが無かったからわからなかったが、今思うと君が出てきた料理に首を傾けたはずだよ。全然違うもの。。。それで、朕のことは思い出してくれた?」
そんな劉煌に、翠蘭は目を逸らして俯くと、ただ首を横に振った。
劉煌はそれを見てガッカリしたものの、彼女の記憶から完全に抹消されている訳ではないということがわかったのは、間違いなく朗報だと思った。
老人は奥の席に腰掛けながら、ジッとこの二人の様子を見ていたが、深い事情がみえてしまったので、立ち上がって彼らの側まで行くと、「ごめんごめん。すっかりそばが伸びちまったな。そばは、のど越しが大事で伸びてしまうとちっともその魅力が伝わらないんだ。新しいものを持ってくるから、それを食べて。」と言って、二人の前の手つかずのそばをさっさと奥に下げていった。
15分位経った時、劉煌はまだ翠蘭の横で心配そうに背中をさすっていた。
老人は厨房ののれん越しにそれを見てふっと微笑むと、新しいゆでたてのそばを持って二人の前に現れた。
「お待ちどう。」
老人はそのまま向かいの席につくと劉煌に向かって「お若いの。どうもあなたは東之国料理を知らないようなので、これの食べ方な、教えるから。」と言うと、もう二人前を持ってきた老婆に、「わたしらもここで一緒に食べよう」と優しく声をかけて、そのテーブルに座らせた。
老人は湯飲みのような形の器を持って「こいつはそばつゆだ。これに好みでネギとわさびを入れる。」と劉煌に向かって言うと、その器の中の黒い液体に、別添えのネギとわさびを全部入れた。
「私はもう年で、わさびに慣れ切っているでな、全部入れるが、お前さんは初めてだから少しずつにしなよ。」と言いながら、箸でつゆをかき回した。
次にざるに盛られたそばを幾筋か器用に箸でつまむと、「いいかい、ここからが重要だ。このそばつゆはとても味が濃い。これにどっぷりそばをつけるとそばの香りも味も全部吹っ飛んじまう。だからこんな風にそばの下半分弱をちょっとそばつゆにつけて、後はつゆにつけずに、こうやってすすって喰うんだ。そしてそばののど越しも楽しむ。」と言って、その通り実践して食べて見せた。それを見た翠蘭が、「まあ、私は今迄全部つけて食べてましたわ。」と驚いて言うと、今度は老婆が「自分が好きなように食べるのがいいさ。美味しく食べられればいいのよ。」と助け舟を出した。すると老人が「だからお前はいつまで経っても、そばの味がわからないんだよ。」と老婆にケチをつけた。しかし老婆はそれにひるむことなく「そういうあんたは、うんちくばっかりなんだよ。」と言って、お互いに見合って笑った。
そのやりとりを見ていた劉煌は、「失礼ですが、ご夫婦でいらっしゃるのですか?」と聞くと、老婆は「もうかれこれ一緒になって40年ですよ。」とため息まじりに答えると、老人は気恥ずかしそうに「さ、そんなことより、早くお食べ。また伸びちまったら大変だ。」と言って話をそらした。
二人は老人の言う通りにそばを食べてみると、劉煌は、「いやー、参った。こんな繊細な料理は食べたことがない。のど越しという意味が初めてわかりました。」と感嘆した。翠蘭も「おそばがこんなに美味しいなんて知らなかった。」と称賛した。老人は嬉しそうに笑うと、「味に飽きて来たら、少しずつ薬味を増やして味を変えて楽しむんだ。」と言って、さっさとそばを食べ終え、また奥に一人で行ってしまった。
3人が食べ終わる頃に老人は湯桶を2つ持ってきた。
「そばはな、ゆで汁も楽しむ料理なんだ。」
彼はそばつゆにそば湯を入れて、ふーっと息をかけて冷ましながらそれを飲んでみせた。そして老婆も食べ終わったのを横目で見ると、彼は同じ湯桶から老婆のそばつゆに蕎麦湯を注いであげた。老婆は不思議そうな顔をしている劉煌と翠蘭に「これはね、そば湯っていうのよ。おそばのゆで汁。」と言ってから、やはり美味しそうに飲んで、はああとため息をついた。
翠蘭は、また驚いてしまった。
「おそばのゆで汁を飲むとは知りませんでしたわ。」
「捨てるところもあるがね、私らは身体が温まるんで、お客さんにだしてるんよ。それに何て言ったって美味しいしからね。」
そう老婆が言うと、老人が、「オタクさんらはそっちの湯桶をお使いなはれ。」と言って、また蕎麦湯を飲んで、はああと言った。劉煌はすぐに真似をして蕎麦湯を飲むと、「いやあ、これは美味しい。」と言って、どんどん飲み始めた。翠蘭はためらっていたが、意を決して挑戦すると、すぐに「本当、とっても美味しい。今迄勿体ないことしていたわ。」と本当に悔しがった。
劉煌は、突然閃いたように老人に聞いた。
「ご主人、このそばを作るところを見せては貰えないだろうか?」
すると老人はとても嬉しそうに、「へえ、お若いの。そばうちに興味があるのかね。じゃあ、裏から見て貰おうか。」と言うと、店の外に劉煌を誘導した。劉煌は翠蘭に「君はどうする?」と聞くと、翠蘭は自分も見たいと言って立ち上がった。
お読みいただきありがとうございました!
またのお越しを心よりお待ちしております!




