第一章 思惑
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
これでなぜか警戒心が薄れた翠蘭は「陛下、素敵な簪をありがとうございました。お腹もいっぱいになったし、薬草を摘みましょうか。」と言って、何も考えずに自然と劉煌の手を取って歩き出した。
翠蘭は黒紫の実のいっぱいついた小さな木の所に劉煌を連れていくと、「これはウサギモチの木です。東之国にしかない木です。樹皮や葉が風邪の熱さましに、果実は不老長寿の薬と言われていて、東之国では高額で取引されています。」と説明した。
「それは歴代皇帝が愛食したでしょう。」
「皇帝だけではないのですよ。妃たちもこぞってこれを取ったのよ。でも妃たちはみんな短命だったの。」
翠蘭は笑ってそう言った。
「??それって全然効いてないってことじゃないの?」
劉煌は顔をしかめて翠蘭に聞くと、翠蘭はあっけらかんと答えた。
「不老長寿の薬も運命には効果が無いってことですね。」
その回答に劉煌は、ハッとして、顔色を変えた。
”君が朕を忘れてしまったのも、運命ということなのか?運命には逆らえないのか?努力で運命は変えられないのか?”
薬草に夢中になっている翠蘭は、劉煌の顔色の変化に気づかず、東側を向くと、「あ、たつぶきがあるわ。」と言うと、青ざめている劉煌を引っ張って背の高い黄金色の花の密集した所に行った。
「これも東之国にしかない草です。東之国は獣肉より魚を食べるので、魚の毒にあたりやすいんです。この草の根はその毒消しの特効薬になるんですよ。西乃国もお魚を召し上がるから、これをお持ち帰りになられたらいいわ。葉も火にあぶってから細かく刻むと傷によく効くんですよ。」
そう言いながらたちぶきの茎を引っ張り、根こそぎその草を取って、劉煌が背負っている籠の中に入れた。
二人は翠蘭が”死ぬ”前と全く同じように話をしながら薬草を採取し、取った薬草をどんどん籠の中に入れていくと、あっという間に籠いっぱいに薬草が溜まった。
その頃には、お日様も二人の頭の天辺を照らしていて、翠蘭はうーんと背伸びしながら上を向いた。すると切り立った崖の中間あたりに紫色の花が咲いているのが見えた。
”も、もしかしてあれは伝説の紫如花?”
翠蘭はその花や崖のてっぺんを何度も見つめ考えた。
”崖の上のあの木に縄をつけたらなんとか取りに行けるかしら。。。”
翠蘭の挙動を横で見ていた劉煌は、彼女の視線からおそらくあの高さ10m位の崖の中腹に咲いている花を手に入れたいのだろうと思った。
「あの花取ってこようか?」
「花もそうですが、それよりもあれの根が重要なんです。だから崖の上まで行って、、、」
「わかった。じゃ取ってくる。」
翠蘭がえっ?と言っている間に劉煌はターっと垂直に飛び上がり、瞬く間に紫如花の近くの垂直の崖の岩肌に四肢でへばりつくと、まるでそこの岩肌の重力は、岩の内側に向かっているのかと錯覚するような動きでいとも簡単に紫如花に近づき、きれいに根こそぎそれを引き抜いた。そしてそれを右手に持ったまま、翠蘭の目の前にスーッと飛び降りてきた。
「これでいいの?」
劉煌が右手を彼女にむかって突き出したが、劉煌のあまりに人間離れした離れ業に翠蘭は、彼の持っている物には目もくれず、彼の顔をみたまま口をぽかんと開けていた。
”こ、この人何?今私が見たのは何だったの?”
「あ、あなた人間じゃない、、、」
ようやっと彼女から出た言葉は感謝の言葉どころか、ほとんど差別に近い発言で、劉煌は、
”君がそれを言う!”
とガッカリしながら、右手を振って「これじゃなかったの?」と語気を強めて聞いた。
ようやく彼の右手に掴まれている希少な薬草に気づいた翠蘭は、さきほどの引きまくった態度から一転して喜びいっぱいになると「これです!これですぅ!」と言ってうきうきしながら彼の手からそれを受け取った。
その瞬間、あんなにいっぱい朝ご飯を食べたのに、二人のお腹は空いているぞと言わんばかりに一斉にグ~と音を立てた。
劉煌はお腹を押さえながら「腹が減ったな~。そういえばここに来る途中、この山のふもとの川沿いに茶屋のような店があったな。そこでお昼にしないか?」と翠蘭を誘った。翠蘭はその店に行ったことが無かったが、お腹が空いていたので、間髪を入れずに同意した。
二人は早速、馬を手で引きながら下山し始めた。
今度は馬が間にいるとはいえ、翠蘭は、劉煌が横にいるのを許して歩いていた。
初冬の日差しはとても柔らかく、枯れ葉を踏みしめるガサッガサッという音だけが風に乗っていく中、翠蘭は気持ちよさそうに空を見上げながら歩いていた。
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