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第一章 思惑

架空の時代、架空の国


9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。

だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。


劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 一方、劉煌は、李亮を部屋に戻した後、自分の部屋で一人っきりになると、あまりにジェットコースターのようだった1日を思い出し、そこで大きなため息をついた。


 好きな女から、”私の家はあなた” と最上級の愛の告白を受けた直後に、彼女が目の前で殺され、その後、過去世は思い出すは、空想上の存在と思っていた朱雀が実在していたり、死人が生き返ったり…まあ、それは良かったものの、さっき愛の告白をしてくれた最愛の(ひと)の記憶の中から自分が抹消されていることがわかったり、結納がお流れになったり、、、


 張麗と名乗った簫翠蘭と出会ってからのわずか数か月の方が、小春と暮らした十数年よりよっぽど密度が濃いと常々思っていたが、それよりも今日一日の方が遥かに起こったことが多かった。


 劉煌は一人っきりになった部屋で着替えると、ベッドに向かった。


 心身共に疲れ果てているはずなのに、劉煌は床についてもなかなか寝付けなかった。


 翠蘭を東之国に帰した時から、もしかするともう二度と会えないかもしれないという一抹の不安があったが、今はそれが一抹ではなく、明日を最後に現実となるかもしれない。


 劉煌はその22年の人生で、幸せのはかなさを何度も経験してきたが、それにまた一つ加わっただけと言えばそうであるが、その中でも今日は最も断腸の想いの連続の日であった。


 結局眠れなかった劉煌は、夜中に厨房に行くと、一人で火を起こし、粉をこね始めた。


 劉煌は、粉に水と酵母を入れて手でかき混ぜ一塊にすると、それを台に置き、無心になって生地をこねはじめた。


 劉煌は、亀福寺で料理当番をさせられていた頃、どの料理の過程よりこの小麦の生地作りが一番好きだった。


 それは、生地を作っている時が一番落ち着くからだった。


 そうでなくても、波乱万丈な少年時代を過ごさざるを得なかった劉煌にとって、たとえ地獄の釜の中に居たとしても、自らの心の平安を保つことが自分の生死を分けることであると悟っていたので、彼は、どんな環境でも動揺の時間を限りなくゼロに近づけ、すぐに冷静でいられるようになることが必要だった。


 人々は、集中力や心を鍛えたり、無心になるために、わざわざ静寂な環境に身を置いたり、他者の手助けをかりたりしているが、劉煌は、初めて亀福寺で小麦粉に酵母水を入れてこねる作業をさせられた時、この手ごね生地作成時が、手軽でしかも写経並みに心も体も整うよい瞑想方法だと気づいたのだった。


 特に今日のような感情という名のジェットコースターに乗ったかのような一日を過ごした後は、否応なく心身は乱れ切っているものなので、小麦粉でまんじゅうの生地を作る過程は、劉煌の心身の健全性を呼び戻してくれる。


 ろうそくの火の灯る中、聞こえるのは、薪が燃えるパチッパチッという高音と生地をこねるザッザッという低音だけで、劉煌はひたすら丹田に重心を置き、身体全体を使って生地をこねた。


 小麦粉は、酵母を入れて水で練っていくと、はじめはベタベタして手に絡みつくが、しばらくこねているとグルテンの薄い膜が張り、手から容易にはずれ、こねた固まりの表面はつるつるになる。


 つるつるになった生地をかごに入れ、その上に濡れ布巾を乗せて放置すると、劉煌は今度は野菜を細かく切り始めた。


 中華鍋にごま油を入れ、ごまの香りが一面に漂うと、劉煌は生姜とねぎのみじん切りを鍋に投じた。


 たっぷりのごま油の中で、みじん切りの薬味が辺り一面に香ばしい香りを放ちながら

踊っている所に、細かく切った7種の旬の野菜を一気に投入し、劉煌は勢いよく鍋を振った。火を入れながらも野菜のシャキシャキ感を残したところで、調味料を入れて少し煮立てると劉煌はそこに酒を振り、鍋を大きく振ったので、鍋の中の酒に火がつき、炎の中で色とりどりの野菜が宙を舞った。最後に片栗粉でさっとトロミをつけると、劉煌はそれを皿に盛って冷ました。


 劉煌は先ほどの籠の濡れ布巾を取って、中の生地を確認したが、冬の寒さもあって、生地はまだ思ったほどの大きさには膨れていなかった。劉煌は再度濡れ布巾をかけて生地を休め、その間に夕餉の宴の残りものをザーッと見渡した。その中に手の付けられていなかった鳥の丸焼きを見つけると、それをまな板の上に乗せ、骨きり包丁で勢いよくパーツごとに切っていった。そして骨から肉を綺麗に削ぎ落し、肉を食べやすいように一口大に切り分け、下味をつけてから小麦粉をまぶし、溶き卵にくるませてから、片栗粉とスパイスと塩で作った衣を絡ませた。次に中華鍋にごま油をたっぷり入れ、それを湯気が立つまで高温に熱すると、衣のついた鶏肉をサッと揚げた。既に肉には火が通っているので、衣がパリッと香ばしく揚がれば、それで出来上がりである。劉煌はパリパリの衣に包まれた鶏肉の油をよくきり、余分な油を取るために、紙の上に乗せた。

 その頃には生地もいい塩梅で膨らんでおり、劉煌は平たい台の上に打ち粉をふるうと、その上に生地を乗せ、めん棒で伸ばした。そしてさらにそれをクルクルと巻き、めん棒と同じくらいの大きさの棒状にまとめ、それを6等分に切り分け、1つずつまためん棒で今度は円盤状に丸く伸ばしていった。円盤状になった生地の中央に先ほど炒めた野菜の餡を置くと、劉煌は慣れた手つきでそれを包んで丸い饅頭の形にしていった。それを6個作ると、竹でできた蒸し器に、白菜を置いてからまんじゅうを一つずつ置いていった。劉煌は湯の入った中華鍋の上に蒸し器を乗せ、蓋をしてまんじゅうを2次発酵させている間に、竹の皮を綺麗に洗って乾かした。2次発酵が終わると、まんじゅうを蒸すため、劉煌は蒸し器の乗った中華鍋を火にくべた。揚げた肉は冬の寒さですでに冷えており、まんじゅうを蒸している間に竹の皮で肉を包み、紐で結んでお弁当包みにした。まんじゅうを蒸し終わると、それを皿に盛り、冷ましている間に厨房の片づけを全て済ますと、あたりは少し明るくなってきていた。


 ”彼女が好きな味付けで作ったつもりだったが、気に入ってくれるだろうか......”


 劉煌は、やおら厨房から出て部屋に戻ると、伏見村の小高蓮の着物に着替え百姓の頭巾を被った。


 その出で立ちで、厨房に戻ってまんじゅうを肉と同じように竹の皮でお弁当包みにすると、彼はそれを持って御用邸の玄関へと向かった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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