第一章 思惑
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
式場ではなく部屋に戻った白凛は、軍服を脱いで寝巻に着替え、鏡の前で髪をとかしながら人生のはかなさをしみじみと感じていた。
小さい頃から軍人として生きてきて、死とは隣り合わせの人生を彼女は送ってきた。
戦士する兵士たちを見るのは日常茶飯事のことだったし、彼女の育ての親であった趙明や言紫らの死も乗り越えてきた。それなのに、今日の翠蘭の死と再生は、彼女にとって筆舌に尽くしがたいほど、彼女の心を激しく揺さぶるものだった。
明日、白凛の夫である李亮が死んでしまったら、たとえ死なないとしても翠蘭のように彼女のことをすっかり忘れてしまったらと思うと、心がざわめき、白凛はどうやっても居ても立っても居られなくなってしまった。白凛は、長い髪を垂らしたまま扉をあけると、あたりを見まわしてから寝巻のままで隣の李亮の部屋にそっと忍び込んだ。
夕餉の宴はまだお開きにならないのか、李亮の部屋は人気が無く、暗い部屋の中で灯もつけずに白凛は椅子に座って李亮の帰りを待っていた。
しばらくして、廊下を歩く足音が聞こえ、劉煌と李亮の低い話し声が近づいてきたかと思うと、そこを通り越して先に行ってしまった。
”しばらく太子兄ちゃんと話すのかな...”
そう思った白凛は、靴を脱いで膝を胸に抱える恰好で椅子に座りなおした。
白凛はその姿勢でボーっとしたままでいたが、突然部屋が明るくなったので、白凛は驚いて文字通り飛び上がると、咄嗟に李亮の部屋の剣掛けから剣を抜いて、柱の影に隠れた。
その音で部屋に誰かいるとわかった李亮も懐から剣をとり出すと、警戒しながらすり足で前に歩みを進め、「誰だっ!」と叫んだ。その声で李亮だとわかった白凛は大きく息をつくと、「あ、お帰り。」と言いながら剣を剣掛けに戻しに行った。
李亮は李亮で、一人っきりの部屋に帰ってきたつもりが、思いがけず最愛の新妻から「お帰り」と言う声がかけられたので、すぐに懐剣を放り出すと、嬉しそうに「凛、どうしたんだ~♡」と言いながら、うきうきして奥に進んできた。
ところが、奥に居た白凛は、真冬だというのに素足に薄い寝巻で、真っ青な顔をして震えていた。李亮は慌てて自分の羽織を脱ぎながら、駆け寄るとすぐに白凛にそれを羽織らせ、さっきとは正反対のトーンで心配そうに「どうしたんだ?」と聞いた。
白凛は顔を上げると彼に向かって「生まれて初めて一人でいるのが怖くなった。」と言った。
「ある日突然、あなたが居なくなったり、居ても、れいちゃんみたいに私のことを忘れちゃったりすることがあるのかもしれないって思うと、なんだかとっても怖い。あんなに戦場で敵と戦って、死と隣り合わせで生きてきて、自分が死ぬのは全然怖くないのに、どうしてだろう?自分が死ぬことより、あなたを失った後も生きる方がずっと怖い。」
李亮の前で自分の腕を両手で摩りながらそう話した白凛を、李亮は思わず何も言わずに静かに自分の胸に引き寄せてから、ギュッと抱きしめた。
白凛は自立した女性だ。
女性でありながら将軍として軍で活躍し、彼女が他者を怖がらせることはあっても、彼女が怖がっている姿など、他者は勿論のこと李亮にすら見せたことは一度もなかった。そんな白凛が初めて気弱になり、李亮が初めて会った時から感じていた彼女がいつもは奥底にしまっている繊細な部分が浮上し、その彼女のナイーブな一面に彼女自身が困惑しているのを目の当たりにした李亮は、彼女を抱きしめながら「愛している。」と囁いた。
李亮が白凛に向かってこの言葉を投げかけるのは2回目だった。
白凛は李亮を見上げると、李亮は真面目な顔をして白凛に話しかけた。
「二人で生きている以上、いつかはどちらかが先に旅立ち、一人が残されるのが世の定めだ。結婚してまだ一月も経っていないが、俺は二人で居るのがこんなに幸せだなんて結婚する前は思ってもいなかった。最愛の人を失うことほど辛いことはないが、それを恐れていては、幸せになることもできないということがわかったよ。別れを辛く感じるのは、それまでが幸せだったからだ。そう考えると、相手を失い一人で生きることが怖いと感じられるのも、天からの恵かもしれない。」
白凛は、それを聞きながら李亮の頬にそっと手を当て「私もあなたを愛してる。あなたに出会えて良かった。」と囁くと、背伸びして李亮の口に自分の口を優しくそっとつけた。李亮はそのサインを見逃すことなく白凛を抱き上げると、口づけしたまま彼女をベッドに運び、優しくベッドに横たえると彼女の寝巻の帯に手をかけた。
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