Vol.1 第二章 2話 踊るフランク亭
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ビッドブルガー区 踊るフランク亭
モルト大公国といえば酒。
そして、畜産業だ。ソーセージ、ハム、ベーコン。
それからバターにチーズだ。また、ジャガイモの栽培も盛んに行われており芋が主食といっても差し支えない。
この踊るフランク亭はこの区域の中でも知る人ぞ知る穴場であり、ここに滞在するとあるエルフの親子行きつけの店でもある。
「ご馳走様。これ、チップです」
本日の来客はいつもの神父様だ。
見た目は15歳前後の青年だが、うっとりするほど美しい顔立ちをしている。
ここの停主である私、ブラウンが生まれた時から彼はいた。
一体いつからこの地に住んでいるのだろう。
私が幼女だった頃から見た目は全く変わっていない。とても、かっこいい。
「あら、こんなに…いいんですか?」
注文の品が1.600ドルフ。
チップはその半分の800ドルフだ。
「あぁ、もしかしたら今日がこの店に来る最後の日かも知れないからね」
いつも通り優しく微笑みながら神父様は語る。
その表情は何処か寂しげだ。
「あ!もしかして中央諸国に招かれたとか?神父様お強いし、頭も良いし、何より知識量が桁違いですもの。当然ですね!」
「あ、えっと違くて」
「そうか!分かりました、留学ですね!何処か別の地域に赴き更に知見を深める。なんて勤勉なんでしょう…」
「いやぁその…」
神父様はやや冷や汗をかきニタニタと笑う。
その表情にブラウンは焦りを覚える。
(ま、まさか……結婚!?)
そうだ。考えてみれば神父様は私より遥かに歳上だ。見た目はまだ幼いが結婚しても何ら不思議ではない。
毎週必ずこの店に寄ってくれる彼。
傲慢にも期待していた自分がいた。
彼の、トレスの妻になれるならと。
「…そう、ですか。良い人が──」
「教会クビになってしまったんだ、アハハ…」
「…ふぇ?」
思いもよらないその回答に、ブラウンは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。




