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Vol.1 第一章 10話 旅立ち そして、始まり

午前6:20


ガタゴトと喧しく揺れる床に少年は起こされる。

もう朝になってしまったのか、憂鬱な気分と同時にトレスは身を起こそうとし、異変に気づく。

まず肌の感触だ。チクチクと身体中に棘が刺さり少しでも身体を動かす度に、その棘が折れ自身の柔肌を貫き通す。

目開こうとするも、金色色の植物がその行手を阻む。独特の乾いた匂いが漂い、服の間に棘と種子が挟まり非常に不快だ。

だが、つい昨日まで感じていた優しい感触は普段と何ら変わらず彼を受け入れてくれた。


「”おはよ、トレスちゃん”」


母だ。いつもであればとっくに仕事へ出掛けている筈だ。イヤ、そんな事より此処は何処なのだろうか。確実に言えるのは、”樹洞ではない何処か”という事だ。


「お、おか──」


「”しーっ!声を潜めて。もう少しだから”」


「”ご、ごめんなさい”」


周囲を見渡せば、そこにあったのはアルフヘイムでは決して育たない作物の山。”大麦”に二人は囲まれていた。

ガタゴトと揺れる感触に、トレスは一瞬間を置いて馬車の荷台に自分達は乗っているのだと悟る。


「”お母さん…これ、もしかして誘拐?”」


キョトンと目を見開いた母は、一瞬間を置き不敵にニヤニヤと笑い始める。


「”そうよ。女傑フローラ・ミリスレギナによる、第3王子トレス君の誘拐事件です”」


したり顔で笑う母にトレスは一瞬目を泳がせ、頭が真っ白になる。

だが、それは恐れによるものでは無い。


「”嫌だったら叫びな?そうすりゃ、またあの樹海に帰れるよ?”」


母は困惑の表情を浮かべる息子を察し、確認の問いを持ちかける。あくまで、決定権は自分に有るのだと。





世界は広いのよ?貴方の知らないモノだらけ

勿論わたしも含めてね


海に浮かぶ海上都市

天に座す崩れかけの天空都市

地下に消えたもう一つのエルフの都

燃え盛る火山にある巨人の墓場

遥か深きにある死者の都


いつか一緒に観に行きましょ?





「─たい」


「ん?」


「僕、外の世界に出たい」


歴史の闇に葬られた

エルフ王家第3王子誘拐事件


こうして、かの世界最悪の征服者

神をも超えし万物の王

皇帝ミリスレギナの物語は幕を開けたのだった。

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