第七話 転生陰陽師は現代を知る
どうやら今世の日の本は日本と言うらしく、東国よりも北……蝦夷達が最後に暮らす蝦夷(北海道)から熊襲(九州南)より更に寅方位、御城(沖縄)という地域を領有した大帝国となっている。
そして現在の宮所は東京にある。
あのド田舎のド辺境に遷都され都があるとか、すごいやばい。
多分友達に言っても信じてもらえない。
まあそれよりも、武士に政の実権を握られ、八百年近くも貴族が政を行えなかったというのが一番大きい。
今や着物は祭りや縁日でしか着ず、洋服という舶来品……唐よりも西にある異国の服を好んで着ている様であった。
これはほぼ世界中の国々が同じであるようで、確かに動きやすいものの、どうやって繕ったり直したりするのだろう?
一番驚いたのは科学という技術だ。馬のない車が走り、雷を使った道具の数々、そして――鉄の車や鉄の蛇が地を駆け、鉄の鳥が空を飛ぶなんて、都の貴族に話をしても到底信じてもらえないだろう。
まぁ優れた陰陽術の使い手であればできた事ではあるが……
それが術者でもない人間でも出来るとなれば、われわれ陰陽師はもう必要のない世なのかもしれない。
そして大地は平面ではなく球体なのだという。
それも俺が生きた時代よりも遥か昔の思想家が算術を用いて導いたのだとか……
本当に感心する。
世が世なら秘中の秘となる技術や知識が一定の条件のもとに公開され、共有され、さらなる発展の一助になっているなんて……一門一族主義の強い陰陽師に全く同じことができるとは思わないが、冥府の王の予言を考えれば戦力は多い方が良い。
三歳になった。
一歳の頃に初めて知ったのだがこの時代では、産まれた時を0歳と数えるそうだ。
千余年も時間がたてば言葉も文化もまるで違うと改めて認識させられた。
年を重ねるごとに精気の量とそれから生成される呪力は増えている。
しかしその上昇率はだんだんと緩やかになっており、恐らく七歳頃までにはほぼ完全に停止すると思われる。
ドラマの情報から今の時代は、妻の実家で子供を養育する妻の婚は行わないようなので、父もいるはずなのだが……父は忙しいようであまり家で見ることはない。
テレビ局の一つの公共放送では、教育番組と呼ばれる子供向けの番組が日がな一日放送されている。
その中でも呪力が扱える子供向けの番組なんてものも放映されており……
「『魔術のおにーさんと』『呪符のおねーさん』ま・じゅ・つ・しになれるかな?」
呪符の神の使いである八咫烏と呪符をモチーフにしたと思われるキグルミと一緒に番組は進行していく……
絵物語や琵琶法師の歌で教訓を伝えるように、現代ではこうやって子供に教育していくのだろう。
時間が遅くなるにつれて少し年齢が上がった子供向けの番組なども流れてきたので見た。
要約すると現代では、霊力や呪力、法力、神通力と呼ばれていた力を他国に習って『魔力』と呼び、そして陰陽師や呪禁師、道士などに変わる呼び方として、魔力に適合した者という意味で『適合者』や『魔術師』と呼ぶようだ。
千年にも及ぶ長い期間と幾度も起きた戦によって、術者の血は民草に流出した結果、今では市井から強力な適合者が生まれることも珍しくないのだとか……そのため、危険度の低い魔術の基礎をこうやって教えているようだ。
理にかなっている。個人的には政……特に詔を周知させるのには便利そうだと感じた。
………
……
…
今日は『七五三』と呼ばれる儀式のため、初めて家の外に出ることになった。
外に出て俺が産まれた時のように百鬼夜行が起こらないのか? と言われれば、基本的に起こることはない。
適合者の子供が腹から産まれる時に漏れる母子の莫大な精気に釣られているからだ。
だから基本的には問題ない。
しかし、適合者の子供はある程度精気をコントロールできなければ禍津日の類を引き寄せることになる。
しかしよほど強い魔力を持ったとしても、 人間の生活圏であれば安全だと聞いている。
だから普通の子供は外出をさせているし、出産も病院で行う。当家では子供の外出には基本的に適合者の護衛が付く。禍津日に対抗手段を持たない子供は格好の餌食だからだ。
何度か外界を肉眼で見てみようと思い外出できないかといろいろ挑戦してみたのだが、両親を含めた親族は思いのほか過保護で俺の試みはことごとく失敗に終わってきた。
結果として屋敷の庭までが俺の世界だった。
「今日はお台場に行くわよ」
「お台場? どこに何しにいくんだっけ?」
「七五三と、今日は年に一度ある総会へ向かうんだ」
「そうかい?」
「禍津日を倒す適合者の一族が集まってお話しする日なんだ」
跡取りとなる子弟のお披露目をする集まりということだろうか? 恐らく下級貴族でも魔力量が大きければ、中級貴族以上の家に入る機会を与えようという意味があるのだろう。
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