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第二十二話 転生陰陽師は家伝の剣術を習う

「戦闘術に移るぞ!」


 父の目は期待に満ちていた。


「武家である以上、剣術、格闘術、弓術を修めなければ一人前ではない。それと馬を買ってあるから乗るように……」


 果たして自動車やバイクがあるこの時代に馬に乗る必要があるのだろうか? まあ乗れと言われれば乗るが……それよりも武芸を修めるのは心が重い。

 前世で剣を習った時、俺はこう言われた。「凡人と……」詩と同じで苦手分野で、鬼と戦った時も護身用で持っていただけだ。


 唯一自信があるのは弓術だけだ。

 狩りをするにしても、禍津日マガツヒを祓うにしても、弓術は便利だった。


禍津日(マガツヒ)を祓うために武器を使うことはよくある。古墳時代中期の480年頃には茨城県の辺りで、『東国七流』と呼ばれる総合武術が生まれたとされている。代表的なのは「鹿島の太刀」を改変した「神妙剣」だ。」


 俺の時代では既に剣術としか言っていなかった気がする。


「現代にも続く鹿島神傳直心影流かじましんでんじきしんかげりゅうは、武甕槌(タケミカズチ)建御名方(タケミナカタ)の両軍神が用いた柔術『霊気之法』と剣術『祓太刀ハラエノタチ』が元になったと言われている。」


昔に聞いたような気がするが……イマイチ覚えていない。宮中で仲が良かった友人や武士と一緒に稽古しただけだし……


「そして1100年の平安時代末期には、『京八流』と呼ばれる現代剣術の祖とされる流派が生まれ、現代の剣術につながっている。剣術の中には神やてんぐから授かったというものが多く、今日の武家や公家系の一部が武器を用いて禍津日(マガツヒ)を祓うのは、武器の性能や殺傷性の他にこういう理由がある。」


つまり現代の剣術は神仏から授かった兵法を人間用に変化させたものに、魔術を組み合わせているようだ。


「吉田家は魔術と剣術を合わせた祓魔降(ふつまこう)兵法を伝えている。」


魔を祓い魔を降す兵法……つまり戦闘術と理念と言ったところか……


祓魔降(ふつまこう)剣術は北辰一刀流でいう『五行之構え』を採用しており、決まり手、つまり型を68手に纏めることで短期間で強くなれる。幼少期から鍛えれば凡人でもつわものになれる。弱者の剣だ」


「弱者の剣……」


「魔術が得意でない者に選択肢を与え、生存率を上げた。それが剣だ。」


「……」 







「まずはチャンバラでもしてみよう。」 


 何かを教える時には楽しさを教えることが大切だと、祓魔降(ふつまこう)兵法では説いている。

 なので俺はその基本に従ってチャンバラを提案したのだが……


「俺の実力が分らないので手合わせをしようということ?」


 ウチの息子は違った。

 自分の力量を測るためだと考えたようだ。

 

「いや、純粋に剣術の楽しさを理解して欲しいからだ。」


「じゃあやろう!」


 息子は大きな声で返事を返した。


「寸止めするつもりだが当たってしまうことはあるから気を付けるんだぞ?」


「はーい」


「じゃあやろう!」


 息子は大きな声で返事を返した。


「寸止めするつもりだが、当たってしまうことはあるから気を付けるんだぞ?」


「はーい」


 当たることがあるかもしれない。とはいったものの、当てるつもりは毛頭ない。

 せいぜい頭か体にポンと一撃入れる程度だ。

 

 直毘人に持たせたのは、短剣道用の竹刀で剣道の二刀流で使うものと最大値が同じ62センチメートル。

 対する俺が使うのは剣道用の112センチの竹刀で、およそ倍。

 さらに腕と身長分リーチが伸びるのだから簡単に捌くだけで済む。


ハズだった……


 俺はその瞬間のことを思い出す。

 

 互いに竹刀を構え、直毘人が打ち込むために踏み込んだ瞬間、《《竹刀が伸びたように感じた》》。

 神器や魔具と呼ばれる魔術が込められた道具や魔術であれば、そういった変化をもたらすことは可能だ。

 しかし、今日魔術の基礎を覚えた天才の我が子であっても、属性変化を加えた魔術を使えるとは思えない。


であるのならば竹刀が伸びたように感じたのは技術や体捌きに由来するものだ。

 その時気が付いた。


(片手打ちか!)


 通常、日本の剣術は両手で柄を持ち操作する『諸手打ち』が基本となる。

 しかし『小太刀』や『古流剣術の一部』は異なり、片手で剣を持ち操作する『片手打ち』を使う場面がある。


 つまり、竹刀や真剣では刃部が伸びるのは半分程度だが、小太刀や小竹刀では二倍~三倍程度に刃部が伸びる。

 大人同士の場合、構えだけで通常の竹刀との間合いの差はほぼ完全になくなる。


 そして、構えたとき直毘人は半身に構えダンと力強く踏み込んだかと思えば、既に死角に入っていた。

 まるでステルス戦闘機のようだった。

 子供だから背が小さく、上段に構えた竹刀を振り下ろすまでに胴に一撃食らういそうになって、つい足で払ってしまった。


ゴツン。


 顔面から床板に倒れた。

 頭を抱え痛がっている。

 そして呪符がヒラリと舞い、床に落ちた。


「ごめん、大丈夫か?」


 俺はすぐさま駆け寄ると、治癒符を使い直毘人の痛みを取り除いた。


 気を抜いていたのはもちろんだが、教えたばかりの『充纏術(じゅうてんじゅつ)』を使ってくるとは予想外だった。

 この子は魔術の才だけではなく、剣術の才能もある。

 もしかしたら早熟なだけで伸び悩むタイプかもしれない。

 だったら人の倍修行すればいい。センスだけは天性のものだ。


 そして祓魔降(ふつまこう)流は剣術であると同時に兵の運用方法を教える総合軍事術。

 つまり弱者による弱者のための弱者の剣。

 どう転んでも直毘人、おまえは強くなれる。


もしかして……呪符を使おうとしたのか? まさかな……


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