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第十八話 転生陰陽師は式で圧倒する

 

 俺を除く三人は既に知り合いのようで、先ほどの緊張感は?

って感じでお人形遊びを始めていた。


 確か遠縁とはいえ親戚だもんね。

 

 しかし、しばらくすると飽きた様子で人形を放り投げる。

おいおい飽きるの早すぎだろ、いって7~3歳だもんな。

仕方ないっちゃ仕方ないか。



「飽きちゃった」


「鬼ごっこしたい」


「ダメだよ。部屋の中だと危ないし」


「大丈夫だよ。ぬいぐるみに呪符を入れると……ほら、動くようになったよ」


なるほど! 式による鬼ごっこか!


そう言えば車の中で式神の練習をした時も、ぬいぐるみで練習したことを思い出した。


「みんなぬいぐるみは持っているでしょ?」


「「うん」」


 どうやら三人とも自分のぬいぐるみを持っているようだ。

 ミナトちゃんが持っているのはクマのぬいぐるみ、瀬織セオリちゃんは狐、伊吹イブキちゃんはよくわからない鳥、そして俺はペンギンだ。


 魔力や霊力と言ったエネルギーは物質に込めることで簡単に安定し、式には大きく三つの種類が存在する。



 1つ、この世にいる鬼神・神霊を使役する『使役式』


 2つ、異界より鬼神や神霊を喚び出し使役する『召喚式』


 3つ、紙や形代に、自分や誰かの魔力を籠める『思業式しぎょうしき・人造式』


 今回の式は3で、最も汎用的ながら奥深い術と言われている。


「魔力は込めた?」


「大丈夫」


「できた!」


 と三人とも難なく出来るようだ。


血統の成せる技と言ったところだろうか? 

いやいや才能だけで片付けるのは努力を踏みにじる行為だ。


「じゃあ、わたしが鬼をやるね」


 最年長の(ミナト)ちゃんが自ら鬼役を買って出る。

クマの人形は二足歩行で走り出した。

狐は四足で駆け出し、よくわからない鳥は飛び、俺のペンギンはえっちらおっちら走り出した。

 完全な式神術ではないようで、魔力の糸で四肢を操っている。


有線のかいらい、無線の式神と言う感じだろうか? 技術として残っているのだから何かしらの有用性があるんだろうけど……


「待てー」


 そんなことを考えながら、クマの猛攻を避ける。

 なかなかの速度だ。

 あれだけ速度と細かい命令を出してガス欠にならないのは、先ほど見せてもらった魔力量で納得できる。


 鬼に自ら名乗り上げたのは、自分の腕に自信があったからだろう。


 恐らく式神鬼ごっこ自体は、適合者アデプタの子供の間ではメジャーな遊びで、魔力操作ぎじゅつ魔力量たいりょくを向上させるのにちょうどいいのだ。


 でも、同年代では恐らく圧倒的な実力を持つ彼女に並ぶ存在は、ここにいる四人ぐらいだろう。

 それはあまりよくない。

 挫折の経験は早いうちに経験した上で乗り越えた方が、自己肯定感が養われる。


 幼少期にスクールカースト上位のやつが比較的成功しやすいのは、自己肯定感……成功体験が養われているからだ。

 勉強でもスポーツでも成功体験は他の分野にも役立つ。年上に負けても仕方がないと言い訳が立つけれど……圧倒的な魔力量を持つとはいえ、俺に負ければミナトちゃんは俺のことをライバル視するようになる。


 ということで、間一髪の回避を続けることにした。


「もう! なんでつかまらないのよ!」


 胸で床を滑り加速し避ける。

 移動速度順で言えば、セオリ・ペンギン《俺》、ミナトイブキとなるものの、イブキは飛べるためあまり不利になっていない。


「こっちきた」


(ミナト)ちゃんがおこったぁぁああああ」


胸で床を滑り加速し避ける。

 移動速度順で言えば、セオリ・ペンギン《俺》、ミナトイブキとなるものの、イブキは飛べるためあまり不利になっていない。


「こっち来た」


ミナトちゃんがおこったぁぁああああ」


 魔力さえ込めればイメージ次第で空だって飛べるのが式神だ。しかし実力のない3~5歳児にはそこまでの芸当は難しいようだ。


 ミナトが操るクマの縫いぐるみは速度を上げた。

 二足歩行から四足歩行に変化したクマの縫いぐるみは素早く、今までは距離を取れたカーブでも食らいついてくる。


 先にガス欠寸前になった二人はなけなしの魔力を込め、一人は空へ、一人は自慢の脚で駆け抜ける。

 どうやら俺は追い詰められたようだ。


「追い詰めたわよ」


 ドヤ顔でそう言った彼女には申し訳ないが、俺には奥の手がある。

 ペンギンの縫いぐるみは空を飛んだ。


「うそ」


イメージ力と圧倒的魔力量によって実現する。

 飛行ならぬ空中水泳はペンギンの移動速度を、先ほどまでとは別次元のものへと昇華させる。


「ずるい」


 (ミナト)ちゃんはじだんだを踏んだ。

 少し危ない所だった。

 ぬいぐるみが飛べると信じることができなければ追いつかれていた。

 現作のこともあるし、もっと訓練をつまねば……


 俺と(ミナト)ちゃんとの接戦(に見える)鬼ごっこは、周囲の大人も子供も関わらず視線を奪っていた。


 あんぐりと口を開けている。


「すごい……直毘人くん……」


 人形の操作を忘れ、俺の術に見とれているようだ。

 その声は周囲の人間の声を代弁しているかのようだった。

 才気溢れる五歳児にとっての初めての挫折は強烈なようで……


「次はわたしがいちばんなんだから!」


 と涙交じりに宣言する。

 皆のお姉ちゃんとしての意地が、癇癪を起こさせなかったのだろう。

 着飾った洋服のしゅうで涙を拭う。

 真っ赤に腫れた目元のままこう宣言した。


「負けないんだから、早く次やるわよ」


「「うん」」


 少女たちは返事を返すと人形を操り始める。

 子ども特有の自己中心的な心ではなく、周りまできちんと見えており、おまけに配慮までできる(ミナト)ちゃんのせいさに恐れおののいた。

 転生者として経験をもとにしたニセモノとは違って、生来の人気者なんだと理解した。


 二度目の人生だからうまくやれる。


 それは攻略本を片手にゲームを遊ぶようなものなのだ。


知っているからできる(・・・・・・・・・・)


 つまり、応用性のない人間でしかない。


 全く羨ましい限りである。

 人間性や性格は変えられない。

 行動の基準を変えることで疑似的にそれらを変えることはできても、それは外側だけ仮面を外してしまった中身は醜いままだ。


集中力の問題か、魔力操作ぎじゅつ魔力量たいりょくの問題だろうか? 俺以外の少女たちは代わる代わる鬼が交代していく。


 やはり俺は異物なのだ。

 少女たちは切磋琢磨せっさたくまし互いを高め合う。

 しかし、俺は中身は大人、魔力だって冥府の王の力でかさましされただけ……例えるならおからやパン粉でかさましされたハンバーグと言ったところだろう。


前世なんてなければ俺も彼女たちと対等に遊べただろうに……


「直毘人くんも遊ぼう? でも空を飛ぶのはなしだよ」


 俺の心を知ってか知らでか、そんな言葉を掛けてくれる。


「あれはズルいもん」


「ペンギンの動き、リアルだねー」


 彼女たちはそう言って俺の手を引いてくれる。

 それはまるで私たちの一員なのよ、と言ってもらえたみたいだ。

 今世で生を受けて三年と少し……初めて自分を受け入れられた気がした。


「でしょー、もう飛ばないよ」


 この子たちとなら婚約してもいいかな? 上から目線かもしれないけれど、そう思えた。

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