第十四話 転生陰陽師は三大宗家の実力を見る
次の儀式のため、エレベーターで屋上を目指し移動する。
「今年は陰陽三大宗家の土御門、倉橋、そして問題の勘解由小路と幸徳井家、あと賀茂家も今年なのよね……」
三大宗家と言う割に五家あるんだが……三大稲荷問題と似たようなものなのだろうか?
「年も近いから婚約者候補ではあるんだけど……陰陽道系は私たち武家系を野蛮だと言っているのが問題ね……」
「それに賀茂家以外は全員女の子だと言う。やはり適合者として長く戦力になるのは男だ。弟妹を作るか側室を迎えるか、むこを取って家をつなぐことが重要だろう。言い方は悪いが愚かで能力のない息子に継がせるよりは、優秀なむこを迎え孫を教育する方が都合がいい。」
「確かにそうですね……ウチは男の子に恵まれて良かったです……相伝の御家流術を残すことができます。」
俺を挟んで大人の会話をするのはやめて欲しい。
貴族と適合者は《跡継ぎに男子を望む》。平安時代の常識と変わっていなくて安心した。
家父長制の長子相続方式と言った日本伝統の気風を色濃く残しているのだろう。
伝統的に陰陽術は陰陽五行説で術を発動させるため、男女で得意不得意がある程度出る。
そのため、性別と名前で方向性を定めるというのはままあることだ。
前世では妻子がいなかった俺が帝、他の貴族のように複数の妻を持つというのも悪くない。
平和な世界……とまでは言えないかもしれないが、前世でできなかったことをできるチャンスがあるというだけでもありがたい。
屋上は魔力総量を計るコーナーだ。
ホテルの屋上……コンクリート打ちっ放しで、ダクトの管やエアコンの室外機程度しか置かれているはずのないこの場所には、似つかわしくないものがそこにあった。
神社で秘祭を受けた時の護摩壇によく似たものだ。
『清らかな水』や『聖なる炎』、『完全な物質(黄金や水銀)』と言った陰陽それぞれを象徴する物質を媒介に魔力量を推し測ることが可能だとされてきた。
これはどの宗教由来の術か? あるいは宗派、一門によって答えが分かれると言われている。
例えば『特殊な樹木を用いる』流派や黄金や辰砂の変化を見たり、血や頭髪を用いるものもあると聞く。また上記の水や火の変化によって判断する宗派もある。
火、水、黄金、水銀(辰砂)は古今東西を問わず神聖で霊的な象徴なのだ。
「ここでは魔力総量の測定を行います。まずは先ほど気を込めた短刀で一房の髪を切ってください。古今東西、髪には魔力が籠るとされています。髪に残った残留魔力量から総量を逆算するという仕組みです」
係のお兄さんが説明を終えると、ちょうど数組の家族が到着した。
「間に合ったみたいだな。今年は炎か……」
「そうですなぁ。去年の京都は門でしたか?」
「間に合った。確かその前は血でしたな」
と俺たちの他に三つの家がそろった。
「土御門さま、倉橋さま、並びに勘解由小路さまも吉田さまと同じ回でよろしいでしょうか?」
誰ともなく「問題ない」と答えた。
皆、洋服を着ており、父に比べると細身である。
しかしその身に宿した魔力量は多い。
そしてその娘たちも比較的魔力量は多い。
千年の時を経てもこれだけ力を保てるというのは、並大抵のことではない。
「では……一番年上の勘解由小路様からお願いします」
「湊」
「はい」
女の子が返事をすると、短刀で一房の黒髪を斬ると護摩壇に髪を投げ入れた。
陽光を浴びてパラパラと潮風に流されながら護摩壇に髪が到達し、火が燃え移る。パチパチと閃光花火のように炎が弾け、花が咲いた。
刹那。ボウッ! と轟音を立てて炎が猛り燃え上がり、まるで木が生えたと錯覚するような高さまで火の手が上がる。
魔力でできた炎でも元が火のためか熱量は変わらない。
確かな熱さを感じるものの、大人の術に比べればマッチの火程度だ。
「第三位階……C級相当の魔力量だ。二年前よりも増えたな、湊!」
「うん。パパ、みなとすごい?」
「凄いわ、湊!」
勘解由小路親子は抱き合って喜んでいる。
猛る炎の高さや熱量で判断しているようで、魔力量はある程度成長することは千年たっても忘れられてはいないようだ。
「さすがは二大宗家賀茂家の血族……祖先である安倍晴明の師匠筋であり、われらと同じ血が入っていると言うのも納得ですね」
「最近取り込んだもともと関係のあった賀茂県主の血のおかげかもしれんが……祖神は八咫烏と同一視された『賀茂建角身命』だ。そしてもともとの賀茂朝臣家の祖神は一言主と大物主……すなわち国津神である大国主だ。格は当家より高い」
と倉橋家、土御門も納得しているようだ。
しかし父はあまり納得がいっていないようだ。
「C級はプロと同等ということだ。経験を積んで昇る立場に生まれながら到達しているとは……血の歴史とは惨いものだ」
「続いて倉橋家息女、瀬織前へ」
「はい!」
元気のよい返事が屋上に響いた。




