No.1「景色は見えず」
真っ白。本当に真っ白だ。キャンバスとはここまで白いものだったのか、と心底驚かされる。自分にとっての宝物も、使い道のないがらくたも、買った覚えのない骨とう品だってこの部屋にはあるというのに、何もこのキャンパスに繋がらない。ひとまず筆を取ろうにも、筆は筆立てに張り付いて離れる気配もない。寝ても覚めても部屋中見回しても、線の一つもそのキャンパスに描かれる事は無かった。
だから僕は、キャンパスを描いた。何かを描きたいのに、何も描けない。何も思いつかない。じゃあ、キャンパスから描けばいい。そしてそのキャンパスを眺める僕を描こう。
世界の始まりなんて、そんなもんだ。最初から壮大な世界なんて創られない。僕が僕である事を認めてから、全ては始まっていく。