第45社 持つべきものはやはり友である
翌朝。6時に目が覚めた私は寝ぼけた頭で、身支度を終える。薫はまだ床に敷いた布団の中で爆睡しているので、起こさないように自分の部屋から出た。
久々に神社へ帰って来たんだから、掃除でもやりますか。
草履に履き替えると、掃除用具が入れてあるところへ向かう。そこから箒を取り出して、境内を順番に掃除していく。
「やっぱり山の麓だから涼しいな~」
30分ほどで掃除を終わらせると、社務所の方へと向かった。社務所の扉を開けてみると、きちんと整理されているようで安心する。
「さて、在庫チェックとホームぺージのチェックもしないとな」
てか、エルに任せきりだったけど、あいつちゃんとやってたのかな。
私は順番に引き出しの中にあるお守りや御朱印用の半紙の在庫チェックを始める。
ここ最近、というかおばあちゃんが亡くなってからは書置きの御朱印に変えたんだよね。んー、まだ当分、余裕はありそうかな。てか、前に見たときとそんなに量減ってないな……。ここ1カ月はあんまり人来てないみたいだし。学園に入る前はそれなりに人来てたのに、何でだろ。
そう思いながら、在庫チェックを終わらせると、パソコンを開いてホームページを見ていく。
特に変わったところはなし。……ん? 受信ボックスになんか大量に着てるんだけど……。
私は30件の通知が来ている受信ボックスをクリックする。
「はぁ⁉ おいコラ! エル今すぐ出てこい!」
大声でエルを呼ぶと、社務所の中に光が現れ、そこからエルが出てきた。
「え、何? 朝っぱらからどしたの?」
「どうしたもこうしたもないわ! え、あんた何やってんの?」
パソコンの画面を勢いよく指差す。すると、そこには結婚式の依頼や儀式の依頼など、仕事に関する依頼を大量に蹴っている文面が載っていた。
「朝から騒がしいけど、何かあったん?」
「おはよう~。って、めちゃくちゃ怒ってるけどどうかした?」
「あ、みんな」
私の怒号を聞きつけてやってきたのか、薫や熾蓮、祈李や織部先生が社務所にやってきた。私は事情を説明する。すると、みんな声を揃えて、エルにこう言った。
「それはエルが悪い」
「ご、ごめんなさい……」
「……あのね、そういう依頼メールとか蹴ると神社の評判が悪くなんの。……あ、だから、ここ1カ月ぐらい参拝者もあんまり来なかったのか」
エルに向かってそう言うと、目を逸らしながら気まずそうに話してきた。
「あー、それに関しては多分、ここら一帯に人払いの結界を貼ってたからかな~。ほら、参拝者の対応とか面倒臭くて……」
「アホ」
「何やってんねん」
私と織部先生が即座にツッコミを入れる。
なんでこういうことするかな~。まぁ、まだ早めに気づけたから良いものを。
深いため息を吐くと、社務所内の時計に目を向ける。すると、時刻は7時を回っていた。
「げっ、もう行かなきゃじゃん!」
「あ、ホンマや」
「と、取り敢えず謝罪メールは後にして、先に出る準備しよ!」
私たちは急いで支度をすると、千鳥ヶ淵の方へと向かった。朝から細道を全力ダッシュすること10分。集合時刻ギリギリに到着した私たちは、小春を見つけると、手を振って来たことを知らせる。
「お待たせ」
『いえ、大丈夫ですよ』
「それで、秋葉今からどこに行くんや?」
「あー、呉服屋ですよ。ほら、十三参りの正装と言えば着物でしょう?」
「確かにそうやな」
「と、いうわけなんでついて来てください」
私を先頭に渡月橋の辺りまで戻り、橋を渡ってしばらく歩くと、『呉服屋“守咲”』と書かれた看板のお店に入る。すると、お店のカウンターの方で頬杖をつきながら眠たそうにしている女性を見つけた。私は他の商品に目もくれず、女性の方へと向かう。
「おはよ~。朝早くからごめんね結奈。って、なんで舞衣もいるの⁉」
「泊りだよ泊り。ほら、結奈の親が出張だから、集まって徹夜でゲームでもしようってなったわけ」
「あー、なるほどね」
良いな~。どうせなら私も混ぜてほしかったよ。てか、なんで祝日に実践があるんだろ。別に平日でも良くない?
内心で学園に対する文句を垂れていると、結奈がジト目で私の背後を見ていることに気づく。
「んで、そちらさんは?」
「あー、えっと……」
結奈が後ろにいる熾蓮たちを顎で指した。
えー、どう説明したら良いんだ……。流石に千光寺の和尚さんみたいに代報者の存在を知ってるわけでもないしな……。
私は先生の方をチラリと見る。すると、視線に気づいたのか、先生が私の代わりに喋り始めた。
「あー、学校の授業の一環でな。着物をレンタルしなあかんことになったんや。代金の方は学校の方から出すことになっとる」
「ふーん。なるほどな。それで、サイズは決まってるのか?」
「あー、そうだね……」
結奈から訊かれると、宙に浮いている小春の方に視線を向ける。
んー、痩せ型だからな。それに小春は祟魔だし、当然、結奈たちには見えてないわけで……。ってなったらこっちでやるしかないか。後はどんな柄にするかだけど……。
『小春。どういう生地が良い?』
『そうですね……。本来、私が着る予定だった着物は、撫子色だったらしいので、それに合うものでしたら』
『了解』
結奈にサイズと着物の柄を指定する。最後に着る人の髪色と髪の長さを聞かれたので、小春の方をチラ見しながら答えると、それを聞いた結奈は店の奥へと消えた。しばらく待っていると、1着の着物を持ってきた。
「こんなので良いか?」
「んー、そうだね……」
考えるふりをしつつ、小春に念話を送る。
『どうかな?』
『はい、それでお願いします』
「じゃあこれで。あ、着付けの方はこっちでやるから大丈夫だよ」
「そんじゃ、代金の方はよろしくな。先生」
「勿論や」
私たちは無事に小春の着物をレンタルし終えると、結奈と舞衣に別れを告げて呉服屋を出た。私と薫、小春は着付けのために一旦神社の方へ戻り、熾蓮と祈李、織部先生は小春を成仏するためのお墓を建てるために、千光寺の方へと向かうのだった。
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