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第33社 人の話はちゃんと聞いておこう

「えーっと、千光寺はこの道をまっすぐ行ったら良いんだよね?」

「うん。ある程度したら看板が見えてくると思うよ」

「オッケー。ありがと」


 これから行く千光寺は観光名所としても有名で、私たちの他にもちらほら観光客が歩いていた。千光寺は江戸時代の豪商、角倉了以(すみのくらりょうい)が、大堰川を開削する工事で亡くなった人々を弔うために創建された。また、『大悲閣』と呼ばれる観音堂からは、嵐峡(らんきょう)の絶景を楽しめると観光客に人気だったはずだ。調べたのがだいぶ前だから、合ってるかは分からないけど。


 しばらく道を進んでいくと、『千光寺はこちら』と書かれた看板が見えた。


「ここですね」

「うわぁ……これ結構段数あるんじゃない?」

「確か200段やったような気が……」

「マジか……」


 待って。流石にこれ登るの体力使わない? ここで体力使うのはもったいない気が……。いや、単に上りたくないだけなんだけどさ。せめて祓力を使わせてほしい。

 が、そんなことが許されるはずもなく自力で石段を登りきると、ちょうど千光寺の和尚さんがお堂の中から出てきた。このチャンスを逃すわけにはいかないと思い、すかさず声を掛けに行く。他の4人も少し遅れて私の後についてきた。


「あの、すいません」

「どうかなされましたかな?」

「えーっとですね……」

 

 声かけたは良いものの、何から話せばいいんだ……。大体、代報者なんて言っても知ってるわけないもんね。一応、一般人には秘匿されてるわけだし。

 

 言い淀んでいると、何かを察した和尚さんが「少し移動しましょうか」と、人気のないところまで案内してくれた。


「わざわざすいません……」

「いえ、何か込み入ったお話になるだろうと思いましたので。それで、代報者様がこんなところに何の用です?」

「……え?」


 なんで代報者のこと知ってるの⁉ 一般人は知らないはずじゃ……。


「……秋葉、さては授業聞いとらんかったな?」

「す、すいません」

「昔から、お寺関係の人たちと代報者は提携を取ってるんだよ。何かあったときに助けあえるようにね。ちなみに、僧侶も祟魔が視えるらしいよ。祓えはしないけどね」

「な、なるほど」


 薫からの補足説明を聞いて、納得する。お寺の人とも繋がってるんだ。凄いな代報者って。これからはちゃんと授業聞くようにしよ。

 

「そういうこっちゃ。てなわけで、ちょっと質問ええですか?」

「えぇ。勿論。私に答えられる範囲であれば何なりと」

 

 先生がそういうと、和尚さんは快く承諾してくれた。


「それではお聞きします。ここ最近、この近くにある千鳥ヶ淵で変わったこととかありませんでしたか?」

「ふむ。変わったことですか」


 そう投げかけると、和尚さんは少し間を空けてから話し始めた。

 

「……それでしたら、真夜中の千鳥ヶ淵がやけに騒がしいことでしょうか。あそこは昔から祟魔の溜まり場として私共の間では有名なんですが、ここ最近はやけにおぞましい気を感じます」

「なるほど。やっぱり何かがおるんやな」

「んー、真夜中ですか……。となると、夜まで待つしかないですね。祟魔は夜に動くことが多いと聞きますし」

「そうだね」


 私たちは和尚さんにお礼を言うと、お堂を出て、千光寺を後にした。再び来た道を戻っていると、隣を歩いていた薫が口を開いた。


「夜まで待つと言っても、何する?」

「そうだね……。情報の整理をしつつ観光とか?」

「いいですね」

「せやったら、案内したるで」


 先生に許可を取ってみたら承諾してくれたので、一旦渡月橋まで戻ることに。


 にしても、観光か……。ここら辺でおすすめと言ったら、やっぱり食べ歩きかな。みたらし団子とか抹茶系のスイーツとかいっぱいあるし。

 

「はい、てなわけで渡月橋まで戻って来た訳ですけど、何時まで観光にします?」

「そうやな。今が16時やし、18時でどうやろ?」

「2時間か。あんまり遠くまでは行かれへんけど、まぁええか」

「よし、それじゃあまずは渡月橋を渡りますか~」

「そうですね」


 そんなこんなで渡月橋を渡っていると、熾蓮が何かを思い出したように話し始める。

 

「そういえば、十三参りをした後、渡月橋を渡るまでは後ろを振り返ったらあかんって言い伝えあったな」

「あー、聞いたことありますよ。それ」

「確か、振り返ってしもたらせっかく神さんから授かった知恵がどっか行ってまうんよな」

 

 私も渡月橋を渡るまでは絶対振り返ったらだめって、おばあちゃんにも言われたな~。ま、ただの言い伝えだし、今どきの子はそんなこと知らずに振り返っちゃう子もいるだろうな。ほら、前を歩いてる子だって、振り返っちゃってるし。

 

 そう思いながら歩いていると、突如強風が私たちを襲った。橋には遮るものがないため、直に風を受けてしまい、私は目を細める。だがその瞬間、さっきまで前を歩いていた子の姿が見えなくなっていた。


「……え?」

「秋葉、どうかしたか?」


 隣を歩いていた先生が尋ねてくる。

 

「い、いや。さっきまで前歩いてた子が振り返った途端に消えて……」

「ただの見間違えじゃない? ほら、さっきの風で目瞑ってて、その間に先へ行っちゃったとか」

「そ、そうかな……」

 

 いや、きちんとこの目で見た……と思う。もしかしたら薫の言う通り、私の見間違えかもしれないけど。

 

「取り敢えず、はよ先に進もか」

「そうですね」

「了解や」

 

 心にわだかまりが残ったまま、みんなの後をついていくのだった。


 

 



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