第十五話
ビタネス来襲という一波乱が終わった後、入れ替わるように一人の騎士が訓練場に飛び込んできた。
「ソルト様! アシド殿が!」
「アシド!? 一体どうしたの!?」
必死の形相の騎士に、緊張が走る。もしかして、ビタネスが何かしたのだろうか!?
「貧血で倒れました!」
「そう、貧血で…貧血ぅ!?」
想像もしていなかった報告に、素っ頓狂な声がでてしまう。
「何が、どうなって、そうなったの?」
「ホウル団長との手合わせで暴れすぎて、傷口が開き血が不足してしまったのかバタッと…」
「…あの馬鹿」
アホすぎる理由に頭を抱えた。先ほどとの緊張感の差に頭痛がしてきそうだ。
「それでアシドは?」
「今、医務室でお休みになっていただいております」
「そう…よかった」
「ただ…」
騎士が、何やら口ごもっている。その落ち着かない様子の騎士に私は小首を傾げた。
「ただ? どうかしたの?」
「その…偶然、シエルさんが医務室にいて…」
「シエルちゃんが?」
彼女が何故、王宮に来ているのだろうか?
疑問が深まる私に騎士は続きを話す。
「ムラング様の弟子として、王宮の薬品を確認しに来ていたようです。それで、医務室にある薬をチェックしようとした時に、アシド殿たちが運ばれてきて…」
「たち? アシド以外にも怪我人が?」
「えっと、その…」
「十中八九、ホウル団長でしょうね」
言葉を濁らせている騎士の代わりに、ラートが怪我人候補の名を口にする。それは大正解だったようで、騎士は千切れんばかりに首を縦に振った。そして、救いを求める視線をこちらに向けてくる。
「つまり…怪我を悪化させたアシドと原因であるホウル団長に怒っているシエルちゃんを、私に止めてほしいのね…」
「はい! お願いします!」
ビシッ! と背筋を伸ばす正直な騎士。手合わせとは名ばかりの本気の実践を行った大人たちに、重い息がこぼれてしまう。
「実は僕もそのことで、ここに来たんです」
ここにきてようやく、パルフェが訓練場に来た理由を語りだした。
パルフェ曰く、別件が予想より早く終わったので少しでも自分も訓練に参加しようと、私たちの元へ向かっている途中、王宮の気位の高そうな男にシエルが絡まれている場面に遭遇したらしい。
『やあ、シエル。君が王宮にいるなんて珍しいね』
『パルフェ…!』
シエルの表情を見て、穏やかな状況ではないとパルフェは察し、幼馴染の厄介ごとを取り払おうと迷うことなく彼女に声をかけた。助かったと顔を綻ばせるシエルに、男は当然の如く声を荒げたそうだ。
『この娘…! パルフェ様を呼び捨てになど…!』
『あぁ、気にしないで下さい。シエルは幼少期からの友人です』
『しかし、それでは王族としての威厳が―』
『王族であっても、僕は呪い子。威厳なんてありませんよ…そうでしょ?』
冗談めかしにそう言い放つパルフェに、男の顔が青ざめていく。
『兄上に賛同していた者たちのことは、よく覚えているんです。僕、記憶力がいいので』
感情の読めない深紅の瞳で弧を描き、追撃してくる第二王子。男から短い悲鳴が上がる。
魔物襲撃事件から、パルフェは自分の容姿に対する嫌味や嫌がらせ行為に反撃するようになったと聞いた。といっても、そこは王族。怒りや不満をそのまま突き返すような低俗な真似はしない。笑顔で穏やかに丁重に嫌味を送り返すといった、品のある方法だ。腹黒王子へと変貌したパルフェに、今まで陰口を言っていたものは怯えているらしい。
男はその一人だったようで、パルフェの笑顔を見るなり脱兎のごとく逃げていったそうだ。
男を追い払った後、シエルが再び厄介な輩にちょっかいを出されないように、パルフェは彼女を医務室まで送ることにした。
パルフェ達が医務室に到着し、シエルが薬の在庫を調べ始めようとしたのとほぼ同時に、顔色が悪いアシドと細かい傷を負ったホウルが運ばれてきたようで…そうなった原因の報告を受けた瞬間、シエルがニコリと微笑んだ。そこに幼馴染の静かな怒りを感じ取ったパルフェは自分一人では処理しきれないと瞬時に察したそうだ。その時に、浮かんだのが私の顔だったらしく…
適当な理由をつけて医務室を脱出したパルフェは、応援要請も兼ねてここに来たらしい。
「あのシエルを止められるのは、ソルトさんしかいません…」
「幼馴染のパルフェ様なら、シエルちゃんを止められるのでは?」
苦笑を浮かべながら、パルフェは首を横に振った。
「シエルに笑顔で迫られると、なんというか…断ってはいけないと、本能が訴えかけてくるんです」
それは攻略対象の性なのか、それとも彼女の笑顔の圧に負けているからなのか…どっちにしても、パルフェがシエルに勝つことは難しそうだ。
騎士もパルフェと同意見なのか、縋るような目でこちらを見ている。
「はぁ…分かりました。アシドの様子も気になるし、医務室に行きましょう」
「ありがとうございます!」
盛大な感謝と共に腰を直角近い角度まで曲げる騎士。
どんだけシエルが怖いの!? あんなに可憐なのに…
「というわけで、私は医務室に行きますが…お二人はどうしますか?」
途中からほぼ空気と化していた二人、ケイクとラートに声をかける。
「僕たちも行きます。ホウル団長のお怪我も気になりますし」
ラートの発言に賛同するように、ケイクもコクコクと大きく頷く。
本日の訓練は、剣の大きさチェックと数回の素振りという…なんとも、薄っぺらい内容で終わった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
医務室で私たちを待っていたのは、なんというか…予想通りの光景だった。
「私、言いましたよね? 完治していないので、無理だけは禁物だって」
「別に無理をしていたわけでは…」
「そうそう! 手合わせに熱中になってしまって、つい」
「へぇ~…つい、で王宮の医務室に担ぎ込まれる大人がいるなんて…しかも、二人も」
大の大人の男二人が十歳の少女の前で正座をさせられているという、異様な光景。これが漫画やアニメであれば笑いどころなのかもしれない。だが、それが現実でしかも目の前で繰り広げられているとあれば、話は別だ。
般若面が笑顔になったら、あんな感じなのかな…
微笑みながら怒りの炎を背負っているシエルを見て、呑気にそう思った。
「シエルちゃん、そのへんにしてあげて」
「ソルト様? どうして、医務室に?」
私の声でシエルの炎が瞬時に鎮火された。いつものシエルに戻ったことに、安堵の息が背後のパルフェからこぼれている。それはホウルたちも同じようで、彼らの体から緊張が抜け落ちていくのが分かった。
「パルフェ様が呼びに来てくれたの。アシドが迷惑をかけて、ごめんね」
「ソルト様が謝ることはありません! 大人のくせに、師匠の言いつけを守れないアシドさんが悪いのです!」
「うっ…」
シエルの師匠―ムラングのことを出されてしまっては、アシドは何も言えない。大人しく少女の説教を受け入れているアシドを、どこか面白そうに見ているホウルにケイクが諫める。
「父上も同罪ですよ」
「ケイク!? なんで、お前まで医務室に…というか、俺は何も言われてないぞ!」
「ムラング様のお言葉を父上も聞いていたのでしょ? それなのに、アシド殿を手合わせに誘っていたではありませんか」
「それは、まぁ、そうなんだが…」
ごにょごにょと言葉を濁すホウルの前で、ケイクは眉を寄せながら腕を組み仁王立ちになる。
「どっちが大人か分かりませんね」
誰とは明確に言わないラートのツッコミに、私は心の中で大きく頷いた。
「まぁまぁ。二人とも、お説教はそこまでにして…シエル、傷の治癒をお願いできるかな?」
仲裁に入ったのは意外にもパルフェだ。私の謝罪のおかげなのか、シエルの怒りの炎が小さくなったので飛び火がないとパルフェは悟ったらしい。
第二王子からの申し出に、ケイクは軽く頭を下げると身を引いた。シエルも幼馴染の言葉で、ハッと何かを思い出したようだ。
「そうだった! 師匠に教えてもらった詠唱魔法を試そうと思っていたんです!」
「シエルちゃん、もう詠唱魔法が使えるの!?」
「はい! あれから、師匠に付きっきりで教えてもらいました」
力強く頷くシエルは頼もしさしかなかった。アシドの年齢でも扱えるのが逸材だというのに…ヒロインの潜在能力と彼女の努力を惜しまない姿勢が合わさると、凄まじい結果が必然とついてくる。
「でも実践は今日が初めてなので…正直、ドキドキしています」
「え!? それって、大丈夫なのか…?」
「大丈夫です! 使用許可は師匠から出ていますし、失敗しても頑丈なお二人なら耐えられます!」
「耐えるって何にだ!?」
「大丈夫、の使い方が誤っているように思うのですが…」
「それではいきます!」
ごちゃごちゃと不安がる男たちを無視して、シエルは集中するように深呼吸をする。
胸元で指を重ね、祈りの姿勢をとるシエル。ふわりと、彼女の魔力が周囲を包み込んだ。
「神は嘆いた。我が子の痛みに涙し、天より我らに慈悲を与えようと―」
シエルの祈りに魔力が集まっていく。手が解かれると同時に、キラキラと光り輝く粒子が怪我人たちに降り注がれた。
「“癒しの雫”」
シエルがそう唱えると、粒子を纏った二人の体が淡い光に包まれた。傷口に染み込むように光が溶けていくと、目視できるほどの早さで傷が治っていく。とても柔らかく暖かなシエルの治癒魔法から、私は目が離せなかった。
二人の傷が完治すると、光は静かに散っていく。無事成功したのでシエルの表情から緊張が抜け落ちた。そして深く呼吸すると、改めて二人に向かって口を開く。
「傷は治しました。これで新たに血が流れることはありませんが、血液そのものを増やすことはできません。アシドさんが貧血状態であることに変わりはありません」
飾らない言葉で正直に状態を伝える。それがムラングの教えなのだろう。誠実で優しいムラングらしい指導。その偉大な師匠の教えをしっかり守るシエル。二人はいい師弟関係を築けているのだと嬉しくなる。
「血が戻るまでは、倦怠感や眩暈がおこるでしょう。なので! 今度こそ、絶対に安静にしていて下さい!!」
「承知しました」
「ホウル団長も、アシドさんを挑発しないで下さい。この人、すぐにカッとなる性格ですから」
「あぁ、分かってる」
「次、同じ事やったら…師匠からお二人に厳重注意していただきますからね」
二人の背中が、ピンッ! と伸びた。
騎士団の頂点の男と優秀な執事がここまで恐れる、元王宮魔法師のムラングという存在。あの朗らかなご隠居の実力は計り知れない、と本人不在でもしみじみと実感した。
「お二人の傷が治って何よりです。シエルの怒りも治まったようですし、問題解決ですね」
「そうですね。パルフェ様の一言がなかったら、ケイク君までお説教組になるところでした」
シエル達のお説教に待ったをかけてくれたパルフェには感謝しかない。私は頭を下げようとしたが、パルフェが爽やかな笑顔のままで放った言葉に動きが止まる。
「気にしないで下さい。これで二人には貸しが一つできたので」
ニコニコとするパルフェが魔王に見えた。平和主義の私の耳には何も聞こえなかったことにしよう。
私は特に反応を返すことなく魔王から離れ、天使の元へ足を進める。
「シエルちゃん、お疲れ様。またアシドを治療してくれて、ありがとう」
詠唱魔法を使用し、疲労しているであろう少女を労う。シエルは疲れを全く見せず微笑んでいるが、その表情はどこか浮かないものだった。
「どうかしたの? もしかして、疲れちゃった?」
「いえ、疲れはありません。ただ…」
「ただ?」
「…師匠の言う通り、私はまだまだ修行が必要だと実感しました」
ムラングと師弟関係を結んで間もないのだから、当然ではないかと首を傾げる。私の表情で疑問を汲み取ってくれたシエルは苦笑を浮かべながら、発言の意味を教えてくれる。
「先ほどの私の詠唱魔法は、本来の効果の半分以下しか発揮できていません…それが悔しくて」
頑張り屋な彼女らしい向上心に、思わず拍手したくなった。だが、ここでシエルに応援を送るのは駄目だ。自分に厳しい人には、周りが甘やかす必要がある。特に、シエルのように最終目標が高い子には飴と鞭のバランスを誤ってはいけない。
「それでも二人同時に治癒できるなんて、すごいことだよ! そうだよね? ラート君」
この場で魔法に関しての知識が一番長けているラートに意見を求める。
呆然としていたラートだったが、私の言葉で現実に意識が戻ったのだろう眼鏡のブリッジをあげながら頷く。
「え、えぇ。あなたくらいの歳で詠唱魔法を発動させられること自体が、珍しいです…失礼ですが、お師匠様の名前を伺っても?」
「シエルちゃんの師匠は神父のムラング様だよ」
「ムラング…もしかして、ムラング・ショード様ですか!?」
ガシッと私の肩を掴んで確認を取るラートの勢いに、私は首を縦に振るしかできない。ラートは私の肩から手を放すと、数歩後ろに後退った。
「あのムラング様が師匠だなんて…なんと羨ましい…!!」
拳を握り心からの叫びを零すラートを見て、ムラングはやっぱり有名なんだなぁ、と思った。
「あの、ソルト様…こちらの方々は?」
シエルが恐る恐る聞いてくる。攻略対象のことは知っているので、シエルが聞きたいのは名前ではなく、ラートたちがここにいる理由だろう。
私は一応彼らの名前と、医務室まで同行している経緯を簡単に説明した。もちろん、周りがシエルの怒りを恐れていたことは伏せて。
一通り紹介が終わったところで、ラートがシエルに向かって軽く頭を下げた。
「貴方のことは知っております。平民街の小さなお菓子屋の娘さんですよね?」
「はい。菓子屋の娘、シエル・パティエです。いつも御贔屓にしていただき、ありがとうございます」
ペコリ、とシエルは頭を下げた。さすがは常日頃から商売に関わっているシエル。お得意様への礼儀がしっかりしている。
「貴方のお店の菓子は絶品ですからね。これからも、通わせていただきます」
シエルが平民の娘だと分かっても、変わらず穏やかに接しているラート。多くの貴族たちに、彼の爪の垢を煎じて飲ませたいものだ。
「ところで、なぜ貴方がムラング様と…?」
「えーと、それは話せば長くなるような…」
「それを言うなら、僕もラートさんとケイクさんが、ソルトさんの親友になった経緯を知りたいです」
どこから話したものか…と悩んでいると、パルフェが会話に乱入してきた。というか、私の親友宣言なんてどうでもいいと思うけど…
「親友…?」
パルフェの言葉に、何故かシエルが食いついた。どういうこと? と小首を傾げるシエル。アシドも同じような顔をしていた。私は軽い気持ちで、二人の疑問にヘラッと笑いながら答える。
「色々あって、ある貴族の前で二人を親友宣言しちゃいまして」
「何があって、そういう状況になるのですか…」
予想に反して厳しい声音が返ってきたので、慌てて理由を話した。
「仕方ないじゃない! あのビタネスって人が、爵位ない人と貴族は友人になれないなんて言うんだもん! そんなのおかしいわ!」
「お二人から、ご許可は頂けているのですか?」
「友達になるのに、許可なんていらないでしょ」
「普通はそうですね。しかし、お嬢様は公爵令嬢なのですよ? 交友関係をむやみに晒しては、彼らの家が他の貴族から目を付けられます」
「そ、それは…」
呆れ返っているアシドに、言葉が詰まる。アシドの言う通り、公爵家であるドルチェット家と友好関係を結びたい貴族は多い。大人同士の友好にはどうしても利害が関わってくるが、子供にはそんなもの関係ない。爵位が低くとも、対価無しで上位貴族の後ろ盾が得られることだってある。
それが目的で、私と友情を育める機会を虎視眈々と狙っていた貴族にとって、突然現れ“親友”という座の椅子を搔っ攫っていったケイクとラートは不快な存在となってしまう。加えて、人物ではなく家名で一括りするというのが、貴族の厄介なところだ。
また自分の勢いだけの行動で、彼らの家にまで迷惑をかけてしまった。学ばない自分に対する情けなさと、二人に申し訳ない気持ちで顔が俯いてしまう。
「本人の許可も無くそのような発言をしては、相手の方にご迷惑です」
「僕は嬉しかったです! ソルトちゃんにそう言って頂けて!」
「ソルトちゃん…?」
ケイクの発言に、アシドはピクリと反応した。気になる部分をなぞるアシドに、ケイクがハッとしたように慌てて頭を下げた。
「も、申し訳―」
「その呼び方は、お嬢様に強要されたのですか?」
「え?」
「なんでよ!?」
本気なのか冗談なのか分からないアシドに、私は全力でツッコミを入れる。
「ケイク様ほどしっかりしているお人が、公爵令嬢をそのように呼ぶなど…考えにくいです」
「確かにそうだけど…でも、私は強要なんてしないわよ! 大体、呼び方を指定する目的って何?」
「…偽装親友を作り出すためかと」
「根本の友情から疑われているの!?」
「え…? 偽装親友だったの…?」
「違う違う! アシド、なんてこと言うの!」
アシドの恐ろしい推測を真に受けたケイクの眉が下がったため、私は執事に強い言葉を投げつけた。
確かに、公爵家の恩恵目的での友達になりましょう~的なお誘いが多くて、面倒だとは言ったけど…それを断るためにラートたちを利用するなんて、どこの悪役令嬢よ! あ、私はこのゲームでは悪役令嬢か…て、そうじゃなくて!
アシド発信の妙な誤解を解くために必死に脳を働かせるが、適した言葉というものは安々と浮かんでくれない。頭を抱え込んでいる私を哀れんでか、息子の悲しみを取り払うためか、ここでホウルの口が動いた。
「俺が言うのもなんだが…お嬢ちゃんは、そういう駆け引きみたいなのは苦手じゃねぇか?」
「そうですよね!」
ホウルの助け舟に全力で乗り込む。戦闘能力でアシドと並ぶくらいの手練れのホウルに私は期待の眼差しを送る。
「そんな器用に脳みそが動くタイプじゃ無いだろ」
「まぁ、確かに…そうですね」
「え? 私、めちゃくちゃ貶されてます…?」
「ん?」
「あ、なんでもないです」
ホウルも悪意無く悪意を放つタイプのようだ。さすがは親子。受けたことのあるダメージに、私はケイクの時のように大人しく身を引こうとした。けれどそれでは意味がないと思い、気持ちを奮い立たせアシドと改めて向き合う。
「とにかく! 私がお願いしたのは、訓練の時は爵位とか気にしないで普通にしてってことだけ! 変なことは言ってないし、してない!」
「…本当ですか?」
「そうよ!」
「ほぅ。それで親友が一気に二人も…お嬢様は社交性が高いのですね」
駄目だ。今までの行いのせいで、毛ほども信用が無い…
アシドの冷ややかな瞳は「どうせ、余計なことしたんだろ」と私を責めている。それを否定すべく出かかった言葉は、一つの叫びによって喉に押し戻された。
「ダメ!!」
突然の大声に、私はもちろんアシドやホウル達までも驚いている。大声の主であるシエルはこちらに近づくと、私の腕にギュウゥと華奢な腕を絡みつけてきた。
「ソルト様の親友とかそういうポジションは…全部、私のです! 誰にも渡しません!」
シエルは大きな瞳を吊り上げ、ケイクを見上げる。うー! と子犬が威嚇をするように喉を唸らせるシエル。必死に腕にしがみついてくるヒロインに、私のハートは射貫かれた。
「安心して、シエルちゃん」
「ソルト様…?」
「私とシエルちゃんは…大親友だから!!」
「! はい!」
むぎゅう、と思いっきりシエルに抱き着く。シエルは一瞬驚いたようだが、すぐに嬉しそうに笑顔を浮かべると腕に力を込め返してくれた。
普段からお菓子作りをしているシエルが纏う甘い香り。スイーツを思わせる香気に私の心が満たされていく。
心地いい香りに癒されていると、ベリッと無情にも私たちは引き剥がされてしまった。
「では、僕とソルトさんの関係は“運命の伴侶”ということでよろしいでしょうか?」
顔を覗き込みながらニッコリと笑顔を浮かべるパルフェの言葉に、私の目が瞬く。そして、私が声を発するより早く、シエルが華奢な体を私とパルフェの間に滑り込ませてきた。
「ちょっと、パルフェ! ソルト様と婚約を結べてないのに、勝手に失礼なこと言わないで!」
「シエルこそ、同性だからってソルトさんにベタベタするのは失礼だよ」
「私はいいの! なんて言ったって、ソルト様公認の大親友なんだもの」
「僕だって、もうすぐソルトさんとは婚約者同士になるんだ。しかも、国公認のね」
「王族の力を使うなんて反則よ!」
「シエルだって、お菓子を利用しているじゃないか」
幼馴染の同士の間で火花が散っている。しかも、パルフェは不吉なことまで言っている。
「これって…私が止めるべき?」
「お二人の問題ですので、お嬢様は口出し無用かと」
「それは首を突っ込むな、てこと?」
「……」
無言の肯定からの指示に、私は素直に従った。
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