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異世界恋愛 短編

わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?

作者: 長岡更紗
掲載日:2023/11/02

約2200字です。

「セリナ・アシャール。貴女との婚約を破棄する」


 リアム王子殿下がそうおっしゃった時、私は密かに良かったと息を吐いた。

 だってセリナお姉様には、他に想い人がいたから。

 しかも相手は我がアシャール侯爵家の庭師だった。


 リアム様はそれに気づいておられたんだ。

 だからお姉様のために自分から解放してあげた。リアム様はお姉様を、愛していたから。


 セリナお姉様はお父様の逆鱗に触れてアシャール家から除籍されると、その日のうちに庭師の彼と姿を消した。

 私に「ごめんね」という言葉を残して。


 お姉様がいなくなったことを告げた時、リアム様が「そうか」と微笑んだこと。私は一生忘れない。

 どれだけお姉様のことを愛してくれていたんだろう。

 口元は弧を描いていても、碧く悲しい瞳は隠しきれていなくて。

 リアム王子殿下の瞳にはお姉様しか映っていないことを、これほど嘆いた夜もなかった。




 あの日から三年。当時十五歳だった私は、十八歳になっている。


「わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?」


 目の前には二十三歳になられたリアム様。精悍さが増してますます魅力が上がっている。

 私がお姉様の代わりにと婚約したのは、二年も前のこと。

 アシャール家としては、もう失敗のできない状態だ。

 それとは関係なく、私はリアム様に愛されたいと思っていたのだけれど。


「……テレーズ」


 悲しい瞳で私を見るリアム様。


 お姉様と同じ髪型。

 お姉様が好んで着る空色のドレス。

 お姉様と同じ化粧の仕方。

 お姉様と同じ仕草。

 お姉様と同じ言葉遣い。


 顔立ちだって姉妹だから似ている。

 なのに、私はリアム様に愛されない。


 私とお姉様の、一体なにが違うんだろう。


 こんなにお姉様にそっくりになったはずなのに。

 それでもまだ、私はお姉様の代わりにはなれない。


「もうセリナの真似はするな。意味がない」


 リアム様が少し息を吐きながらおっしゃった。


 意味がない。


 ……わかってる。私がお姉様の代わりになろうなんて、おこがましいにもほどがあるって。

 いくら見かけをそっくりにしても、内面までは変われない。

 お姉様は優しくて社交的で、太陽みたいな人。

 華のあるお姉様と私とでは、どれだけ頑張っても雲泥の差があるってことは。


「……申し訳ありません……」

「謝らずともいい。既にセリナへの気持ちはもうない。それをテレーズにわかってほしい」


 リアム様の言葉に、私は返事ができなかった。

 お姉様への気持ちが、すでにない……?

 ということは……私は用済みということ……?


 結局私はお姉様の代わりになれなかった。

 もう私がリアム様のおそばにいる必要は、どこにもなくなってしまった。


「……わかりました。ではわたくしとの婚約は、白紙に戻されるということでよろしいでしょうか」


 溢れそうになる涙を我慢して、私はなんとか声を上げた。

 私の存在意義は、お姉様に似ているというだけだったから。

 リアム様に相応しい方は他にいる。私である必要はどこにもなくなってしまった。


「テレーズ……君は俺との結婚を望んでいないのか?」

「いいえ、まさか!」


 あり得ないことを言われて、私は急いで否定する。

 どうしてそんなことを聞くのかわからぬうちに、リアム様はなぜかそっと笑っていた。

 煌めくような碧い瞳を見るだけで、私の心臓は収縮と膨張を繰り返す。

 やっぱり……リアム様が好き。おそばにいられないなんてイヤ。


「では、俺とこのまま結婚してほしい」

「……え?」


 リアム様が目の前に来ると同時に、私は手を取られた。

 大きくて温かな手に包まれて、私は困惑する。


 どうして? 私はもう、用済みでは?


 リアム様の言葉が理解できず、私は目を瞬かせた。

 そんな私に、真っ直ぐに真剣な表情を向けてくれる。


「この三年間、私を支えてくれたのはテレーズだ。これからはもっと貴女のことが知りたい」

「それは、どういう……」

「テレーズの好きな色はなんだ。テレーズの好きな食べ物は。テレーズの本当にやりたいことは。君はいつも姉の真似ばかりで、俺はなにも知らない」

「……だって……お姉様の代わりにならなければ、愛してもらえないもの……」


 だからずっとお姉様そっくりになるように演じてきた。完璧には無理だったけど。

 身代わりでも愛してもらいたかったから。

 なのに私を知りたいって、どういうことなの?

 私が懐疑の目を向けると、リアム様は困ったように眉を下げた後、優しく笑った。


「俺はもう、君を愛しているよ。太陽のような明るさはなくとも、月のように美しく優しい光を放つテレーズのことを」


 リアム様はなにを言っているのか。

 そんなわけがない。リアム様は、お姉様の真似をする私しか知らないのだから。


「いいえ、お姉様とかけ離れている本当のわたくしを知っては、きっと幻滅するに違いありません」

「では見せてごらん。俺はきっと、ますます君を好きになる」


 心地のいいリアム様の言葉に、私の胸は優しい痛みが響いた。


 私はお姉様にならなくていいの?

 お姉様ではなく、私を愛してくれるの?

 にわかには信じられない。けどリアム様は、こんな嘘をつくような方じゃないってわかってる。

 そう思うと、急に涙が溢れてきて。


「わ……()……リアム様をお慕いしているんです……! お姉様と婚約していた時から、ずっと……!」

「そうか……ありがとう、嬉しいよ」


 次から次へとみっともなく溢れる涙を、リアム様は指で拭ってくれる。


「これが本当のテレーズなんだな。かわいいよ」


 そっと抱き寄せられた私は、リアム様の胸の中でしゃくり声をあげた。

 リアム様の「愛してる」の言葉を聞きながら──。

お読みくださりありがとうございました。


ブクマ、評価を本当にありがとうございます♪


新作公開していますので、ぜひそちらもよろしくお願いします!

下にスクロールしてもらえれば、リンクから飛べます♪

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