一緒に寝よっ?
サラリーマンです。異世界に転生しました。ごはんはいまいちうまくないです。ティアは一緒に寝たいそうです。もー、一緒に寝ればいいんでしょ寝れば。いいよもうBL展開でもなんでも来い。
なぜか俺はリビングでレェオと一緒にTVを見ている。こいつと一緒にいたいわけではない。ティアがここで待ってろって手振りをするから仕方なく、だ。TVに写っているのは当たり前だが猫人で、どうやらバラエティ番組っぽい。どこが面白いのかわからないけどレェオは大口開けて笑っている。開けている口の歯は人間と同じだった。俺の好みだと猫人には牙が欲しい。だって格好いいじゃん。
『おまたせー』
キッチンに行ってたティアがお盆を持ってきた。リビングのテーブルに食器を並べる。晩飯の準備してたのか。皿に乗った晩飯は丸い団子にミートソースをかけたようなものだった。あとはコップが3つとスプーン。皿もコップもプラスチック製だ。ずいぶんシンプルな食事だな。これだけか。
ただ団子はでかい。握り拳より大きい団子が3個も入っている。スプーンで団子を割って口に入れてみるとジャガイモのニョッキみたいな味だった。保健所で出されたのはマッシュポテトだったし、ここはジャガイモが主食なのか。ミートソースが薄味なのは我慢できるが、両方とも生ぬるいのは熱々好きの日本人にはちょっと辛い。
2個食べたらもう十分満腹になって、3個目は手を付けずにそのまま残す。スプーンをおいてごちそうさまと手を合わせる。それをちらりと見てティアが何か言う。
『ヒロ、食べないの?』
『まずいんじゃねーの?ヒト専用の服着てたくらいだし、相当贅沢な生活してたんだろ。』
『ああ、そうかも…困ったな…。』
『放っときゃいいよ。腹が減れば食うさ。』
『そうだけど。やっぱりヒト用フードの方がいいのかな。』
『甘やかしてるときりがねーぞ。猫と同じ物食わせておけばいいんだよ。』
2人はなんとなく言い合い…まではいかないが、レェオがティアを責めている感じがする。なんかまずいことでもあったのか、それともこの2人はいつもこういう感じなのか。なんか偉そうなんだよなレェオ。そもそも2人はどういう関係なんだろ。兄弟?友達?恋人…いやいやBL展開で考えるのはやめろ。そこに俺がひきとられてきたのがどういうことか、怖いこと想像するだろ!
軽い言い合いをしながら2人は食事をきれいに片付けた。猫人はかなりの大食らいらしい。あれだけ筋肉があれば食べる量も多いだろう。猫なら肉や魚が好きそうなものだがメインが芋か。見た目は猫っぽいけど、俺が知ってる日本の猫がそのまま人間になったわけでもないのかもしれない。そりゃそうか。
そんなことを思いながらコップの水を飲む。日本人的には食後はお茶だが、熱々のお茶というのはこっちにはないのかな。食器がプラってことは、熱々を食べる習慣がないんだろうか。食生活が充実してないのは地味に辛い。
ん?これはもしかして料理を作って「こ、これはうまいっ!」ってなる異世界グルメ展開?米は家畜の食べる物で、あと醤油とか酵母でふかふかパンとか作るんだよな確か。でも俺は醤油や酵母の作り方とか知らんし。なんで異世界グルメって、みんなあんなに醤油とか酵母の作り方とか覚えてるんだよ。普通やんねぇだろ。それより俺はまず塩が欲しい。
俺が頭の中で食生活改善計画を立てている間にティアは食器をキッチンに下げた。レェオは立ち上がり、リビングの隅から鞄を持ってくる。
『ごっそさん。じゃあ俺、帰るわ。』
『今日はありがとう。助かった。』
『何かあったら電話しろよ。すぐ来るから。』
『わかった。大人しいから大丈夫だよきっと。』
レェオの後からティアがついていく。よくわからないけど俺も一緒についていくとレェオは玄関らしい場所で靴を履いていた。帰るのか?買い物にでも行くのか?靴をはいてこっちを見たレェオは渋い顔をした。
『おい…ついてきてるぞ。』
『うん、わかってる。』
『気をつけろよ、ドアを開けたら飛び出すかもしれないぞ。』
『大丈夫、押さえとくから。ドア開けたらすぐ閉めてね。』
『わかった』
二人が何か話した後、ティアが俺を横からぎゅっと抱いた。え?なんだなんだ。その間にレェオはドアノブに手をかける。ドアの隙間から一瞬見えた外の様子は普通の住宅地のようだった。だがレェオはあっという間にドアを閉めてしまった。
ああ、ティアは俺が逃げないように確保してたのか。逃げる…逃げてもどこにも行くところはない。ただ出ようと思えばここから出られることはわかった。さっきレェオはただドアノブを動かしただけでドアが開いた。日本だとドアの内側にはつまんでカチャッと回すやつ…何だっけ…サムターンだ。あれがないってことは玄関のドアに錠がない?
いや、いくら何でもそんなはずはない。中からは自由に開くが、外から開かない…オートロックだろうか。うっかり出たら入れなくなりそうだ。気をつけないと。
『ちょっと早いけど寝よっか?疲れてるよね。ハル、リビングとキッチンの電気消して。』
ティアが何か言うと少しうす暗くなった。リビングの電気が消えたみたいだ。音声アシスタントかな。とするとどこかに端末が…と見回したら玄関の棚の上にあった。だがこれは音声アシスタントというより監視カメラっぽい…と思ったがティアに手を引かれ、最後まで確認することはできなかった。
ティアがドアの一つを開けると、そこにはベッドや机や椅子があった。普段から人が使っている感じの部屋だ。ティアの自室かな。壁には南の島のような風景のポスターが貼ってある。どこかわからないが綺麗なところだ。緑がかった青い海は透明に近い。空に光る物が浮いているが何だろう?
ぼけっとポスターを見ていると腕を捕まれた。ティアはベッドを指さす。ここで寝ろってことか…うん、ちょっと待って。ここ、たぶんティアの部屋だよね?ティアはここで寝るんだよね?ということは俺がティアと一緒に寝ろって…いやいやいやいや、ないないないない。俺、ソファで全然いいです。むしろソファで寝たいです。ソファ大好き!!
固まっているとティアが怪訝な顔をする。
『ヒロ、腕が冷たいね。寒い?』
そのままぎゅっと抱きしめられる。うわうわうわうわ。ちょっとなんですかこれ。いや俺ペットだからいいのかいやいやいやいや駄目でしょ。なにこれホントこの状況は勘弁してくれ。しかも男に抱かれてあったかいとか何考えてんの俺ーーーーっ!
『うーん、ちょっと冷たいけど…ヒトだから大丈夫なのかな。』
心配そうに俺の顔をのぞき込むティアの様子を見て限界が来た。頭がぷしゅーってなった。考えることを放棄した。いいです、もういいです、一緒に寝ればいいんでしょ寝れば。いいよもうBL展開でもなんでも来い。自覚してるよ俺、自分が流されやすい性格だってこと。
諦めて先にベッドに入る。だがさすがにちょっと怖くて背中を向けていると、後から入ったティアが毛布をしっかりかけ直してくれた。後ろから抱かれるかと思ったが、それはなかった。安心したようながっかりし…してません。
よし、これは隣にでっかい湯たんぽが寝ていると思おう。温かい棒だ!無理やりだがそう思えばリラックスできた。そして湯たんぽのおかげで背中がほかほかして、俺はすぐ眠ってしまった。