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こんにちは。ヒロです。

サラリーマンです。異世界に転生しました。黒猫はティアだそうです。ヒロと名前を名乗ったら白猫に馬鹿にされました。なんだこいつすっげえ感じ悪いんだけど。

風呂椅子を指さされておとなしく座ると背中からシャワーをかけられた。そのあとは泡のついたスポンジでこすられる。他人に体を洗われるって…なんか変な気分。なんて呑気は感想は背中や手足をこすられている間で、さすがにスポンジが下腹部にきたときはやばいと思った。手を止めようと抵抗したがもちろん無駄だ。腰を浮かされてスポンジが股の間のお宝まできっちり洗う。ケツの穴まで丁寧に洗われて気力が萎える。もう俺、お婿に行けない…。


全身くまなくこすられてぐったりしているとシャワーでお湯をかけられた。これで終わりか…あれ?顔と頭洗ってなくない?


振り返って黒猫に顔と頭を指さす。黒猫は大丈夫なのか?という表情をしたが、頭の上からそっとシャワーを当ててきた。俺もお湯が髪になじむよう頭をぐしぐしとこする。黒猫が頭に何か付けるとごしこしとこすってきた。横目でちらりと見たらさっき体を洗うとき手に取っていたのと同じボトルだ。ここではボディソープもシャンプーも全部同じなのか。だったらこれで顔を洗っても大丈夫だろう、と垂れてきた泡で顔をこする。ついでに耳と耳の後ろもこすっておく。


うん、体を洗われるのは嫌だけど、頭を洗ってもらうのは悪くないな。リラックスする。お母さんとお風呂に入ってるみたい…いやまだ安心するのは早い。風呂から出て何が起きるかわからないぞ。


今度こそ全身の泡を流し終わると黒猫はドアを開けて俺を押し出した。風呂の前には白猫がバスタオルを手に待ちかまえていた。


「あ、ありがと」


その手からバスタオルを受け取って自分で体を拭く。白猫は変な物でも見るような目で俺を見た。ん?もしかして拭くのもまかせておかないといけない?うーん、この世界の人は自分で体を洗わない、いや洗えない?とすると自分で拭いたりもしないだろうなぁ。まあいいか、これ以上俺の股間を男に触らせたくない。特にこの白猫には。


着替えはどうするか。何か借りるか、着てた服を洗うか。なんて考えたのは杞憂だった。白猫はパンツを差し出した。バスタオルと交換に受け取り前後を確認する。スリットが入ってる方が前だよな、男物だし。パンツをはくと呆れたように白猫が何か言った。


『やっぱヒトって馬鹿だな』


腕を捕まえられパンツを引っ張られた。なんだ?パンツはいたらいけないのか?白猫はパンツを引き下げると俺の右足を持ち上げてぐるっと回した。穴が空いている方を後ろにして足の位置を変えると、よいしょっと言わんばかりにパンツを持ち上げる。何をするだァーッ! パンツくらい自分ではけるわ!畜生。


続いてTシャツを渡される。これはたぶんロゴっぽい物が入ってるのが前だな、うん。しかしなんでスリットが入ってる方が後ろ?穴からうんこするわけでも…とTシャツに頭を通した瞬間に気づいた。あ。そうか、これ猫用の服なんだ。しっぽを出す穴か。


ということは…と最後に渡されたズボンにはやはりスリットが入っていた。そっちを後ろにしてはくと、白猫はつまらなそうな顔した。一度はけば覚えるし!賢くてすまんな!


その間に風呂から出て来た黒猫は部屋着らしいものに着替え終わっていた。床に落ちていた俺の服を手にとり、シャツのポケットを調べて洗濯機に入る。ズボンのポケットからスマホと財布を出して床に置き、ズボンとパンツをまじまじと見ると首をかしげて白猫に話しかけた。


『これテールスリットがない。ヒト専用の服だ。』

『へー、本当だ。贅沢だな。』

『あとここ、小さい布がついてる。文字…なのかな。見たことないけど』

『どれどれ…本当だ。なんだろ、わかんないけど東の国のかなぁ。あそこ鎖国してるから全然わかんないし。』


何を話しているかわからないが、2日間はきっぱなしの洗濯してないパンツをそんなにじっくり見ないで欲しい…。黒猫はちらっと俺の顔を見ると、またパンツを見ながら話し出した。


『東の国…イエローはあっちに多いそうだし、保護局もチップ入ってなかったって言ってたし…あり得るな。大使館とかから逃げ出したのかな。』

『だったらヒト保護局に連絡あるだろ。やっぱりなんかあって捨てられたんじゃないかな。わかんないけど。』


黒猫はパンツとズボンを洗濯機に放り込むと、床からスマホと財布を拾い上げた。


『あとこれ、ポケットに入ってた。』

『スマホ?にしては小さいな…電子メモか?こっちは…財布か。見たことない金だな。』


白猫は財布を開けて中身を調べている。スマホも金も、どっちもこの世界には存在しない物だ。不審に思われているんだろうか。それを見ながら首をかしげて黒猫が何か言う。


『電子メモと財布を持ってるヒトって…補助ヒトかな。でもそんなの捨てるってやっぱりおかしいよ。』

『ヒト専用の服を着せるくらい可愛がってて捨てる、な…。よし、きっと東の国の大金持ちが、猫なんか信用できない!って可愛がってるヒトに遺産を譲ることにした。で、金持ちが死んだか殺されたかして、こいつに遺産を渡したくない奴らが片付けようとしたんで逃げ出した!もしくは捨てた。』

『それって…ドラマの見過ぎだ。』

『どっちにしても何かおかしいな。こいつ、やばいんじゃないのか?保護局に戻そうぜ。トライアル期間内ならペナルティつかないし。』

『逆だよ。だったら戻したらどうなるかわからないじゃないか。』


黒猫は俺にスマホと財布を差し出した。スマホのホームボタンを押したが画面は黒いままだった。どうやら完全に電池が切れたらしい。財布は…どうしよう、この服ポケットないんだよな。とりあえず両方とも手に持っておく。それを見て黒猫はなんとなく悲しそうな顔をする。


『もういらないんだけど…わからないよな。取り上げるのも可哀相だし。うん…先にリビングに連れて行って。』


黒猫が何か言うと白猫がわかったという風に俺の肩を掴んだ。そのまま引っ張られてさっきのリビングにつれて行かれる。なんかこいつ、俺に対して態度悪くないか?いや、こいつに手を握られるならまだこの方がましか。


『あったあった』


何か言いながら黒猫が後からリビングにやってきた。差し出されたのは紺色のショルダーバッグだった。いやこのサイズならサコッシュって言うのが正しいか。これにスマホと財布を入れろってことだろう。うなずいて受け取り、斜め掛けにしてスマホと財布を入れる。


『大事なものだってわかってるんだ。偉いな。』


下を向いている俺の頭の上に何かがポンと乗せられた。それが頭をなでる。顔を上げると黒猫が優しい目で俺を見ていた。何で撫でられてんだろ。というか、男に撫でられてそれでいいのか俺?…いいのか、俺ペットだったよ。よろしくお願いします飼い主さま。


『うん、撫でても平気か。落ち着いたかな。さて…そうだ、名前決めないと。』

『飼いヒトならもう名前あるんじゃないのか?』

『あ、そうか。何て名前だろ?言えるかな。』


黒猫は自分を指さすと『テイィア』と言った。それは俺が聞き取れた限りの音で、「テイ」の後は舌を巻いて振るわせるような音でィィと続く。黒猫は白猫を指さすと『レエェオ』と言った。これも同じ舌を巻くような発音だ。たぶん名前だろう。ということはこれは俺に自分の名前を名乗れと言ってるのか?


俺の異世界知識では本名を名乗ってはいけないことになっている。だから本名ではなく、あだ名を名乗ることにした。自分を指さして「ヒロ」と言う。黒猫は「ヒロ?」と繰り返したが、白猫はぷっと吹き出した。ホントこいつ感じ悪いな。たぶんこっちだとしょーもない名前なんだろう。いやまさかうんことかそういう意味…だったら黒猫が繰り返さないだろうから大丈夫か。


黒猫は自分を指さして名前を繰り返した。


『テイィア』


俺も真似して発音してみる。


「ティア?」

『やっぱヒトって馬鹿だな』


なにか白猫が言って正確に『テイィア』と発音した。わからないけど絶対こいつ俺のこと馬鹿にしている。会社の机の中にあるカシオミニをかけてもいい。黒猫が繰り返し名前を言うが、何回言われても俺にはその音は発音できない。最後は仕方ないと言わんばかりの諦め顔でティアはうなずいた。

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