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誰か拾ってください

サラリーマンです。異世界に転生しました。白猫に馬鹿にされていますが黒猫はなんかいい人っぽいです。とりあえず檻から出してくれませんかねぇ…。

翌日、さすがに餓死させる気はないのかメシは差し入れてもらえた。トレイに乗った食器はすべて白いプラスチックでコップには水、小さめのボウルにはマッシュポテトみたいなものが入っていた。恐る恐る口に入れてみたが、まんまマッシュポテトの味だった。ただ超うす味で全く塩気が足りない。量だけは十分にあるけど…最後の晩餐がこんなのかよ。それでも腹が減ってたから素直に食べた。


食事の後は何もすることがないので、いつもの習慣でスマホを取り出したがアンテナは立っていない。昨日の猫おねえさんはスマホを使っていたが…規格が違うから当たり前か。電池マークが赤いからもうすぐただの板になる。あきらめてスマホをポケットにしまう。


職員らしい猫人が食器を片付けた後、しばらくして檻の前を大人と子供の…おそらく家族連れの猫人たちが通りはじめた。予想通りここは保健所か、それに類した場所なんだろう。人間が犬や猫を引き取るのと同じような場所。だが俺に目を向ける猫人はだれもいなかった。そりゃ人間だって保健所に行けば子犬や子猫をひきとるよな。


何組か通り過ぎたがすべて猫型だった。犬や狼といった猫以外の獣人はいないらしい。髪の色は白だったり茶色だったりグレイだったりメッシュだったり。目の色はよく見えないが黄色かな。日本の猫と同じような色合いみたいだ。後ろ姿を見ると、どうやら服にしっぽを通す穴というかスリットのようなものがあるらしい。歩くとふよふよ動いていて可愛い。触りたい。


ぼんやり見ている俺の檻の前に、真っ白い髪の雄猫が立ち止まった。


『うわ、こいつすっげえ不細工!』


白猫が笑いながら俺を指さした。何を言ってるかわからないが、このツラは俺のことを馬鹿にしている。間違いない。本能でわかる。


『黒髪か…珍しいな。ん?もしかして目も黒い?』


白猫が犬を呼びようにチュッチュと鼠鳴きした。マジ犬猫扱いだな俺。うんざりしながら白猫の顔を見ると青い目をしていた。綺麗な顔立ちだ。認めたくないがキラキラ美形といっていいだろう。


『すっげえ睨んでるw。目も黒だな。レアもんじゃね?』


白猫が振り返った後ろには真っ黒な髪の雄猫がいた。こっちも美形だが白猫より少し地味な…いや、優しそうな感じだ。同じように檻をのぞき込むと不思議そうな顔をする。


『これ、イエローじゃないか?なんでこんなのがいるんだ?』

『イエロー?なんだそれ。まあ大きくなって可愛くなくなったから捨てたんだろうよ。飼うなら子供にしようぜ可愛いし。』

『…うん。』


何を言ってるかわからないのは当然だが、昨日のおねえさんみたいにやたら巻き舌が多い話し方だからこっちの言葉はこういうもんなんだろう。舌や口の構造が人間と違うのかな。これ、言葉覚えても発音できないぞ。まあ…覚えるまで命があれば、だけど。


黒猫は黙ったままじっと俺を見ていた。こっちは黄色の目だ。人の顔に猫の目、しかも美形となると見られてなんだがどぎまぎしてくる。男に見られてそんなこと思うなんて危なくないか俺?


立ち止まったまま、なぜか動こうとしない黒猫に白猫が話しかけた。


『…気になるのか?』

『まあね』


黒猫は手のひらを格子に押し当てた。なんだろな、拾ってくれるんだろうか。だったら今のうちに『おれ可愛いです』アピールすべきなんだんろうか。といって腹出してひっくりかえるのもなぁ…と思いながら、なんとなく手を合わせてみた。間に柵があるから直接触れることはないけど温かいような気がする。


『そんなのかまってないで行こうぜ。保護局のサイトに可愛い子が出てたんだ。まだいるかな。』


白猫は檻の前から離れて歩き出した。黒猫は当てていた手を離すと、にっこり笑って手を振った。つられて俺も愛想笑いして手を振る。それを見て、白猫の後を追うように黒猫は檻の前からいなくなった。あ、やっぱり腹だしてひっくりかえるべきだった。さよなら俺の人生。


しばらくするとブザーのような音がした。柵の上が明るい。外に明かりがついたのか?扉が開くわけでもないが…なんだろう今の?ベンチから立ち上がり、ダメ元で扉を押したり引いたりしてみたがやはり動かない。これ、思いっきり蹴飛ばしたら駄目かな。脱出ゲーなら部屋の隅に鍵とか隠しボタンとかあるはずなんだけど。


異世界転生から脱出ゲーに思考が逃避し、それでも念のためにとベンチの下をのぞき込む。探し物をしているとなんだか体がだるくなってきた。いきなり調子悪くなるなんて…あるかも。昨日あんまり寝れてないし、妙なことがいきなりたくさん起きすぎて予想以上にストレスかかってるんだろう。立ち上がって一度伸びをし、ベンチに横になる。毛布をかぶろうかと思った時にはもう俺は眠ってしまった。

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