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サラリーマンです。異世界に来ました。

サラリーマンです。異世界に転生しました。そしたらいきなりとっ捕まって檻に押し込められました。…なんだよこの異世界転生クソだろ!

サラリーマンです。異世界に来ました。そしたらいきなりとっ捕まって檻に押し込められました。


えー、ライブでお伝えしますと縦横2m、高さ3mくらいの四角い檻の中にいます。天井も床も壁もプラスチックのような材質でできていて、一方だけ格子状の柵になっています。以上現場から中継でした。


…なんてふざけていないと神経が持ちそうにない。ため息をついて壁に取り付けられた板、クッションがあるのでたぶんベンチ兼ベッドに座る。檻の中にはこのベンチと毛布、あとはトイレが奥の方にある。隠す物がなくて丸見えだけど。


柵の向こうは通路、その向こうは壁になっている。壁に窓はないが、通路の天井に明かりがあるので暗くはない。ときどき人の声や物音が聞こえるところからすると横並びに檻が並んでいる気がする。この世界の留置場みたいなところだろうか。いったいここはどこで、俺はどうなったんだ?


数時間前は会社の飲み会で居酒屋にいた。課長がタバコが切れたっていうから、点数稼ぎに『じゃあ俺がコンビニまで買いに行ってきます』って座敷を出た。店のドアが開いたとき、何か変な匂いがしたんだ。オゾンの匂いとでもいうのか?なんだか金気臭いような匂いがした。


おかしいとは思ったが気のせいだろうと、雑居ビルの狭い階段を降りているとき目の前で何かぱっと光った。まぶしいと目を閉じたのと、階段から足を踏み外したのは同時だった。いや足を踏み外したというより、そこにあるはずの一段下の階段が消えていたというか。


すかっと足が宙を踏んで、危ない!っと思った次の瞬間はもう地べたに座り込んでいた。落ちたにしてはおかしい。階段から落ちてこんなことですむわけがない。もっと衝撃があって、どかどかと落ちているはずだ。


恐る恐る立ち上がったが体に異常はなかった。なんだったんだ今のは。おかしいが考えても仕方ない。とりあえずコンビニに行くか…と周りを見た瞬間、俺は自分が全く知らない場所にいることに気づいた。


いま落ちた階段はある。出てきたビルもある。だがビルの1階がケータイショップじゃなかった。明かりが消えているので中はよく見えないが、なんとなく本屋っぽく見える。店の看板も日本語じゃない。英語でもないし…タイ語?スワヒリ語?文字?記号?なんだよこれ。初めて来た店ならともかく、何度も利用している居酒屋だ。間違えるはずはない。


怖くなって店に戻ろうと慌てて階段を上がってみたが、そこはもう居酒屋じゃなかった。事務所のようなドアは固く閉ざされ、やはり知らない文字の札が下がっていた。思わずドアをガンと叩いて絶望的な気分でつぶやく。


「…勘弁してくれよ。異世界転生かよ。転生ボーナスはどうなってんだよ。」


こういうときはあれだ、お約束のあれ。空間に手をかざして声に出して言う。


「ステータス!」


やけくそで叫んでみたが何も出てこなかった。くそ、空間にステータス画面が出るんじゃないのかよ。そういうもんだろうが!


頭を抱えて階段に座り込む。持ち物はポケットの中のスマホと財布。あとは着ている服と靴だけだ。せめてジャケットを着てくればよかった。鞄と一緒に座敷に置いたっきりだ。


はー、どうしょう。


俺の異世界転生知識によると、まずは近くの町や村に行くのが定石だ。だがここはもう街中だから、ギルドやマーケットで人を探して情報を得るのが次のステップかな。さて俺の役どころは何なんだろう。チート使えないけど勇者なんだろうか。いや営業だしなぁ。格闘系はちょっと無理かも。魔法使いとかティマーとかかな。


どっちにしても座っていたら何も起きないのだけは確実だ。それにもう夜だ、早く宿屋を見つけないといけない。宿屋のおかみさんが美味いメシを出してくれるのもお約束だし。


腹をくくってよいしょと腰をあげ、階段を降りる。ビルの前でぐるりと見渡したが、見るからに都市の一角だ。周りをビルに取り囲まれている。都市なら転生物のお約束、ゴブリンやイノシシが出ることもないだろう。身の安全は保証されていると考えてよさそうだ。


窓に明かりがともっているし街灯もある。ということは、電気かそれに類する魔法はある文化的都市ということだ。だが道には誰もいないし、路面店は閉まっている。ということはこっちの深夜帯なのか?うーん、わからない。わからないけど、とりあえず人がいそうな場所を探して明るい方に歩いてみるか。


それでも一応は注意しながらゆっくり進む。暗い空を見上げてみたが月は2つ出ていなかった。星は少し見えたが、そもそも俺は星座の見方を知らないので地球の星座とあっているかどうかわからない。


俺の記憶では角を曲がると駅前ロータリーがある。そろりと様子をうかがってみると、確かに駅舎のような建物はあった。だが車道はなく、たくさんの草木が植えられた広場になっていた。さすがに駅前?だけあってまだ人がいた。花壇の間を行き来したり、ベンチに座ったりしている。


服装は日本とだいたい似た感じか。杖を持っているマントの魔法使いも、鎧を着ている騎士もいない。ファンタジーじゃないのか…。しかし明らかに武器らしい物は持ち歩いてない、いやそれ以前に夜に人が丸腰で歩いている、歩けるというのは治安が良くて安全ということだ。よかった、いきなり暴力沙汰はサラリーマンにはご勘弁だよ。


サラリーマンといえばスーツを着ている人がいない。わりとラフな感じだ。これなら俺がネクタイ抜きの会社員スタイルで歩き回っても、じろじろ見られるほどの違和感はないだろう。ただ服装以前に大変な点が違っていた。歩いている人のお尻にしっぽがついてる…。猫のように長いしっぽが、歩くとバランスを取るようにふよふよ動く。よく見ると頭の上に猫耳がついていた。獣人か!やった、とうとうファンタジーになった。


だが獣人がいるとすると、この世界の俺みたいなのはどういう扱いなんだ?そもそもこういう耳でしっぽがない奴がいるのか?…わかんないな。考えていても仕方ない、誰かに話しかけて情報を仕入れないと。こういうときは日本語が通じることになってる!異世界転生のお約束!


さりげない風を装いつつ、話しかける相手の目星をつける。歩いている人よりベンチに座っている人の方が相手をしてくれそうか?できれば女性の方が…と思って近づく俺に気づいたのか、女性がこっちに目を向けてにっこりと笑った。


猫耳以外は普通の女性…ではない。美人だ。大きな目、つんと上がった鼻が猫っぽくてかわいらしい。髪は金髪と茶色のメッシュだ。猫で言えば茶虎と言うのか?こんな美人が普通にそこらにいるってことは、俺はオークの亜種とか思われないよな?大丈夫かな。


着ている服は上は普通の白いブラウス、下はふわっとした紺色のスカートだ。おしゃれな服と言うより実用的な…こっちの世界の会社員だろうか。女性だが体が大きい。俺と同じくらいの体格だ。欧米人くらいがこっちの標準なのか?


まず話しかけないと何も始まらない。思い切って声をかける。


「あ、あの…すみません。」


話しかけたが女性はにこにこと笑っているばかりだった。言葉が通じないか…そうだよな、異世界転生漫画だと転生先の人が日本語喋ってるけど、あれはどう考えてもおかしいし。


女性は何も言わずにベンチの隣を叩いた。座れってことか?


微妙に高いベンチに腰を下ろして女性の顔を見る。近くで見てわかったが目は緑がかった黄色で、瞳孔が丸い。暗いときの猫の目だ。相変わらずにこにこ笑ったまま、傍らまで近づいてくるとそっと俺の頭に手を乗せて優しくなでた。これは…意味は分からないけど、少なくとも敵意はなさそうだ。


『いい子ね、どこから来たの?』


甘ったるい声で話しかけてきたが聞いたこともない言葉だ。俺が知っているどの国の言葉とも違う。やたら舌をまくような発音が多い、ちょっと真似できそうにない発音だ。


女性はバッグからスマホ?っぽい物を出し、それに向かって話しかけた。


『もしもし、ヒト保護局ですか?いま駅前の公園にいるんですけど、迷子のヒトを見つけて。…ええ、猫なつっこいので飼いヒトだと思います。』


何を言ってるかわからないが、たぶんスマホで当たりだろう。けっこう文明が進んでいるらしい。知り合いか誰かに電話をしているんだろうか。待ち合わせの相手か?


「あ、あの…」

『迷子なのね。飼い主が心配してるわよ。』


俺の頭をなでながら何かわからない言葉をささやく。なんだろ、子供扱いされている気がする。悪い人じゃなさそうだけど、これ以上何か起きる気もしない。あーもう、どうしよう俺。お姉さん俺のこと飼ってくれませんか?そりゃないな。


諦めて立ち上がろうとするといきなり腕を捕まれた。えっ?と思う間もなく、引き倒されてベンチにうつぶせになる。背中から両腕を押さえ込まれ、逃れようとしても全く歯が立たない。すごい力だ。いくら体格がいいったって、こんなの女性の力じゃない。


『あー、逃げちゃだめ。もうじき保護局の猫が来るから。』


その間も女性はなだめるように何か甘い言葉をささやいている。どういうことだ?何が起きてるんだ?俺、話しかけたのまずかった?


諦めて押さえ込まれたまま大人しくしていると、複数の人の足音が聞こえた。バチッという音が聞こえると同時に体に衝撃が走り、俺は気を失った。


 ***


気がついたときにはこの檻の中で寝ていた。まったく何だったんだよあれ。首筋がまだなんとなくピリピリする。まさかスタンガンじゃないよな…アメリカの警察かよ。日本なら野犬だってそんな捕まえ方しないぞ!…ん?野犬?


気がついてぞっとした。あの猫おねえさんがスマホで誰かに電話をして、その後俺が捕まった。あれは誰かをスマホで呼んで捕まえさせたんじゃないか?つまりこの世界の人間はあの猫人で、俺みたいなのは「人間」じゃない。そこにいるだけで捕まえて閉じ込めないといけないのは…野犬みたいな危険な生き物だ。


だとするとここは人間のための留置場ではなく…野犬を収容する…保健所かもしれない。いらなくなった犬や猫を収容する場所…となると俺の運命は…なんだよこの異世界転生!クソすぎるだろ!

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