魔女狩りにあいましたが、私幸せになります。
むかしむかし。
遙か時の狭間に悠久の風を吹かせ、漂う超常現象と自然現象の全てを魔法と呼ばれていた頃。
魔法を扱える者は軒並み神格化され、時には救世主として、時には英雄として、時には悪魔として恐れられて、崇められた。
そんな時代があった。
そんな時代もあった。
超常現象が魔法であるなら、発展した科学も同様に魔法となるのか。はたまた、解明された不可思議はただの空気中に浮かぶ塵や埃へ太陽の光が当たることによる乱反射だと言われたものを、魔法となるか。
それとも、摩訶不思議となるか。
それとも、ただのゴミだと一蹴されるか。
多くは後者であり、今まで魔法だと言われてきたことはただの『現象』と片付けられ始めた時、それらを神秘的に扱う者達も同様に片付けられ始めた。
「いや! やめて!」
小麦畑に囲まれた村の中、一人の蜂蜜色で艶やかな髪色の女性が二人の男性に身動きを封じられていた。
それでもなんとか逃れようとするも、全く抜け出せる気配はない。
「諦めるのじゃ。お主が魔女である以上狩らねばならぬ」
そんな女性を遠くから眺めていた老人が諭すように吐き出す。
女性は魔女であった。
そして、彼女は狩られるのだ。
そのことが理解できた女性は、少し棒読みな拒絶の声を上げる。
「いや。いや! 私、狩られないから!」
そして、女性の目の前に困惑した表情の男性が立ち尽くしており。その男性へ向け、わざとらしく演技をしながら。
「誰がこんな面が良くて、家事もしてくれそうで、困った時は手を差し出してくれそうで、進んで皿洗いとかお風呂とかトイレ掃除をしてくれそうで、体調が悪い時は温かなご飯とか消化に良さそうなご飯を作ってくれそうな、優しくて気遣い上手でふとした瞬間に男性的な一面を見せてくれて胸を輝かせてくれそうな男性になんて狩られないから!」
そんな虚偽の声をあげた。
無論、魔女狩りというのも世界から魔女と呼ばれる女性を根絶する取り組みのことで、語呂がいいだけの理由で採用されたが、あまりにも本質とはかけ離れた内容のためにネガティブな印象を与える言葉になってしまった。
その実態は、未だに魔法を信じてしまったが故に婚期を逃した女性へ、器量が深くともなかなか相手が見つからない男性をあてがう、ただのお見合いなのだ。
つまり、この女性はただお見合いすることを恥ずかしがっているだけで、嫌がっているフリをしているだけで、本心は凄まじく胸をときめかせているのだ。
「じゃあ、今回の話は無かったことに――」
「さぁ! お話をしましょう! お茶も出しますわ! お茶菓子は何がお好きかしら!?」
引き下がろうとした男性をガッシリ掴む女性。
その目は必死そのものであった。
「は、はい。まずは、この村のことを見て回りたいのですが、案内していただけますか? お茶はその後にゆっくりとお願いします」
「はい! 喜んで!」
男性の提案に二つ返事で応える女性。
そんな彼女は、無事お見合い相手の男性と添い遂げ、子宝にも恵まれた。
彼女は魔女狩りに合って尚、幸せな一生を過ごしたのだった。