第10回 消された過去
岩城博士はこの町に関して語り始めた
「この町はもはや取り残されたも同然。今や名も失った様なもの。私や赤木は『赤い町』と便宜的に名づけた。」
喜一「どう言う事でしょう。」
「かつては栄えた町だった。しかし15年前に伝染病が流行ってな。多くの死者を出し、人々は離れていった。だから現在この町に残るの人間はほんのわずかだ。」
千夏「伝染病ですか。」
「ひどいものだった。私や赤木は免れたが・・・。警察も病院も無い。もう町として機能しなくなった。だから本来の名前も抹消された。それも当時は騒がれたが今や無かった事にされている。」
喜一「ありえないでしょう。いくらなんでもそんな・・・。」
「・・・伝染病には町長と一人の科学者が関わっていた。とある実験で生み出された病原体が蔓延し何百人も死にいたらせた。責任を負われ町長は辞任。後任も無いまま、ここは自然消滅したんだ。」
千夏「一体何をしようとしてたんですか?」
「・・・詳しくは私もわからん。その事の発端の科学者も罪の意識に耐えかねて自害した。被害者の遺族はぶつけ様の無い怒りに今も嘆いているだろう。」
喜一「この町が静かなのも、そんな理由があったからなんですね。」
町を一人の青年が歩く。
「なんだかこの町は、赤い。キレイだけど、静かすぎる。」
目の前を1台の黒い外車が通る。
「通り過ぎちゃったか。上手くいけば何とか帰れたかもしれないのに。・・・あれは、人が住んでるのかな。行ってみよう。」
車には中年の男と、秀、考、愛華が乗っていた。
男は運転しながら3人に向かって話す。
「私に任せておけ。あんな老いぼれ引っさらう事等雑作もない。」
秀「そ、そうですか。」
考「それはそれは」
愛華「頼もしい事で。」
「しかし教祖もいよいよ長年の決着を着ける気か。」
秀「教祖、ですか?」
「なぁにこっちの話だ。いや、その内わかるかもな。」
愛華「何だか変な事になってきたね。」
考「逃げ出したいな・・・。」
岩城博士は一人で思い悩んでいた
(全ては話す必要は無い。目的は彼らを無事に帰す事だ。この町の過去は、無理に言う事は関係ない)
喜一と千夏は隣の部屋で食事する。
喜一「やっとご飯だ。気がつけばお腹も減ってたんだ。」
千夏「ホント。助かったわ。」
喜一「それにしても、さっきの話気になるな。」
千夏「私も、まだ何かありそうよ。曖昧だったじゃない。」
喜一「うん。でも無理やり聞くのも嫌だしな。」
千夏「あの人も、もしかして関わってるのかな。」
喜一「どうだろうねぇ。」
インターホンが鳴る
喜一「おや、誰か来たみたいだ。」
千夏「でもたずねてくる人って。」
「私が出よう。恐らく奴らだ。性懲りも無くまたきやがった。」
銃を構えて玄関に向かう
千夏「持ってるよ。銃。」
喜一「とめた方が良いんじゃ・・・。」
ドアを開けると銃を構えた男が立っていた。
後ろには3人組みがいる。
「なんだお前は!」
博士が怒鳴る様に言う。
「岩城博士。我々についてきてもらおう。」
「何を!誰がついていくか!」
銃を構える岩城
男は引き金を引く
すると銃口から煙が噴出す
催眠ガスだ。
たちまちその場に倒れる岩城
喜一達はそこにかけつける
千夏「博士!」
喜一「何をしてるんだあんたは!」
3人組が博士の体を運び出す。
「・・・お前達も眠ってもらおうか。」
つづく