真実
『おおい、起きろ』
男性とも女性とも聞こえる声と、ほほをたたく感覚に起こされた。
『お、やっと起きた』
「ここは?」
なぜか立ったまま寝るという不思議な状態に困惑しながら周りを見渡すと、目の前には長い髪の毛が羽のように広がっていて、体のラインがわからないゆったりとした服を着た人物が立っていた。
その人物の顔をよく見ようとすればするほどすごくワイルドな男性とも、すごく艶美な女性とも見えて、頭がおかしくなったような気がしてくる。
『あまり、私を直視しないほうがいいよ。ただの人間が私を直視ししすぎると錯乱するらしいからね』
私の質問には答えず、忠告してくる。
『さて、あなたは死にました。ここは死後の行き先を決める場所となっています』
そういって大げさに手を広げて、髪も大きく広がった。
『せっかく現世から切り離されたあなたに特典として、真実をお伝えしましょう』
「真実?」
心の中で閻魔大王(仮)とかってになずけた相手から告げられた言葉に最初意味が分からなかったが、身の覚えがあり身を乗り出した。
『おお、そんなに気になるかえ?じゃあまず。あなたのプロフィールから』
「そんなのどうでもいい。”えりな”のことだろ早く教える」
『まあまあ、物事には順番があるんだから』
そういって足元に写真が落ちてきた。
『東京都生まれ東京都育ちのあなたは、16歳時点で身長194cm体重100kg越えと恵まれた体格に生まれ持ったセンスで、当時所属していたギャングのナンバー2にまで上り詰めることになる。その時に付き合い始めたのがその写真の少女”えりな”だね』
「ああ、そうだ」
『ナンバー2にまで上り詰めた影響でデート中だろうがお構いなしに襲われていたあなたたちに不幸が訪れる。それはなんてことない単なる事故。ヘルメットをかぶっていれば問題なかったただの転倒事故であった』
次に足元に落ちてきたのは当時の事故の写真だった。先ほどの少女の写真とは違い拾い上げる気にはなれなかった。
『1月生死の境をさまよったあなたが起きた時には同じ病院に”えりな”はおらず、やっと見つけた実家に行くと”えりな”の父親から罵声とともに植物状態になっていることを聞かされ追い返されてしまった。それでもめげずに何度も足を運び、医療費の一部を負担することを約束して、実家を出てアルバイト生活をし始めたのが5年前』
「ああ」
『そして、1年ごとに医療費が上がったとの理由で毎年上乗せされる金額を律儀に振り込んだと』
手元の写真を見つめていても、馬鹿にしたような目線で見られていることがわかる。
『ばっかだよね。”えりな”は植物状態になんてなってないのに。まあ、親父がくずなんだけど。最初はあなたみたいなくずから引き離すためについた嘘だったんだろうけど、あなたから奪ったお金をすべてギャンブルにつぎ込んでたんだよ』
閻魔大王(仮)の話に涙がこぼれてきた俺に対し、さげすむような笑い声が聞こえてきた。
『ほんとばっかだね。これが今の”えりな”だよ』
足元に落ちてきた2枚の写真には、大きなおなかを抱えてスーツをびしっと決めた男性に腰を抱かれ幸せそうに微笑む女性の姿と、新居と思われる家をバックに赤ちゃんを抱え俺をだました親父と一緒に写っていた。
『そこに写っている通り、今ではあなたを忘れて旦那を迎えて楽しく過ごしています。あなたは”えりな”のために頑張っていたつもりだろうけど、滑稽だね』
写真を見て、とうとう涙が止まらなくなった。
『なになにそんなに悲しいいの?』
その声に大きく頭を横に振った。
『え?』
「うれしいんだ。もう一生動くことはないといわれていた”えりな”が子供まで生まれてこんなに幸せそうに笑っていることがうれしいんだ。確かに俺のもとからはいなくなってしまったが、もともと死んでしまった身で、”えりな”の無事を知ること以外に幸せなことはない」
それにと、言葉を飲み込んだ。
子供を抱いている写真の右薬指には自分の人差し指とペアーになる指輪が輝いていた。
『はーつまんない。なんで人間て私の予想を裏切るの?』
「そこは何とも言えませんが、最後に真実を教えてくれてありがとう」
涙を流しながら深々と頭を下げ最大の感謝をささげた。
『何なの、何なの。つまんない。』
ふてくされた子供のように空中に胡坐をかき、すね始めてしまった。
「あの。思い残すこともなくなったので、そろそろ自分の行き先を決めてください」
『はぁ。あ、そうだ。君はまだ死ぬには早いから今流行りの異世界転生させてあげる』
退屈そうにしてたのにいきなり飛び跳ね最初と同じように手を大きく広げ宣言した。
「異世界転生?」
『ああ、ただ異世界に放り込んだりはしないよ。ちゃんとこれまでの生きざまに応じたスキルをプレゼントするから期待しててね』
「え?スキル?」
『じゃあ行ってらっしゃい』
そう閻魔大王(仮)が言うと足元が抜けて落ち始めた。
慌てて何かをつかもうと右手を挙げるがすでに遅く、そのまま落ちていく。
落ちていく瞬間に右手の指輪に光が当たった気がしたが、それより落ちる怖さで意識を手放した。
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