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ともだちの魔法使い  作者: 楠羽毛
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羽島莉子

 そして、ふたたび、夜──

「……ねえ、ダース」

 ぼんやりと焦点のあわない目で、ぬいぐるみを軽く持ち上げて、菜月はぶつぶつと呟いた。

「あれさあ、ちょっとおもしろいと思わない? あのさあ、あの、みちあるき同好会? だっけ。なんかそういうの。でもさあ、行ってみて合わなかったらちょっとヤダっていうか、男の子ばっかりだったりしたらさ、困るよね。活動は面白くてもさ、そういうのってちょっと困るっていうか──」

 そこまで一息に喋って、ふっと黙りこむ。

 ころんと、力が抜けたようにベッドに横になって、ダースを抱きしめたまま、

「……ねえ。魔女って、なんだか知ってる?」

 むろん、答えはない。

 じいっと、プラスチックの目をみつめて、

「羽島莉子のことを、ちょっと調べてみたの。……二年前に川に沈んで、亡くなったと思われてるけど、遺体はまだ見つかってない。それが、今になって戻ってきたなんて……あるはずが、ないよね」

 羽島家は、すぐ近くだ。口さがない田舎のこと、万一、そんなことがあれば、とっくに噂になっているはず。

 だとしたら、あれは。

「私、……夢でも見たんだ、きっと。」

 そんなはずはない、と胸のおくでは思いながら。

「美羽は、……大丈夫かな。」

 答えはない。

 ダースの、硬い小さな目が、じっとこちらを見返してきていた。



 悪夢を見た。



 翌朝、菜月は完全に寝坊して、かりかりと指をふるわせながら改札をくぐった。電車で一時間。駅から、走っても十五分。どうしたって間に合わない。

 焦っても仕方ない、と自分に言い聞かせながらも、脂汗は止まらない。

 電車のドアが開くやいなや、走る。といっても、大学まで息は続かない。百メートルもいかずに、ペースが落ちる。

 講義室の前に着いたのは、授業が始まって20分ほど経ってからだった。

 息を落ち着かせる。

 そっとドアをあける。できるだけこそこそとなかに入り、なにか言われたら、すみません、遅刻しました、とだけ言う。頭のなかで3回、シミュレートする。

 手が動かない。

 いつもの、大柄な准教授の声がきこえる。声音がきゅうに大きくなり、心臓が跳ね上がる。ただの、先生のいつものくせだ。わかっているのに。

 もう、3分たっている。

 息ばかりが荒くなる。ちっとも、呼吸が落ち着かない。心臓も。

 目をとじる。また、あける。

 手が動かない。


 ふう、と深呼吸。


 菜月は目をつむって、あるきだした。廊下を、玄関にむかって。

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