よりこさん
「やっぱり、二人だと寂しくって。ねえ?」
上機嫌にご飯をよそいながら、よりこさんはいった。
よりこさんは、菜月の母方の叔母にあたる。すらりと、細い手足をかくすように、白いマキシスカートと紺の長袖に身をつつんで。背はみあげるほど高く、ちいさなイヤリングが耳元に。
二重まぶたの、ちょっと年より老けてみえる美人。
今日は、美羽の父親が残業だとかで、なかば強引に夕食に誘われてしまった。美羽の兄も、塾で遅くなるらしい。まだ高校一年生だというのに。
高橋の本家。ひろい屋敷に、いま、住んでいるのは彼らだけ。ほんの10年前は、年寄りがもう3人いて、にぎやかだったのだが。
「菜月ちゃんは、偉いよねえ。」
ひじきの煮物に、肉じゃがに、焼いたほっけ。それから、お味噌汁。
大きなダイニングの、きれいな、白いテーブルクロスのうえに、ずらりと。
「──大に、一発で受かるなんて。姉さんも鼻が高いでしょう。」
「そう、……でしょうか。」
母が、菜月の受験についてどうこう言うのを聞いたことがない。合格発表の日に、少し夕食が豪華になったくらいか。
「ウチは、お兄ちゃんも普通だし。……ねえ。」
美羽は食卓についているのに、さっきから一言も喋らない。食も進んでいないようだ。
かたかたかた、と椅子がゆれる音がする。
「美羽、……足。」
ぴしりと、やわらかい紐で叩くような声で、よりこさん。
部屋のなかが、じんわりと冷えた。